夜の住宅街を抜け、一行は裏山へ向かっていた。
「本当に来るの?」
#朔夜が聞く。
「来るよ」
のび太は自信満々だった。
「前にも乗ったことあるから」
「前例があるなら安心だな」
もっとも。
未来世界の列車が裏山へ迎えに来る時点で安心という言葉とは程遠い気もする。
そんなことを考えているうちに――
遠くから汽笛が聞こえた。
ポォォォォォ――――ッ!
次の瞬間。
星空の下を銀色の列車が滑るように現れる。
まるで夜空そのものを走っているようだった。
「来た!」
のび太が叫ぶ。
巨大な列車はゆっくり減速し、朔夜たちの前で停止した。
車体側面には大きく、
[chapter:MYSTERY TRAIN]
の文字。
未来世界の観光列車。
ミステリートレインである。
◇
乗り込んだ一行は思わず息を呑んだ。
車内は高級ホテルのような内装だった。
赤い絨毯。
磨き上げられた金属装飾。
広々とした通路。
「すご……」
しずかが感嘆する。
「豪華だな」
ジャイアンも目を丸くしていた。
その様子を見ていた#朔夜はふと思った。
そして隣のドラえもんを見る。
「なあ」
「なに?」
「お金あったっけ?」
ドラえもんの動きが止まった。
[newpage]
「え?」
「一号車だけならまだ分かる」
#朔夜は周囲を見回す。
「でも二号車まで貸切なんだろ?」
「……」
「そんな金あった?」
沈黙。
露骨な沈黙だった。
ドラえもんは目を逸らす。
「まあ細かいことは気にしないで」
「怪しい」
「怪しいね」
ナツメも頷く。
ドラえもんはさらに視線を逸らした。
◇
そんな中。
しずかが思い出したように言った。
「そういえばね」
「?」
「この列車の先頭には天文デッキがあるの」
「天文デッキ?」
「うん」
しずかは嬉しそうだった。
「すごく綺麗なの」
その言葉にのび太が反応する。
「行こう!」
「賛成!」
「見たい!」
一気に盛り上がる。
だが。
ドラえもんだけが嫌そうだった。
ものすごく嫌そうだった。
「えー……」
「?」
「ドラえもん?」
「ぼくはいいかな……」
「なんで?」
「これ」
ドラえもんは人数分のチケットを取り出した。
「チケット渡すから代わりに行ってきて」
「行けよ」
#朔夜は即答した。
「なんで嫌なんだよ」
「いやその……」
歯切れが悪い。
明らかに怪しい。
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#朔夜はナツメを見る。
ナツメも気付いていた。
さらにトウマも。
三人の視線が交差する。
そして。
無言のまま意思疎通が成立した。
悪い顔である。
◇
数分後。
「さあ行こうドラえもん」
「いやだ」
「行こう」
「いやだって」
「ほら」
「嫌な予感しかしない!」
結局。
ドラえもんは半ば引きずられるように天文デッキへ向かった。
[newpage]
その途中。
制服姿の車掌が現れた。
「乗車券の確認をさせていただきます」
非常に丁寧な対応だった。
チケットを見せる。
車掌は確認する。
それだけ。
何事もなく終了した。
未来世界の列車らしい。
実にスムーズだった。
◇
やがて天文デッキへ到着する。
大きな透明ドーム。
その向こうには宇宙が広がっていた。
「おお……」
思わず声が漏れる。
惑星。
星雲。
流星。
地球では到底見られない景色だった。
のび太など感動して涙目になっている。
今年の自由研究が天体観測なのも納得だった。
#朔夜はふと思う。
ドラえもんが嫌がる理由になっていない。
景色は綺麗だし。
設備も素晴らしい。
何が問題なのか。
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その時だった。
遠くから怒鳴り声が聞こえた。
「だから君は話を盛りすぎなんだ!」
「盛ってない!事実です!」
「事実なら証拠を出せ!」
「そっちこそ!」
二人の人物が言い争いながら近付いてくる。
一人は立派な口ひげを生やした警察関係者らしき男。
もう一人はメモ帳を持った記者風の男。
周囲の乗客が少し距離を取っている。
かなり目立っていた。
#朔夜がそちらを見る。
ナツメも見る。
トウマも見る。
そして。
ドラえもんを見る。
「……」
ドラえもんは。
今までで一番嫌そうな顔をしていた。
「あっ」
#朔夜は察した。
「知り合いか」
ドラえもんは答えなかった。
代わりに深々と顔を覆う。
「なんでいるの……」
その呟きだけが漏れた。
そして次の瞬間。
言い争っていた二人の視線が、こちらへ向く。
ドラえもんの表情がさらに曇った。
どうやら。
平穏な列車の旅にはならないらしい。
そんな予感が、#朔夜の胸に静かに芽生えていた。