転生したら雪音クリスだったので、曇りポイントを撃ち抜きます 作:ブラックだあああぁぁぁぁぁ(小並感)
「父の言葉が、今の君を動かしてるのか?」だと、幼少期クリスにしては少し客観的で硬い。
今回は、**「じゃあ……今も、その父さんの言葉が残ってるんだな」**に変えて、ぽつりと受け止める感じにする。
## 具体例
# 知らない金髪少女に悩み相談した結果
あの施設へ通うようになってから、雪音家の日常は少しだけ変わった。
朝食の時間が消えたわけではない。パパのバイオリンも、ママの歌声も、おやつの匂いも、ちゃんと家の中にある。けれど、カレンダーには検査の日が増え、ママの手は前より少し長く私の肩に置かれるようになった。
パパも同じだ。何も言わない時ほど、こちらをよく見ている。私がぼんやりしていると「疲れたかい」と聞いてくるし、歌の話題になると、ほんの少しだけ表情が硬くなる。
守れた日常に、知らない影が差し込んでいる。
それを作ったのは、たぶん私だ。
「クリス、今日は少し出かけるけれど、一緒に来る?」
ママにそう聞かれた時、私はスプーンを握ったまま少し考えた。
行き先は、音楽関係者の集まりらしい。海外支援の形を見直したことで、国内や安全な場所からできる文化交流やチャリティーの話が増えている。危険な場所には行かない。そう約束してくれた上で、二人は二人なりに音楽で誰かを助ける道を探していた。
だから、止める理由はない。
むしろ、一緒にいた方が安心できる。
「行く」
「即答ね」
「……別に、心配してるわけじゃないし」
「そうなの?」
「ちょっとだけ」
ママが笑う。パパも新聞の向こうで肩を揺らしていた。
私は少しだけ頬を膨らませる。強気な雪音クリスを目指す計画は、家の中ではほとんど機能していない。おやつに釣られるし、寝起きはぽやぽやするし、両親の前ではどうしても甘さが出る。
でも、それでいいのかもしれない。
あの未来の雪音クリスは、傷ついたから強がった。なら、今の私が同じ形をしていないのは、最初の戦いに少しだけ勝てた証拠でもある。
そう思うことにした。
会場は、思ったよりも落ち着いた場所だった。
大きなホールではない。古い洋館を改装したような建物で、廊下には絵画が飾られ、中庭には小さな噴水がある。日本にいるはずなのに、少しだけ異国の匂いがした。音楽関係者や支援団体の人たちが静かに言葉を交わし、時折、弦楽器の音合わせが聞こえてくる。
安全そうだ。
少なくとも、銃声も煙もない。
けれど、私は素直に安心できなかった。あの施設で奏と翼に会ってから、頭の中に別の緊張が残っている。あの二人は生きていた。笑っていた。だからこそ、あの未来を絶対に近づけてはいけないと思った。
でも、未来を変えれば、知らない未来になる。
両親を守った。奏に会った。翼にも会った。私はもう、知っていた流れの外側へ足を踏み出している。なら次に何が起きるのか、正確には分からない。
「クリス、疲れた?」
パパが聞いてくる。
「んー……ちょっとだけ」
「少し休むかい?」
「大丈夫。子ども扱いすんな」
「子どもだろう?」
「それはそう」
素で返してしまい、パパに笑われた。
会場の中は大人ばかりで、話も難しい。私はママの隣でしばらく大人しくしていたが、だんだん頭がぼんやりしてきた。知らない人の挨拶。支援の方針。安全確認。音楽の力。どれも大事なのは分かるが、子どもの体には少し重い。
「中庭にいる」
そう告げると、ママは少し心配そうにこちらを見た。
「一人で大丈夫?」
「見えるところにいるから」
「遠くへ行かないこと」
「分かってる」
そう言って中庭へ出る。
冷たい空気が、頬に触れた。室内のざわめきが少し遠くなる。中庭には背の低い植え込みと、古い石造りのベンチがあった。噴水の水音が小さく響いている。私はベンチに座り、足をぶらぶらさせた。
静かだ。
静かすぎて、考えたくないことまで浮かんでくる。
私は本当に、正しいことをしているのだろうか。
両親を守った。これは間違っていない。奏を守りたい。これも間違っていない。セレナのことも、いつか何とかしなければいけない。覚えている悲劇は、全部撃ち抜きたい。
でも、撃ち抜いた先に何があるのかは分からない。
あの未来では苦しんだ人が、この未来では別の形で苦しむかもしれない。救ったつもりの人が、別の誰かを傷つけるかもしれない。私が知っているから変えるのではなく、私が怖いから変えようとしているだけではないのか。
「随分と重い顔をしているな」
声がした。
顔を上げる。
中庭の反対側に、少女が立っていた。
金色の髪。幼い姿。けれど、子どもらしい柔らかさとは違うものを纏っている。背筋はまっすぐで、視線は妙に深い。服装は会場の雰囲気に紛れているのに、その場だけ切り取られたような違和感があった。
歳は、私とそう変わらないように見える。
でも、絶対にただの子どもではない。
「それ、初対面の子どもに言うことじゃないだろ」
警戒しながら返す。
少女はわずかに目を細めた。
「子ども扱いしてほしいのか?」
「……それは、それで困る」
「ならばちょうどいい。私も、子ども扱いされるのは好かん」
何だ、この子。
言葉が古い。態度も妙に堂々としている。見た目だけなら小さな女の子なのに、中身は大人よりずっと古いものを見ているような気がする。あの施設の大人たちとも、奏や翼とも違う。もっと別の種類の危うさがあった。
近づかない方がいい。
そう思った。
なのに、少女は自然にこちらへ歩いてきて、少し離れた場所に腰を下ろした。許可を取るでもなく、距離を詰めすぎるでもない。こちらが逃げるなら逃がすが、逃げないなら話してやる。そんな態度だった。
「お前は、この集まりの者の子か」
「まあ、そんな感じ」
「音楽家か」
「パパとママはね」
「お前は?」
「……まだ、分かんない」
そう答えると、少女は少しだけ興味を示した。
「分からぬ?」
「歌うのは嫌いじゃない。でも、歌うだけじゃ済まないかもしれないから」
言ってから、しまったと思った。
また余計なことを言った。相手が子どもに見えたせいで、少し気が緩んだのかもしれない。いや、子どもに見えるだけで、この少女は明らかに普通ではない。普通ではない相手に、普通ではない話をしてどうする。
少女は、こちらをじっと見た。
「歌とは、時に人を救う。時に人を傷つける。時に、世界そのものに手をかける」
「……言い方が物騒なんだよなぁ」
「事実だ」
「いや、そうかもしれないけど」
妙に否定しづらい。
この世界では、本当に歌が世界を動かす。救いにもなるし、兵器にもなる。そんなことをこの子が知っているのか、それともただ妙に大人びたことを言っているだけなのか、判断できない。
「お前は、何を恐れている?」
少女が聞いた。
直球だった。
私は口を閉じる。初対面の相手に話すことではない。ましてや、何者か分からない相手だ。怖いものなんて山ほどある。ノイズも、あの施設も、白衣の人も、未来のズレも、自分の知識も、全部怖い。
けれど、一番怖いものは決まっている。
「大切な人が、いなくなること」
気づけば、そう答えていた。
少女の目が、ほんの少し変わった。
「親か」
「……うん」
「親を失うのは、恐ろしいか」
「怖いよ」
そこだけは、迷わなかった。
私はまだ両親を失っていない。失う未来を知っているだけだ。それでも怖かった。夢に見る。煙と銃声と帰ってこない人の気配だけで、体が震える。今ここで生きている二人を見ているからこそ、失うことが怖い。
「君は?」
聞き返すと、少女は少しだけ空を見上げた。
「私の父は、世界を識ろうとした」
答えになっているようで、なっていない言葉だった。
でも、その声には重さがあった。からかいでも、背伸びでもない。彼女にとって、それは何度も噛み締めた言葉なのだろう。
「世界を、識る?」
「見えるものだけでは足りぬ。聞こえるものだけでも足りぬ。人がなぜ生まれ、何を遺し、何を失い、どこへ至るのか。父は、それを識ろうとした」
「……学者?」
「似たようなものだ」
少女は、噴水の水面を見つめたまま言う。
「少なくとも、ただ夢を語るだけの男ではなかった」
「そっか」
「父は言った。もっと世界を識れと。見たもの、聞いたもの、触れたもの、奪われたもの。すべてを刻み、忘れるなと」
「……厳しい人だったんだな」
「優しい人でもあった」
その一言だけ、声が少し違った。
私は少女を見る。横顔は静かだ。けれど、その奥には何か燃えるようなものがある。懐かしさなのか、怒りなのか、悲しみなのか分からない。たぶん、全部混ざっている。
私にも少しだけ分かる。
大切な人を思う気持ちが、優しいだけで終わらないことくらいは。
「じゃあ……今も、その父さんの言葉が残ってるんだな」
「そうだ」
少女は短く答えた。
それだけなのに、妙に重かった。
返事の中に、誇りも、痛みも、諦めの悪さも混ざっている気がした。父親の言葉を大切にしている。ただ懐かしんでいるだけではない。その言葉に縛られているようにも、その言葉を支えにしているようにも見えた。
「大切な者が失われる未来を知っていたら」
少女が言った。
私は思わず背筋を伸ばす。
「どうする?」
「……私が聞こうと思ってたのに」
「先に問うた方が勝ちだ」
「勝ち負けなのか」
「この世の大半はそうだ」
「やっぱり物騒なんだよなぁ」
少女は小さく笑った。
それから、私の答えを待つ。
逃げられない空気だった。別に脅されているわけではない。けれど、この子の前で適当な嘘を言っても意味がない気がした。見た目ではなく、もっと奥を見られているような感覚がある。
「私は」
言葉を探す。
「変えたい」
「なぜ」
「いなくなってほしくないから」
「それだけか」
「それだけじゃ駄目?」
「駄目ではない」
少女は静かに言う。
「だが、それだけで運命を曲げるなら、曲げた後に残るものも背負うことになる」
胸が痛くなった。
その通りだと思った。何もしなければ両親は危なかった。何もしなければ奏も危ない。何もしなければ、セレナもきっと救えない。選んだから責任が生まれる。責任が怖いからといって選ばなければ、失うだけだ。
こんな話、初対面の子どもにすることではない。
でも、目の前の少女は子どもではない気がした。
少なくとも、私と同じくらいには。
「じゃあ、君ならどうする?」
聞くと、少女は迷わず答えた。
「壊す」
「うわ、即答」
「大切な者が失われると知っているなら、その筋書きを壊せばいい。世界がそれを定めたというのなら、世界の方を疑えばいい」
「言い方が強い」
「弱い言葉で曲がるほど、運命は素直ではない」
強い言葉だった。
怖いくらいに。
でも、その言葉に少し救われた自分もいた。壊せばいい。疑えばいい。撃ち抜けばいい。言い方は違うけれど、たぶん私がやろうとしていることと近い。原作を守るためではなく、大切な人を失わないために未来へ手を出す。
それは、本当に許されるのだろうか。
「でも、変えたせいで別の誰かが傷ついたら?」
「その時は、その傷にも手を伸ばすだけだ」
「簡単に言うなぁ」
「簡単ではない。だが、選んだ者には責任が残る」
少女は淡々と言う。
「何も選ばぬ者には、何も救えぬ」
その言葉は、優しくなかった。
けれど、間違っているとも思えなかった。
私はしばらく黙った。噴水の水音が聞こえる。会場の中から、ママの歌声がわずかに漏れてきた。音がある。生きている人の音がある。それを守りたいと思う気持ちは、間違いではないはずだ。
「君、変な子だな」
「お前に言われるとは思わなかった」
「まあ、私も変だけど」
素直に認めると、少女はわずかに目を丸くした。
それから、小さく笑った。
「自覚があるなら結構」
「君は?」
「私が変であることなど、今さらだ」
「それはそれでどうなんだ」
少しだけ、空気が緩む。
不思議だった。警戒しなければならない相手のはずなのに、話しやすい。年上ぶってくるくせに、こちらを子ども扱いしない。物騒なことを言うのに、こちらの恐怖を笑わない。
たぶん、そのせいで油断した。
「私さ」
言ってから、自分で驚く。
少女は黙って聞いている。
「変な夢を見るんだ。まだ起きてないこととか、知らないはずのこととか。たぶん、ただの夢じゃない」
「ほう」
「そのせいで、色々怖い。大切な人を守りたいけど、守った後に何が変わるのか分からない」
言葉が止まらなかった。
あの施設でも言えない。両親にも言えない。奏や翼にも言えない。未来を知っているなんて、言えるはずがない。だからずっと、夢という形に押し込めてきた。けれど、その夢の重さは消えない。
「私の中には、たぶん私だけじゃないものがある」
小さく言う。
「今の私が覚えてることと、昔の私が覚えてることが、ぐちゃぐちゃになってる。子どものはずなのに、子どもじゃないことを知ってる。なのに体は子どもだから、すぐ眠くなるし、おやつは食べたいし」
「最後は必要な情報か?」
「大事」
「そうか」
少女が少しだけ笑った。
それから、彼女はふいに真顔になる。
「お前は、面白いな」
「急に何」
「子どもの器に、収まりきらぬほどの想い出を抱えている。だが、それに摩耗している様子がない」
想い出。
その言葉に、ぞわりとした。
ただの思い出ではない。少女の口から出たその言葉は、もっと違う響きを持っていた。重さがある。測るような、扱うような、燃料を見るような響き。
「……何言ってんだ?」
「分からぬなら、それでいい。今はな」
「今は、って何」
「いずれ分かる」
「それ、嫌な予感しかしないんだけど」
「予感とは、よく当たるものだ」
「余計嫌だよ」
少女は楽しそうに目を細めた。
まずい。
これは、かなりまずい相手かもしれない。私はようやく冷静になってきた。さっきまで話しやすいと思っていたが、話しやすいから安全とは限らない。むしろ、自然にこちらの奥へ入ってくる分、危ない。
「名前」
私は聞いた。
「君の名前、聞いてない」
少女は答えようとした。
その瞬間、遠くからママの声が聞こえた。
「クリス?」
反射的に振り返る。
中庭の入口に、ママが立っていた。少し心配そうな顔をしている。しまった。思ったより長く話し込んでいたらしい。慌てて返事をする。
「今行く!」
そう言ってから、すぐに少女の方へ向き直った。
だが、そこにはもう誰もいなかった。
「……え?」
ベンチの隣は空っぽだった。
歩き去る足音もない。植え込みが揺れた気配もない。さっきまで確かにいたのに、最初から誰もいなかったみたいに消えている。噴水の水音だけが、何事もなかったように続いていた。
背中に冷たいものが走る。
普通じゃない。
絶対に普通じゃない。
「クリス、誰かと話していたの?」
ママが近づいてくる。
「……金髪の子」
「この会に来ている子かしら」
「たぶん。でも、名前聞きそびれた」
自分で言って、また胸がざわついた。
名前を聞こうとした。聞けなかった。聞けなかったのではなく、聞かせてもらえなかったような気がする。そう思うのは考えすぎだろうか。
ママは私の顔を覗き込んだ。
「怖い顔をしているわ」
「んー……変な子だった」
「クリスがそう言うなら、よほどね」
「それ、どういう意味?」
「ふふ」
笑ってごまかされた。
私はママに手を引かれ、会場へ戻る。廊下を歩きながら、何度も振り返った。金色の髪は見えない。古めかしい声も聞こえない。ただ、少女の言葉だけが胸の奥に残っている。
想い出。
摩耗していない。
選んだ者には責任が残る。
そのどれもが、知らないはずなのに、知っている何かへつながりそうで怖かった。
会場に戻ると、パパが私を見て少し安心したように笑った。音楽がある。大人たちの話し声がある。安全な場所のはずだった。けれど、私はさっきまでいた中庭の方が気になって仕方なかった。
知らない金髪の少女。
ただの偶然の出会い。
そう思いたかった。
でも、そう思い込めるほど、私はもうこの世界を信用していない。
帰りの車の中で、私は窓の外を見ていた。
ママが隣で眠そうな私の髪を撫でる。パパは前の席で、今日の会の資料を確認している。穏やかな帰り道だった。何も起きていない。誰も襲われていない。危険な場所にも行っていない。
なのに、胸の奥だけがざわついている。
「想い出、か……」
小さく呟く。
「クリス?」
「なんでもない」
慌てて首を振る。
ママは不思議そうにしながらも、それ以上は聞かなかった。私は窓の外へ視線を戻す。街の明かりが流れていく。どこかの硝子に、一瞬だけ金色が映った気がした。
気のせいだ。
そう思うことにした。
でも、耳の奥に少女の声が残っている。
何も選ばぬ者には、何も救えぬ。
その言葉は、優しくはなかった。けれど、間違っているとも思えなかった。未来を変えると決めた以上、私は選ばなければならない。怖くても、ズレても、責任が残っても。
なら、次に会った時は名前を聞こう。
そう思った。
今の私は、まだ知らない。
その相手に名前を聞くことが、どれほど厄介な扉を開くことになるのか。
そして、中庭の影で金髪の少女がひとり、誰にも聞こえない声で呟いていたことも。
「子どもの器に、摩耗なき膨大な想い出。……面白い」
少女は口元をわずかに歪めた。
「また会うだろう、雪音クリス」
その声は水音に紛れ、誰にも届かなかった。