生簀の祭宮 作:ももはね
二月二十九日。四年に一度の閏年にしか存在しない特別な一日。
とある歴史ある屋敷の中に四人の年若い巫女のような格好をした少女たちが居た。巫女服、であるが、各所に特殊な改造が施されており丈の長さ等々と体を動かし易いようになっている。走ったりだとか、物を投げるだとか、そう言った動きに全くと言っていいほど支障は出ないだろう。
それを囲うように顔を隠した白装束の集団が立ち並んでいる。頭髪から足先までを長い白の布で隠し、汚れ一つないその姿は不気味な神聖さすら醸し出していた。
白い集団の内、一人が前に出て小さくも威厳ある声を響かせた。
「
一人の巫女が前へ出る。
四人の内、最も小柄な少女。体格に合った幼い顔立ちであり、手足も細い。歳のほどは小学生か中学生ほどだろう。
幼い顔はやる気に満ちており、厳格な雰囲気に見合った硬い表情をしてはいるが緊張はなく、ただただ正面を見据えている。
「
一人の巫女が前へ出る。
四人の内、二番目に背の低い少女。すらりと長い手足や顔は薄らと日に焼けており、活発な様相を持つ。年齢は成熟を目前に控えた十代中頃だろう。
活発的な若い顔でありながら、整った美しい顔立ち。それを僅かに愉快に歪ませており、神聖な空気には似合わない軽薄さと共に白装飾を眺めていた。
「
一人の少女が前へ出る。
四人の内、二番目に背が高い少女。四人の内で最も大人らしい姿である。幼さは残るが、子供であることを終えようとしている時期の顔。体の肉感は少女ではなく女性らしさがあった。
恐怖と緊張の入り混じった顔。しかし、決意と覚悟を感じさせる目である。彼女の、正面から一瞬だけ逸らされた目線の先には一際小さい白い影が複数映っていた。
「
一人の少女は、前へ出る。
四人の内、最も背が高い少女。しかし、曲げられ猫背となっており、それでもなお一番大きい。手足も、胸も尻も、一番デカい。歳のほどは幼さと若さの中間というべき十代中頃か。
恐怖、怯え、緊張。様々な負の感情の闇鍋の如き目はぐるぐるとして、俯いた顔はガチガチに固まっていた。
「……以上、四名を此度の儀式における『生簀候補』とする」
+ + +
暫くして。
白い集団はおらず、四人の乙女たちが並んで黄昏色に染まった古い町並みを歩いていた。なお、カゲコだけは一歩から二歩遅れているので『並んで』というのは誤りかもしれないが。
そんな中でアカリは足を止めると後方のどんよりした雰囲気の彼女を見つめ、薄ら笑いと共に声を掛ける。
「カゲコちゃーん。そんなビビってて大丈夫そ?」
軽薄な態度のアカリに、カゲコは狼狽えながらも目線を石畳から日焼けた少女へと移した。だが、飄々としながらも猛禽類のような鋭い眼差しと目が合ってしまいすぐに逸らしてしまう。
「っあ、その……」
「あっはは、ウケる。駄目そー」
「っ……うぅ」
嘲笑するアカリと、俯いて情けない敗北の声を漏らすカゲコ。イジメのような様子を見兼ねたトウコは腰に手を当てると、幼い体を大きく見せる為に胸を張って叱り声をあげる。
「アカリさん、儀式の前なんですから緊張して当然です! もっと優しい言い方をしてあげてください!」
「ごめんごめん。でも、ぶっちゃけさ、カゲコちゃんって数合わせでしょ?」
「……!」
その言葉にカゲコは肩を弾ませる。トウコとミノリもまた、僅かに目が泳ぐ。言わないまでも、同様の考えを持っていると教えたようなものだ。アカリが笑みを深め、同時にカゲコへ哀れむ目線を送る。
「才能はトーコちゃん以下、やる気はミノリちゃん以下。冬水の予定されてた候補者が非処女だったもんで急遽差し出された補欠。一個目の試練で死んじゃう可能性、結構高いでしょ。なら、さっさと諦めてお家に帰ってもらうのが皆んなの為だと思うんだけど?」
「そ、そのさ」
ミノリがおずおずと声を上げた。
「多分、カゲコさんは私と同じだと思うんだよね。やりたくないし、やり切るだけの能力もないってわかってる。でも、やらないといけない理由があるんでしょ?」
同情と共感が混じった言葉。ミノリの優しい雰囲気も相まって、素直にカゲコは頷いた。
「……はい」
「私の場合、私が行かないと妹に行かせるぞって親に言われてて。まだ十歳にもなってない妹じゃ、本当に死んじゃうし。だから、代わりに私が来たの。今年で十八だから、年齢制限はギリギリだったけどね」
「……わ、わたしは……殺すぞって言われて……はい」
「うっはー、シンプル恐喝。ウケる」
「アカリさん!」
怒りを露わにするトウコを、しかし小さく幼い彼女では全くと言って良いほど威厳も恐れも感じさせることはできない。アカリは臆することなく、そんなトウコの肩を抱いた。
「トーコちゃんも、そんな若いのに大丈夫?」
「……それを言うなら、アカリさんだって私の次じゃないですか」
「十五歳は割と平均だもん。そっちの十二歳は流石に若過ぎ。歴代でもトップの方じゃない?」
「いえ、もっと若い方は沢山いらっしゃいます。それに、私にはこの『眼』がありますから」
「若いというか幼いというか……まあ、春木の『眼』。そりゃ、そんなのもって生まれたら儀式には出されるよね」
遠くからは烏や蜻蛉の鳴き声が響く。茜色に染まった町には四人の会話と足音、そして鳥や虫の声以外に音はせず、ただただ静寂と声が響き渡る。
「一応聞いておくけど、カゲコさんは試練のやり方は覚えてる?」
「あっ、す、すいません……教えてもらっても、いいですか?」
ミノリはカゲコの言葉に笑みを浮かべながら頷いた。
「まず、これから私たちはこの『黄昏』の異界にある社に向かって、そこで『門の神の鍵』を使うの。これね?」
「
アカリの戯言を無視しつつ、ミノリはカゲコに一つの鍵を見せた。懐から取り出したそれは装飾のない質素で、しかし何処までも美しい緑色の鍵。美しいそれは不思議な神聖さを漂わせていた。
「そうすると、私たちはそれぞれ同じ異界、でも違う場所に飛ばされる。そこにはこれと同じ鍵があるはずだから、それを手に入れて異界の何処かにある祭壇で、鍵を使う。そうすると、また次の異界に飛ばされる。そうやって、異界から異界を渡り、最後まで踏破するのが目的ね」
「ここを抜いて九個だっけ? 多いよねー」
「『神の母たる神』の奇跡を辿る儀式なんですから、その試練が長く険しいのは当然です」
「ふふっ、そうね。大変よね。異界には、怖い怪物が居るのと、花とか怪しい物に触っちゃいけないのと、中にある道具は好きなだけ使って良くて……あとは……詳細は秘匿されてるから、あとは私も知らないかな。ごめんね」
「い、いえ……ありがとう、ございます」
道中、廃神社を横目に通り過ぎた一行はそれから更に進んだ後、ついに貼られた札の目立つ高い壁と大きな門の神社へと到着した。
「よーし! ここだね。やっと着いたー」
「け、結構遠かったですね……」
「トウコちゃん大丈夫? 異界って、かなり走るらしいけど」
「はぁ……ひぃ……ふぅ……」
余裕のアカリ、小柄故に長い距離は辛いトウコ。少し疲れを滲ませながらもまだ余裕のあるミノリ。汗を垂らすカゲコ。
これから試練へと挑む四人の状態はそんな有様。アカリは独り胸の内で、あまり期待でなさそうだと呟く。才能だ云々以前に、体力作りがなっていないのだから。あまり面白くはなさそうだと感じたのだ。
独りでに開く門を超え、不気味な神聖さを放つ境内を並んで歩く四人は社の戸へと触れる。すると、これまた独りでにゆっくりとそれは開かれた。
一行は内装を一通り眺めた後、掛けられた九つの絵へと意識を向けた。
「試練の数と同じ……これ、試練のステージを表してるのかな?」
「彼岸花、赤い川、洞窟、蜘蛛の巣、腐った死体、血を流す女、鬼の集団、燃えてる小屋……と、神社……かな?」
「ですね……そう言えば、儀式の最初に訪れる異界には、それぞれのヒントがあると……何かで、見たような……?」
「真面目なトーコちゃんですらうろ覚えってなると、記録がそーとー古いか、胡散臭い奴っぽいね。まあ、多分本当だった訳だけど」
「ど、どう見てもヤバいのしかない……帰りたい……」
決意を胸に、胸の前で拳を握るトウコ。
不適な笑みを浮かべるアカリ。
一度振り返ったが、首を振って迷いを払い退けたミノリ。
恐怖に身を震わせ、大きな体を縮こませるカゲコ。
全員はほぼ同時に緑色の鍵を取り出した。
「……一応聞いておきますけど、カゲコさんは『霊力』の放出くらいはできますよね?」
「は、はい……一応、少しだけ……」
トウコの言葉に嫌そうに顔を顰めながら答えたカゲコ。
「やりたくないけどできちゃうから選ばれたんだし……」
そんな彼女の小さな嘆き。横にいたミノリだけには聞こえており、彼女も困ったように苦笑いを浮かべた。なんせ、彼女も殆ど同じような理由で儀式に参加しているのだから。
トウコが大きく息を吸い上げ、小さく吐いて、再び吸った。
そして、告げる。
「それでは皆さん、いきますよ……せーの!」
ぱりんっ
そんな音が四つ、ほぼ同時に響いた。
────挑戦者:儀式に挑む者────
────歓楽者:儀式を楽しむ者────
────献身者:試練を諦めた者────
────絶望者:試練を恐れる者────
──黄昏の町──終了。
──彼岸の花園──開始────
長い歴史を持つ春木家の娘。春木に伝わる希少な体質である『千里眼』を使うことが可能。敵や物資の探知に優れる。しかし、『千里眼』はスタミナを消耗する。
長い歴史を持つ夏火家の娘。夏火に伝わる特殊な術の才能に秀でており、特に『式神術:火鳥』を使うことで敵から身を守ることが可能。『式神術』を行使するには触媒が必要。持ち込みは五個。異界の中で素材を見つければ作成も可能。
長い歴史を持つ秋金家の娘。探知能力に優れており、常時『鬼耳』によって近くに何者かが現れれば即座に察知することが可能。
長い歴史を持つ冬水家の娘。ただただ他者を拒み続けたことで自身の存在を隠蔽する能力に長けており、常時『音断』によって自身の発する音を消すことと遠くからは視認されない能力を使える。
そして────。
「……なんだよ、ここ…………」
徘徊者:迷い込んだ男。
特に歴史もない普通の一般家庭出身の男。特に能力はなく、特に救いもない。
『霊力』を知らず、持たないので、一部アイテムを使用する際には霊力の宿った触媒が必要、または使用不可。
異界のことを知らず、霊術のことも知らないので一部アイテムの情報を得ることができない。
生来の『瘴気耐性』を持たないので『呪い』によるダメージや鈍化の影響が他より大きい。
『瘴気』に対抗する為の清められた装束を身に纏っていない為、『呪い』の影響を防ぐことができない。
性別:男である為、一部『穢れ人』からの殺意が増加。