ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#第九十四話

「太陽系の次は、オリオン座β星系を通過いたします——」

展望デッキに、いつもの社内アナウンスが静かに響いていた。

窓の外では、ゆっくりと星々が流れていく。巨大な惑星の縁をなぞるように、ミステリートレインは宇宙空間を滑るように進んでいた。

だが#朔夜は、その光景に違和感を覚えた。

(……あれ?)

列車が“動いている”はずなのに、感覚が噛み合わない。

揺れも加速感もない。ただ窓の外だけが、設定通りに流れているように見えるだけだ。

それに——

アナウンスが告げる「通過中の天体」と、実際に展望デッキから見えている星が一致していない。

今アナウンスされている星は、すでに後方に流れているはずの位置にある。

つまり。

(これ……別の天体に対して喋ってる?)

現実の位置と表示情報が、わずかにズレていた。

だが周囲の乗客たちは誰一人として気付いていない。

歓声を上げる者、写真を撮る者、ただ景色に見入る者。

違和感を持っているのは、#朔夜だけだった。

(ドラえもんに聞こう)

そう思って立ち上がる。

 

 

だが、自分たちの号車に戻ってもドラえもんの姿は見当たらなかった。

「いない……?」

普段なら必ず誰かと一緒にいるはずだ。

嫌な引っかかりだけが残る。

#朔夜は視線を上げる。

(機関室……)

入れるとは思っていない。それでも確認するしかなかった。

展望デッキより前方へ向かうにつれ、車内の空気が妙に静まり返っていく。

乗客の声も足音も薄くなるような感覚。

やがて機関室前の廊下に出た。

そこにあるはずの扉は——

わずかに開いていた。

[newpage]

隙間から、声が漏れてくる。

「……救難信号の識別はまだできないの?」

「ミステリートレインの登録データには該当なしだ。既知の所属には存在しない」

「厄介な……航路内での外部信号という可能性は?」

「否定できない。ただし、この信号は“周期的に変調”している」

#朔夜は息を止めた。

中にいるのはドラえもんと、マスタード警部、そして車掌。

何か重大な話をしている。

本来なら立ち入るべきではない空間。

だが耳に入ってしまった単語があった。

——救難信号。

(救難……信号?)

思わず、小さく声が漏れた。

「……救難信号……」

その瞬間だった。

「誰だ!」

鋭い声が室内から飛ぶ。

ドラえもんが即座に扉の方へ視線を向けた。

「そこにいるのは……#朔夜くん?」

完全に見つかっていた。

#朔夜は一瞬固まり、そしてゆっくり扉を開ける。

「……ごめん、聞こえちゃって」

機関室の空気が一段重くなる。

マスタード警部が険しい表情を浮かべる。

「乗客がここに入るのは禁止されているはずだが」

しかしドラえもんはそれを制した。

「……いや、今はそれどころじゃない」

#朔夜は一歩踏み込む。

「さっきの救難信号って、何?」

ドラえもんはすぐには答えなかった。

代わりに車掌が端末を操作しながら言う。

「この列車の航路内で、正体不明の救難信号を検知しているんです」

「航路内……?」

#朔夜は眉をひそめる。

「はい。外部ではなく、このミステリートレインの進行ルート上で発信されています」

マスタード警部が低く呟く。

「だが記録上、この列車の所属・識別に該当する信号源は存在しない」

ドラえもんは静かに言った。

「つまり、“登録されていない誰か”が、この航路のどこかにいるってことだ」

その言葉に、#朔夜の背中が冷える。

救難信号。

それは助けを求める信号。

しかし——誰から?

そしてなぜ、この列車の航路内に?

[newpage]

その時だった。

端末が再び反応した。

ピッ——

短い電子音の後、ノイズ混じりの声が流れ込む。

「……こ……え……るか……」

途切れ途切れの人声。

だが確かに“誰かの声”だった。

#朔夜は息を呑む。

そのまま、無意識に言葉がこぼれた。

「……救難信号……」

静寂。

次の瞬間。

「今、何と言った?」

ドラえもんの声が低く落ちる。

マスタード警部も、車掌も、一斉に朔夜を見る。

#朔夜はようやく自分が口に出してしまったことに気付いた。

「え……あ、いや……その……」

だがもう遅い。

空気が一気に張り詰める。

列車の外では、相変わらず天体が静かに流れている。

だがその“流れ”だけが、どこか現実とずれているように見え始めていた。

——この列車は、まだ動いているのか。

それとも、すでにどこかで止まっているのか。

#朔夜の問いは、まだ誰にも届いていなかった。

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