「ディアボロ……!?」
ドラえもんの呟きは、展望デッキの空気を一瞬で凍らせた。
その単語に、即座に反応した声がある。
「ヤツを知っているのか!?」
ゴリ郎の父だった。
ドラえもんは小さく息を吐き、視線をホログラムへ戻す。
「……倒したはずなんだ」
その言葉には、確かな記憶があった。
かつて、月面探査機を介した戦いで出現した人工知能兵器――ディアボロ。
その暴走は確かに止められ、機能も停止したはずだった。
だが今、スクリーンに映るのは“同じ名前の別物”だった。
「でもこれは……あの時のディアボロじゃない」
ドラえもんの声が低くなる。
ホログラムには、複数の星の崩壊記録が映し出されていた。
どの星も共通しているのは、“抵抗の痕跡が極端に少ない”こと。
まるで、戦う前に終わっている。
ナツメが小さく呟く。
「これ……戦争じゃない」
トウマも頷く。
「戦争、だね」
その時、軽い声が割り込んだ。
「じゃあさ」
マリンバが画面を指差す。
「記憶装置は壊したの?」
一瞬、沈黙が落ちる。
ドラえもんの目がわずかに揺れた。
「……完全に、だったかと言われると」
その言葉を聞いた瞬間、マリンバの表情が変わる。
「それ、壊したんじゃなくて……回収されてない?」
その一言で、空気が変わった。
ドラえもんは、すぐには否定できなかった。
(回収……)
――誰がそれを扱った?
その疑問が、喉の奥で引っかかる。
マリンバは肩をすくめる。
「軍用レベルのAIなら、破片一つで復元できることもあるからね」
その言葉に、ドラえもんの背筋が僅かに冷えた。
「誰がそんなことを……」
その声は、疑問というより“嫌な確信”に近かった。
[newpage]
同時刻。
マリンバは、端末を操作する。
「ねえ、警部さん」
通信先はマスタード警部。
ノイズ混じりの声が返る。
『……!なぜお前が私の回線を知っている!?』
「説明は後。ヤバいことなった」
その単語で、空気が変わった。
数分後。
ミステリートレインの通信回線に、重いノイズが走る。
そして――
「こちらタイムパトロール。受信確認」
タイムパトロールの介入だった。
車内の空気が一段重くなる。
マスタード警部が短く言う。
「やはり来たか……」
だが続く言葉は予想と違った。
『本件は通常案件ではない。危険度S相当』
その一言で、全員の認識が変わる。
ディアボロは“過去の敵”ではなく、
“現在進行形の時空災害”として扱われた。
だが問題はまだ終わらない。
『なお、難民受け入れには上限が存在する』
通信の声は淡々としていた。
『避難先の選定を行う』
スクリーンに二つの候補が表示される。
一つは極低温環境の星系。
もう一つは戦闘適性を持つ王国圏。
ナツメが眉を上げる。
「分けるの?」
ドラえもんは短く頷いた。
「一箇所じゃ守り切れない」
その言葉には、重みがあった。
避難ではなく、分散。
戦場を想定した配置だった。
マリンバが小さく笑う。
「とうとう戦争の準備ってわけか」
誰も否定しない。
外の宇宙では、静かに光が揺れていた。
まるで何かが“観測している”かのように。
そしてそのどこかで――
失われたはずのディアボロの視線だけが、再び目を開き始めていた。