ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第九十一話

ミステリートレインの天文デッキは、本来なら静かに宇宙の景色を楽しむための場所なのだろう。

巨大な窓の向こうには色鮮やかな星雲が広がり、遠くには青白く輝く惑星がゆっくりと流れていく。

まるで宇宙そのものを額縁に収めたような光景だった。

――本来なら。

「だから私は言っているのだよ!」

その怒鳴り声が響くまでは。

「何度も聞きましたって!」

別の怒鳴り声が重なる。

せっかくの景色も台無しである。

「……うるさ」

#朔夜は思わずそちらへ視線を向けた。

通路の向こうから二人の男が言い争いながら歩いてきている。

一人はベージュ色のトレンチコートを羽織った中年男性。

刑事ドラマに出てきそうな格好だった。

もう一人は小型端末を片手に持った記者らしい男。

どちらも周囲の迷惑をまったく考えていない。

「歴史犯罪者が脱獄しているというのに!」

トレンチコートの男が言った。

「そんな状況でミステリートレインを運行するとはどういうことかね!」

「だから安全確認は済んでるんです!」

記者が反論する。

「それに私は専属記者ですよ! 普段から乗ってます!」

「だからと言って油断は禁物だ!」

「後から乗車してきたのは警部の方でしょう!」

まるで終わる気配がない。

周囲の乗客たちも露骨に迷惑そうな顔をしていた。

[newpage]

「元気だねぇ……」

ナツメが呆れたように呟く。

「元気っていうか騒がしいだけじゃない?」

しずかが苦笑する。

すると。

「あ」

警部が足を止めた。

「あ」

記者も足を止めた。

二人の視線が同じ方向へ向く。

その先にいたのは――ドラえもんだった。

「げっ」

ドラえもんの顔が引きつる。

嫌な予感しかしない。

だが既に遅かった。

二人は同時に駆け寄ってくる。

「ドラえもん君!」

「ちょうど良かった!」

そして。

「君はどう思うかね!?」

「お前はどう思うんだ!?」

綺麗に重なった。

見事なまでに同時だった。

ドラえもんは天井を見上げた。

[newpage]

「なんでぇ……」

小さな悲鳴にも似た声。

「何か言ったかね?」

「聞こえなかったぞ」

「なんでもないよ!」

ドラえもんは慌てて首を振った。

しかし二人は気にせず話を続ける。

「君もそう思うだろう!」

「思わないよね!?」

「いや、だから!」

「だから何ですか!」

再び始まる口論。

ドラえもんの表情がどんどん死んでいく。

その様子を見ていた#朔夜とナツメ、それにトウマは顔を見合わせた。

「ドラえもん」

「可哀想だな」

「可哀想だね」

三人の意見は一致した。

もっとも。

助けに入るつもりは誰もない。

少し離れた場所で面白そうに眺めているだけである。

[newpage]

そんな時だった。

「うっさいんだけど」

女性の声が響いた。

低く、よく通る声だった。

場が一瞬で静まる。

声のした方向から、一人の女性が歩いてくる。

長い髪。

鋭い眼差し。

そしてどこか只者ではない雰囲気。

ボームの表情が一気に明るくなった。

「マリンバさん!?」

一方で。

マスタード警部の顔は露骨に曇る。

「マリンバ君……」

「なぜここに!?」

二人の声が重なった。

女性――マリンバはため息をつく。

「こっちの台詞なんだけど」

そう言いながらドラえもんを見る。

ドラえもん。

マスタード警部。

見知らぬ記者。

三人が集まっている光景。

それを見た瞬間。

マリンバの目が細くなった。

(何かある)

賞金稼ぎとしての勘がそう告げていた。

何かを隠している。

何かを追っている。

そうでなければ、この組み合わせは不自然すぎる。

[newpage]

 一方。

ドラえもんの頭の中では別の警報が鳴っていた。

(終わった.....)

完全に終わった。

警部がいる。

記者がいる。

そして賞金稼ぎまで来た。

絶対に何か起きる。

百パーセント起きる。

平和な旅行など夢のまた夢だった。

「それで?」

マリンバが腕を組む。

「何の話?」

「実はだね!」

マスタード警部が語り始める。

「歴史犯罪者が脱獄しているのだよ!」

「警部!」

ボームが慌てて止める。

「その話は!」

「何か問題があるかね?」

「ありますよ!」

また始まった。

マリンバの目が怪しく光る。

歴史犯罪者。

脱獄。

その単語だけで十分だった。

(賞金首?)

もしそうなら大仕事だ。

だが、まだ情報が足りない。

もっと詳しく聞かなければ。

[newpage]

少し離れた場所では。

「……」

「……」

「……」

#朔夜たちも同じことを考えていた。

重要な話だ。

間違いなく。

そして。

面白そうだ。

「聞く?」

ナツメが小声で言う。

「聞くか」

#朔夜が頷く。

「聞こう」

トウマも乗った。

三人は自然な動きで近づいていく。

まるで偶然近くを通りかかっただけですよ、という顔で。

もちろん全員演技は下手だった。

ドラえもんだけがその様子に気付く。

(やめてぇぇぇぇぇ!!)

心の中で叫ぶ。

しかし誰も止まらない。

こうして。

警部と記者と賞金稼ぎ。

そして聞き耳を立てる少年少女たち。

それぞれの思惑を抱えたまま、ミステリートレインの夜は静かに――いや、まったく静かではなく更けていくのであった。

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