黄金のニクスティア   作:Alfia2

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第20話 遺跡の報せ

 ニクスとスティアは支局前に到着し、扉を開けて中に入った。

 

 中はそれほど広くはないが、奥に受付があり、室内に掲示板のようなものが、二、三個設置されている。その受付や掲示板にまばらに人がいた。

 多忙というほどではなさそうだから、軽く聞いてみるか。

 

「受付に行って、聞いてくる。少し待っててくれるか?」

「あ、うん、大丈夫だよ」

 

 スティアはうなずき、室内の端っこに向かった。ニクスはそれを確認し、受付に向かう。

 受付では柔和な女性が出迎えてくれた。

 

「あら、ニクス君」

「ミラさん、お世話になってます」

「いえ、こちらこそ。今日って休みじゃなかったかしら」

「はい、少し用があって、寄らせていただきました」

「用? 依頼をしに来たとか受けに来たというわけではないのよね」

 

 ニクスはうなずく。事細かに説明せずにここは直球で聞いたほうがいいだろう。

 

「ミラさんは各国に存在する遺跡について、ご存じでしょうか」

「ん~、確か総局の魔究士が調査していたと聞いたことがあるわ。……そういえば、一昨日の夜だったかに遺跡が活動を開始したとかなんとか聞いた気も、するわね」

 

 一昨日の夜? タイミングを考えると、スティアが目覚めた時と同じか……? 重なっているからといって、繋がりがあると決めつけるのはまだ早いが、無視もできない。それに"活動を開始した"という言い回しも気にかかる。支局に連絡が来るにしても、遺跡周辺で何かが起こった、ぐらいの伝え方になるはずだ。

 すると、隣の受付にいたもう一人の受付嬢が口をはさむ。

 

「あれ、先輩、そんな話ありましたっけ」

「ん? ええ……確かあった気がするけど?」

「えー、直近のことなのに疑問形なんです? というか、情報は逐一共有する先輩にしては珍しいですね。私聞いてなかったですし。それって、どこからの話ですか? 本局です?」

「多分、本局のはずだけど……」

 

 どうも歯切れが悪いな。

 隣の受付嬢が不思議そうに首をかしげる。

 

「特に何かしろ、みたいな話はなかったんですか?」

「なかったと思うわ。さっき言った話しかなかったような……」

「寝ぼけてて、うまく聞いてなかっただけじゃないですか? それか、連絡が来たと思い込んでいただけとか。このところ忙しかったですし、休んだほうがいいのでは?」

「……そうね。疲れているのかしら。どちらにしてもその辺り本局に確認してみたほうがいいかもしれないわね」

 

 ミラはニクスのほうを向き、話す。

 

「っと、少し話がそれたけど、遺跡のことは知っているわ。それがどうかしたの?」

「あー、その遺跡の調査記録や保管されている資料がこちらにないかと思いまして」

 

 ミラは首を振った。

 

「うちの管轄ではないから、ここにはないわね。あなたなら、本局を探したほうが確実じゃないかしら」

 

 あればと思っていたが、どのみち本局に行くしかないか。

 

「にしても、突然そんなことを聞くなんて珍しいわね。何かあったの?」

「少し、小耳にはさんで、興味をもちまして。ですので、文献だけじゃなくて実際の資料などもあれば理解が深まると思ったんです」

 

 遺跡の話を聞いたのは嘘ではない。本質的には興味からは離れているが、当たらずとも遠からずだろう。

 

「そうね。あなたはまだ若いから色々と興味を持つのはいいことだと思うわ」

「そう、ですね」

 

 ミラの反応に少し後ろめたくなる。

 

「もし、大丈夫なら、さっきの件も併せて、本局に確認してみるけど、いかがかしら」

「それは、確かに助かりますが……お忙しいところいいのでしょうか」

「ええ、大丈夫よ。ついでに聞くだけだから」

「……分かりました。それでしたら――」

 

 間に入るように受付嬢が口をはさんだ。

 

「うち、魔究士所属してないから、資料聞いたら理由聞かれないですかね」

「あー、確かにそうね……」

「先輩、本当に大丈夫ですか? いつもならすぐ気が付きそうなのに、本当に休んだほうがいいんじゃないですか?」

 

 受付嬢が心配そうな表情でミラを見つめる。

 

「大丈夫のはずだけど」

「まあ、今日は案外、人は少ないですし、早退したほうがいいんじゃないですか? さっきの話しぶりだと緊急の話でもないのなら、明日確認でもいいと思いますし」

 

 そういうことなら、無理に頼むのは申し訳ない。

 

「ミラさん、本局への確認ですが、大丈夫です。こちらで直接出向こうかと思うので」

 

 ミラは手を頬に添え、申し訳なさそうに話す。

 

「あら、そう……? ごめんなさいね。ニクス君」

「いえ、大丈夫です。ゆっくり休んでください」

 

 ニクスは二人に礼を言い、踵を返す。

 スティアのほうへ向かうと彼女は手持無沙汰に髪を弄んでいた。想像以上に待たせてしまったのだろうか。

 

「ごめん、待たせた」

 

 スティアは顔をぱっと上げ、安心したような表情をした。

 

「あ! ううん、大丈夫だよ。もういいの?」

「ああ、遺跡の資料を確認してみたが、こっちには置いてないそうだ。ただ、少し有用な情報を聞いたよ」

「有用な情報?」

「道すがら……いや、家に帰ったら話すよ」

「そっか。うん、分かった」

 

 すると、どこからともなく「ぐぅ〜」という音が鳴った。音の方向からして、前方。そこには壁に面したスティアしかいない。音の主は彼女か。

 スティアが若干うつむいていた。ちらっと見える頬は赤色に染まっている。

 

「えーと、お腹空いたなら、食べに行くか? ちょうど、お昼時だし。もしかしたら、ラピスも戻ってるかもしれないから、一度家に戻るか」

 

 スティアは上目遣いでこちらを見て、というか若干睨んで小さくうなずいた。

 

 二人が自宅に戻ると、すでにラピスも帰宅していた。

 

「お兄、お帰り」

「ああ、ただいま。孤児院はどうだった?」

「院長たちに話して、心配はされたけど特にそれ以上言われなかった。あと、念のため、しばらく休んだほうがいいって。わたしは大丈夫って言ったんだけど」

「そうか……」

 

 髪色が変わるほどの魔素の影響だ。ラピス自身が大丈夫と言っても、院長たちが気が気ではなかったのだろうことは想像に難くない。

 それに、魔核が体内にある以上、何が起こるか分からない。院長たちを巻き込まないためにも、休みをもらえたのはありがたい。

 ラピスが言った。

 

「お兄のほうは?」

「ん? ああ……少し長くなるかもしれないから、座るか」

 

 三人はテーブルに着き、ニクスは教会で聞いた遺跡のこと、そして支局には資料がないため、本局に向かって調査をすることを伝える。

 

「遺跡……わたしも初めて聞いた」

「まあ、そうだよな」

「わかった。わたしもついていく」

「え」

 

 ラピスからじろっと視線を向けられた。

 

「その人と本局に行くんでしょ? なら、わたしも行く」

「いや、でも――」

 

 スティアが間に入った。

 

「ニクス、本局に行くのって危ないの?」

「……いや、一応、安全ではある」

 

 魔導列車を使うから少なくとも移動時に魔物に襲われるといったことはないだろう。ただ、これ以上ラピスに関わらせるべきかどうかだが……。

 スティアがラピスのほうをちらっと見た。

 

「なら、大丈夫じゃないかな。ラピスもお兄ちゃんが心配なんだと思うよ」

 

 ラピスの視線がスティアに移る。その顔は何か言いたげではあったが、結局、口をつぐんだ。

 ニクスは軽く息を吐く。

 

「分かった……。ついてきていい」

 

 ラピスがスティアに軽く視線を向け、小さく「ありがと……」とつぶやいた。

 スティアは目を瞬かせた後、口元を緩ませた。そして、ニクスのほうへ顔を向けた。

 

「ところで、本局ってどこにあるの?」

「あー、魔導都市だな。簡単に言うなら、魔導技術の最先端が集まる街なんだが、その都市を魔導総局が管理しているから、そこに本局があるんだ」

「へぇ~、重要そうな街を管理しているんだ。凄いね」

「まあ、魔導都市は各国が出資して、成り立っているから責任は重大だろうな」

 

 出資の対価として魔導技術を還元してはいるが、昨今では責任の分散という意味でも総局が一括で管理している点を不満として挙げる声も多いと聞く。

 だからか、各国で独自に魔導技術を開発しようという動きもあると隊長から聞いた覚えがあった。

 ラピスが口を開いた。

 

「これから行くの? 魔導都市に」

「いや、もう昼を過ぎているから、明日にしよう」

 

 スティアが首をかしげた。

 

「魔導都市って遠いの?」

「そうだな……。ざっと、列車で一時間半から二時間ほどかな」

「列車? その感じだと乗り物かなんかなの?」

「ああ、そうだ。明日乗ることになるから、その時に説明するよ。ひとまずは昼食を食べるか」

 

 スティアとラピスはうなずく。ラピスは立ち上がり、キッチンのほうへ向かった。

 そんなラピスにスティアが声をかける。

 

「あ、私も手伝うよ!」

 

 ラピスはちらっとスティアを見た後、無言で歩みを進めた。スティアは慌てて立ち上がるとラピスのほうに駆け寄った。

 ニクスは二人の背中を見送りながら、一人思考に耽る。

 昨日今日でもたらされた情報はあまりに多い。

 一番引っかかるのは、遺跡が活動を開始したと言われていたタイミングとスティアが目覚めたタイミングだ。

 話が確かなら無関係とは思えない。もし、本局に資料がなければ直接現地に出向くことも考えないといけないが……。

 ニクスの視線がラピスの背中に向く。

 今回はついてくることを承諾したが、現地に行くとなった時、ラピスをどうすればいいのか――。

 ラピスがこちらを振り向き、声をかけてきた。

 

「こっち見て、どうしたの?」

「……いや、何でもない」

 

 努めて柔らかく、そう返す。

 ラピスは不思議そうに首をかしげ、昼食の準備へ戻った。

 ニクスは一度目を閉じ、軽く息を吐く。

 

 ――これから何が起こってもおかしくはない。その時、俺は……。

 

 答えの出ない問いを胸に抱きながら、ニクスは二人の背中を眺めるのだった。

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