黄金のニクスティア   作:Alfia2

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第12話 影の魔女 ソフィー・レイン

 三人は街の出口を抜け、花畑に続く道から脇道の森に入る。鬱蒼とした森の中を進んでいるとスティアが口を開いた。

 

「えっと、ソフィーさん? の屋敷、街の外なんだ。魔物とかってこの辺出るの?」

「この辺りは、ソフィーさんの支配域だからほとんど寄り付かないはずだ。寄り付いたとしても、生きて帰れないだろうしな」

「そ、そうなんだ」

「別にソフィーさんが何かしているというわけではなくて、自動的に罠で迎撃するようにしてるだけだけどな」

「へぇ~、そうなんだ。その罠って、私たち大丈夫なの?」

「まあ、大丈夫だろうな。木々の合間に黒い鳥みたいなのがいるだろ」

 

 スティアは軽く周囲を見回す。

 

「確かにいるね」

「あれは監視目的で設置されてる。襲ってこないということは、問題ないだろ」

「それって下手したら、私たち襲われてたってことだよね……?」

 

 スティアの顔が少し青くなる。ラピスが答えた。

 

「お兄とわたしがいる時点で大丈夫だと思う。お兄も行く前に連絡とってたし。まあ、さすがに誤射はしない、はず。寝ぼけてたら知らないけど」

「寝ぼけてたら……。ん~、どういう人なんだろ」

「まあ、一言でいうなら、子供っぽい人だな」

 

 さらに森を突き進むと開けた場所に出る。周囲を木々で囲まれている中、中央に屋敷があった。まるで森に隠されているようにも見える。古いながらも荘厳な佇まいだ。

 スティアは屋敷を見上げ、感嘆の言葉をもらす。

 

「へぇ~ここなんだ。おっきいね~」

「ここ、今二人しか住んでないけどな」

「そうなの? 二人にしては大きすぎない?」

「まあ、そうだよな」

 

 ニクスはそう言って、屋敷の門を押し開ける。そのまま、三人で突き進み、扉の前に到着する。ニクスは扉の横に併設されている小さい宝石に手をかざした。

 スティアが首をかしげ、ニクスが触れた宝石を指さしながら言う。

 

「それって何?」

「ああ、これは屋敷内の人に来客を知らせる魔導具だ。まあ、まだ一般的に普及してないから、見ることは少ないけどな」

「はぇ~」

 

 スティアが気の抜けた返事をした。

 

「間抜けな声」

「え、ラピスは驚かないの?」

「そもそも、わたしは来たことあるんだから、知ってて当然」

「そ、そうだよね。うーん、だいぶドライ……」

 

 ラピスのほうに軽く棘があるが、本気で苛立ってそうに見えない辺り、気を許してきてるのかもしれない。そう思いながら、見ていると、屋敷の扉が開かれた。中からモノクルをつけた執事然とした人物が現れた。

 

「ニクス様。よくおいでくださいました。直接お会いするのは久しぶりですね」

「お久しぶりです。クラウスさん、突然すみません」

 

 ニクスが頭を軽く下げる。それにつられて、スティアとラピスも頭を下げる。

 

「ラピス様もお久しぶりです」

 

 クラウスはそう言って、スティアのほうを見る。

 

「おや、初めての方がいらっしゃいますね。ニクス様、そちらの方は?」

「彼女はスティア。先ほど連絡した相談したいことに彼女が関わってます」

「なるほど、初めまして。(わたくし)は六天――影の魔女の従者。クラウスと申します」

「あ、えっと、丁寧にありがとうございます! スティアです。よろしくお願いします」

 

 スティアは慌てて、再度礼をした。クラウスはうなずく。

 

「はい、よろしくお願いいたします。礼儀正しい方ですね。……さて、ニクス様。申し訳ないのですが、まだ(あるじ)は寝ているため、ひとまず、応接室へお通しした後、呼ぶ形で問題ありませんか?」

 

 連絡してから時間は経っているはずだが、まだ寝てるのか。……嫌な予感がするな。

 

「そうですか。問題ないです。お願いできますか?」

 

 クラウスは恭しくうなずくと、三人を屋敷内に招き入れる。そのまま応接室へ案内した。

 応接室では、ニクスとラピスが同じソファに、スティアがラピスの向かい側のソファに座っていた。クラウスは一礼し、去っていく。

 スティアは周りを見ながらつぶやく。

 

「部屋も結構、豪華だね。廊下とかも凄かったし」

 

 ラピスが呆れたように言った。

 

「なんのためにこんなに豪華なのかよくわからない」

「まあ、確かにそうだよな。別に来客とか基本ないはずなのにな」

 

 スティアは首をかしげながら、問いかける。

 

「それならどうして?」

「単純に六天としてのプライドじゃないか?」

「プライドもってるなら、もう少し落ち着いたほうがいいと思う」

 

 ラピスのその鋭いツッコミにニクスは苦笑する。すると、扉の向こうでドタバタと音がした後、勢いよく扉が開いた。

 そこにはスティアよりもさらに小柄な少女が立っていた。ひざ下まで伸びた薄い紫色の髪が揺れ、髪の間から細い尖った耳がのぞく。人形のように整った顔が不機嫌にゆがみ、眠たげな赤い瞳がニクスを睨みつけていた。そして、何故か右手に枕を抱えていた。

 あー……嫌な予感的中だな。

 スティアから「え」と呆けた声が聞こえる。

 

 少女は枕を大きく振りかぶると、そのまま――全力でこちらに向かって投げ放ってきた。枕が宙を舞い、ニクスに突進する。ニクスは右手ですかさず、はじき返し、枕が別の方向へ飛ぶ。しかし、飛んだ先にはスティアが。

 スティアから「へ?」と素っ頓狂な声が聞こえるとともに彼女の顔に枕が激突した。

 

「ふぎゃ!?」

 

 ニクスは勢いよく立ち上がる。

 

「ご、ごめん! 大丈夫か!?」

「うぅ……鼻が痛い」

 

 スティアは赤くなった鼻を押さえていた。

 

「ああ、もう何故じゃ! 本当に腹が立つのぅ!」

 

 紫髪の少女は地団駄を踏む。

 

「いや、そりゃ、はじき返すでしょ……」

「可愛くない奴じゃ! わしの昼寝の邪魔しよって!」

「……そもそも、俺は来るって連絡したんですけど」

 

 紫髪の少女は勢いよくそばに待機していたクラウスのほうに振り向く。

 

(わたくし)は申しましたよ? ニクス様がいらっしゃると。生返事でしたが」

 

 この場を沈黙が支配する。ほどなくして、紫髪の少女はあごに手を添え、口を開いた。

 

「ん~……記憶にないのぅ」

 

 その様子にニクスはあきれたように肩をすくめる。

 

「……やっぱりこうなったか」

「ま、なんじゃ許せ」

 

 そう紫髪の少女は尊大に答えた。彼女はソファの奥の机へ向かい、椅子に座る。頬杖をつきながら、視線がスティアに向いた。

 

「で、そやつは?」

「あー、この子は……スティアです」

 

 見ると、まだ、スティアは鼻をさすっていた。

 紫髪の少女の目が細められる。その瞳は値踏みするかのようだ。そして、彼女は口端を上げ、告げる。

 

「わしの名はソフィー・レイン。ここの主じゃ」

 

 六天、影の魔女――ソフィー・レインは不敵な笑みを浮かべていた。

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