「避難信号って!助けにいかなくちゃ!」
展望デッキに響いたナツメの声と同時に、彼女は腕に装着したウォッチを構えた。呼び出すのは当然のように妖怪たちだ。
だがその瞬間、朔夜はふと冷静になる。
(……いや待て。妖怪って宇宙空間で活動できるのか?)
空気も重力もない場所で、いつもの調子で動けるとは思えない。そもそも呼吸の問題がある。百人一首の句よりも現実的な疑問が頭をよぎった。
その横でドラえもんは、珍しく即断していた。
「とりあえずこれ使おう」
取り出したのはテキオウ灯だった。
ナツメはすぐに頷き、ウォッチを起動する。
「お願い!来て!」
次の瞬間、光と共に現れたのは――
青龍、コマさん、そしてキュウビ(ライトサイド)。
「うわっ!?」「な、なにこれぇ!?」
マスタード警部と車掌が同時に叫び、後退した。
だがドラえもんは慣れた様子でテキオウ灯を三体に照射する。
光に包まれた妖怪たちは一瞬戸惑うが、すぐに身体の違和感が消えたことに気付く。
その様子を見て、ナツメは満足げに頷いた。
しかし――異変はそこからだった。
テキオウ灯の影響か、あるいは宇宙環境の刺激か、コマさん達の雰囲気が微妙に変化する。
「……なんか、ちょっとカッコよくなってない?」と#朔夜。
コマさんはキリッとした目で前方を見つめていた。
一方でマリンバだけは目を輝かせていた。
「なにこれ最高じゃん。宇宙で怪獣ショー?」
完全に楽しんでいる。
ドラえもんはため息をつきながら車掌へと手を伸ばした。
「トランシーバー貸してもらえる?」
救難信号の発信位置を特定するためだ。
車掌は震えながらも装置を差し出す。
「こ、これで……避難船の位置が分かるはずです……」
機器に表示された座標を確認し、ドラえもんは短く頷いた。
「行くよ!」
次の瞬間、青龍がゆっくりと前に出る。
ナツメがその背へ飛び乗る。
コマさんは少し戸惑いながらも、続いた。
#朔夜も一瞬ためらう。
しかしもう止まる理由はなかった。
テキオウ灯の光が一行全員を包み、宇宙空間へと解き放つ。
ミステリートレインの外へ出た瞬間――
眼前には、無数の星と、遠くに漂う巨大な避難船のシルエット。
救難信号の発信源がそこにあった。
[newpage]
その頃、列車内の個室で資料を書いていたボームはふと窓の外を見て固まる。
「……は?」
そこには――
青龍に乗って宇宙を飛ぶドラえもん一行.。
完全に報道の範囲を超えた光景だった。
ボームはペンを落とす。
「スクープとかいう次元じゃないんだが……?」
宇宙は今日も静かに狂っていた。