天文デッキの一角。
本来ならば宇宙の絶景を眺めながら優雅な時間を過ごすための空間。
しかし今、その一角だけは妙な空気に包まれていた。
マスタード警部。
ボーム記者。
賞金稼ぎのマリンバ。
そしてドラえもん。
なんとも面しr、....濃い面子である。
少し離れた場所では#朔夜たちが聞き耳を立てていた。
もちろん本人たちは「たまたま近くにいるだけ」という顔をしている。
◇
「さて」
マスタード警部が咳払いをした。
ようやく話を本題へ戻す気になったらしい。
「で、なぜ君たちはこの列車に乗っているのだね?」
質問は三人へ向けられた。
まず答えたのはマリンバだった。
「慰安旅行」
一秒で終わった。
「以上かね?」
「以上」
「本当にかね?」
「本当」
マリンバは平然としている。
だが警部は納得していない。
そもそも賞金稼ぎが慰安旅行と言っている時点で怪しい。
本人も怪しまれていることを分かった上で言っている顔だった。
次にボームが答える。
「私は取材ですよ」
こちらは即答だった。
「ミステリートレイン専属記者ですから」
「ふむ」
「普段から乗ってます」
「ふむ」
「むしろ後から来たのは警部ですよね?」
「それとこれとは話が別だ!」
即座に反論が飛ぶ。
話が脱線しそうになったところで、警部は視線をドラえもんへ向けた。
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「では君は?」
「え?」
「なぜ乗っているのだね?」
ドラえもんは少しだけ視線を逸らした。
言いたくない。
とても言いたくない。
だが三人とも見ている。
仕方なく口を開いた。
「……優待券が来てたから」
「ほう」
「それだけなら良かったんだけど」
ドラえもんは遠い目をした。
「いつもの子たちにバレちゃって」
「うむ」
「仕方なく」
「うむ」
「みんなで来ることになったんだ」
数秒の沈黙。
そして。
「なにそれ!?」
マリンバが吹き出した。
「面白ッ!」
腹を抱えて笑い始める。
「いや本当に大変だったんだって!」
「優待券が来てたのに隠そうとしてたの!?」
「だって絶対騒ぐじゃん!」
「騒ぐでしょうね!」
マリンバは大爆笑だった。
涙まで浮かべている。
「笑いごとではない!」
マスタード警部が叱る。
「列車の安全についての話をしているのだよ!」
「いやいや、だって」
マリンバはまだ笑っている。
「優待券がバレて連れて来られたって」
「連れて来られたわけじゃないよ!」
「似たようなものでしょう?」
反論できなかった。
ドラえもんが黙る。
図星だった。
少し離れた場所では。
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「確かに」
#朔夜が頷いた。
「確かに」
ナツメも頷いた。
「確かに」
トウマも頷いた。
三人とも同じことを思い出していた。
ドラえもんがミステリートレインの話を隠そうとしていたことを。
そして、のび太が盛大に反応したことを。
あれは確かに逃げられない。
ドラえもんに同情の余地はあった。
少しだけ。
◇
「ふむふむ」
一方。
ボームはいつの間にか手帳を取り出していた。
さらさらと何かを書き込んでいる。
「何を書いているのだね?」
警部が聞く。
「記事のネタですよ」
「記事?」
「ええ」
ボームはにやりと笑った。
「ミステリートレインを救った英雄たちが再び乗車」
「面白いでしょう?」
「勝手に記事にしないでよ!」
ドラえもんが悲鳴を上げた。
「大丈夫です」
ボームは真顔で答える。
「まだ記事にはしてません」
「まだって言った!?」
「取材段階です」
「絶対書く気じゃん!」
また騒がしくなる。
マリンバは笑い続けている。
ボームはメモを取り続けている。
マスタード警部は頭を抱えている。
ドラえもんは疲れ切っている。
誰一人として話を前に進めようとしない。
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「……」
#朔夜は思った。
さっきまで重要な話をしていたはずである。
歴史犯罪者。
密航者。
列車の安全。
そういう話だった気がする。
だが今はどうだろう。
優待券の話になっている。
「全然進まないな」
ナツメが呟く。
「進まないね」
トウマも同意した。
まったくその通りだった。
むしろ後退している気さえする。
しかし。
それでも三人はその場を離れなかった。
なぜなら。
何か起きそうだからだ。
この面子が揃って何も起きないはずがない。
そんな予感だけは確かにあった。
そしてその予感は――まだ誰も知らない形で、少しずつ現実へと近づいていたのである。