黄金のニクスティア   作:Alfia2

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第23話 総局への報告

 第七部隊宿舎、隊長室前。ニクスは扉をノックした。

 

『誰だ?』

 

 中から男性の声が聞こえてくる。

 

「ニクス・ミュラーです」

『ニクス? 入っていいぞ』

「失礼します」

 

 ニクスはそう答え、隊長室へ入室した。

 机にはガタイのいい男性が座っている。第七部隊の隊長、レオンだ。

 

「今日はどうし――」

 

 レオンの言葉が途中で途切れ、驚いた顔をしながら、ニクスの後方を見ている。

 つられて振り返ると、シロネがちょうど扉を閉めるところだった。

 

「シロネ女史まで。今日はどうしたんだ? 休みのはずだったよな」

「ええ、忙しいところ、すみません。少し報告したいことがありまして……彼女についてはここまでついてきたといいますか」

「報告?」

 

 レオンはそう口にしながら、シロネのほうを見た。

 

「ボクのことはお構いなく。報告の件は、関係ないから」

 

 シロネはそう言って、壁際へ移動した。

 レオンがニクスに視線を戻す。

 

「それで報告ってなんだ?」

 

 ニクスはソフィー宅での会話を思い返す。

 

 ――魔素の上昇と白いローブの魔導士の件、でしょうか。

 ――はい。特に件の人物については、ニクス様が襲われた部分も含めて、総局にとっての有用な情報にもなります。それ以上、状況を聞かれなくなる恐れもあるかと。此度(こたび)はニクス様も休暇中である点も含めて。

 ――言魔(ことのま)による巨大な何かの召喚。そのときの魔素上昇を総局に伝えれば、優先度的にそちらのほうに調査の手が回る、ですかね。

 

 今回報告できることは、あくまで襲われたことまでだ。

 ニクスは慎重に言葉を選びながら、切り出していく。

 

「三日前の夜、ルニエ近郊の花畑で、不審な魔導士と接触しました」

「不審な魔導士?」

「白いローブを着た魔導士です」

 

 レオンの表情が険しくなった。

 もしかして、この反応、何か知っているのか?

 

「先ほど、接触したと言ったな。具体的に何があった」

「はい、接触したとき、突然言魔により襲われました。そのとき、体感ではありましたが、魔素も一時的に上昇していたかと思います」

「魔素まで上昇したのか……。お前自身に怪我はなかったのか?」

「俺は大丈夫です」

 

 レオンは腕を組み、考えるように目を閉じた。

 

「それはよかったが……このタイミングで、か。ちょうど、白いローブを着た魔導士の情報が入ってきたところだ」

「え」

 

 あの場に誰かがいて、報告したのか? いや、先ほどの反応から考えると、花畑の話が伝わっているとは思えない。そうすると別の話だろうか。

 

「情報というのは?」

「今朝、総局所属の魔究士(まきゅうし)が帝国にある遺跡周辺で、怪しげな白いローブをまとった集団を見かけたらしい」

「なるほど……」

 

 白いローブ――花畑で遭遇した魔導士と同じ特徴だ。もし、同じ集団に属しているのなら、遺跡を探っているとも考えられるが。現時点で断定するのは早い気がする。

 それに……総局所属の魔究士が近くにいたということは、総局側も遺跡に関わっている可能性が高いか?

 後者は偶然居合わせただけかもしれない。念のため、確認してみてもいいだろう。

 

「少し確認したいのですが、どうして魔究士が遺跡周辺に?」

 

 レオンはニクスの言葉に首をかしげた。

 

「何故、そこが気になるんだ?」

 

 ニクスの思考が、一瞬止まる。

 まずい、少し先走ったか……?

 ニクスは視線を軽く逸らしながら、答える。

 

「えっと、支局で遺跡の件を聞いたもので」

「支局で?」

「はい。ルニエの支局で、遺跡の活動が開始したとの連絡が本局から来た、という話を聞きました。ただ、受付の人もうろ覚えだったようで、あくまで気がするとのことでしたが」

「本局から連絡、か。確かに調査依頼で連絡をしている可能性もあるが、ルニエに魔究士は滞在していたか?」

 

 想定とは別方向の質問が飛んできた。少なくとも、深く追求されなさそうだ。

 ニクスはわずかに息を吐いた後、首を振った。

 

「滞在はしていないそうです」

 

 シロネが会話に加わってきた。

 

魔装士(まそうし)に護衛を依頼するために、連絡をした可能性はあるんじゃない? 魔究士全員が戦闘能力を持っているわけじゃないんだし。まあ、"活動を開始"したなんて言い回しと、本局からの連絡が曖昧なのは妙だけど」

 

 やはり、そこは気になるよな。

 レオンはしばし黙り込んだ。

 

「……そうか、そちらは一度確認してみよう。それで、魔究士が周辺にいた理由だったか?」

「あ、はい」

 

 レオンはちらっとシロネを見た。

 

「ボクはもう知ってるよ。総長から依頼されたし。まあ、白いローブの件は知らなかったけど」

「ああ、そういうことか」

 

 二人のやり取りにニクスは首をかしげる。すると、レオンが説明を始めた。

 

「三日前の夜、遺跡周辺で急激な魔素上昇が確認されたと連絡があった。そこで、総局側も各遺跡を調査している。うちの隊も手が空いている者を現地へ向かわせる予定だ」

「そう、なのですね」

 

 遺跡の調査か。第七部隊も関わっていることを考えると、それに加わったほうが、情報を得られそうだが……。

 

「まあ、お前は今休暇中だ。調査の件は気にしなくていい」

「……分かりました。ありがとうございます」

 

 レオンは小さくうなずくと、少し間を置いた。

 

「それと、襲われたのは三日前だったか」

「はい、そうです」

 

 レオンの眉間に軽くしわが寄る。

 

「何故、報告が遅くなった? 襲われたなら、一報は入れるべきだっただろう」

 

 ニクスは反射的に頭を下げた。

 

「す、すみません」

 

 休暇中の話だったから、後回しでもいいと考えていたが、考えが甘かったか。

 すぐに頭を切り替える。事件発生後の経緯はすべて答えられない。あの場にはラピスもいた。休暇中だったことは……いや、それを言い訳に使うのは得策じゃない。

 

「その、襲われたとき、妹も一緒にいたので、しばらく妹の様子を見ていて、報告が遅れました」

「……そうか。そういう理由なら、そちらを優先するのは分かる。ただ、落ち着いた時点で連絡は入れろ。今回のような危険な目に遭ったのなら、なおさらだ」

「はい、すみません」

 

 レオンはうなずくと、話を続ける。

 

「それで、妹のほうは大丈夫なのか?」

「そちらは……はい、今のところは」

「それならいい。報告は以上か?」

 

 ニクスは短く返事を返す。それで話が終わったと判断したのか、シロネが近づいてきた。

 

「さて、ニクス君の用事が済んだなら、今度はボクの番だね。ちょうど、遺跡の話も出たし」

 

 遺跡の話? もしかして、シロネも遺跡に関することなのか?

 シロネはニクスを見ながら、軽く口角を上げた。

 

「ニクス君、ボクと一緒に遺跡調査へ行ってほしい」

 

 ***

 

 少し前、スティアは宿舎のほうへ行くニクスの背中を、じっと見送っていた。

 

 シロネさんは悪い人ではないと思うけど、何か引っかかる。

 

「ねぇ」

 

 さっき感じたあの感覚は、なんだったんだろう。

 スティアは自分の手のひらを見つめた。

 

「ねぇってば――」

 

 まるで、何か体を駆け巡ったような……。ニクス、大丈夫だといいけど。

 

「ちょっと」

 

 横から引っ張られ、スティアの体が傾く。

 

「お?」

 

 引っ張られたほうを向くと、ラピスがこちらにじとっとした目を向けていた。

 

「聞いてる?」

「え、あ、ごめん! 聞いてませんでした……」

 

 ラピスはため息を吐いた後、わずかに視線を彷徨(さまよ)わせ、意を決したように口を開いた。

 

「あなたに少し聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

「……自分の中にあるモノのこと、不安じゃないの?」

 

 自分の中にあるモノ?

 スティアはわずかに首を傾けてしまう。

 

「えっと……?」

 

 ラピスは少し睨むとスティアの耳に口を近づけ、小声で言った。

 

「魔核のこと」

 

 こそばゆい! ……じゃなかった。

 大ぴらに言えないから、わざわざ耳元で言ったのだろう。

 スティアは軽く周りを見回す。こちらに注目している人はいないようだ。

 改めて、ラピスを見ると、真剣な表情の奥に不安が見え隠れしている気がした。

 ここで変に気遣うのは違う気がする。正直に答えよう。

 

「正直に言うんだけど、私は気にしてないかな。言われたときも特に実感とか湧かなかったから」

「……お気楽」

「やっぱり……その、つらい?」

 

 ラピスは眉を吊り上げ、苛立ちを滲ませるように言った。

 

「当たり前でしょ……! わたしもお母さ――」

 

 ラピスはそう言いかけたところで、堪えるように口元を強く引き結んだ。そのまま、彼女は目を伏せ、力なく言う。

 

「それにお兄だって……きっと、お兄が一番つらいと思うから……」

「ラピス……」

 

 もしかして、二人のお母さんは……。

 

 スティアはラピスへ手を伸ばそうとする。だが――。

 二人の事情を自分は知らない。それなのに、これ以上踏み込んでいいのか。

 その考えがよぎると、スティアは伸ばしかけた手を引き、軽く拳を握った。

 何も言えないまま、うつむくラピスを見つめる。

 

 私に何かできることはないのかな。何か……。

 

 そのとき、スティアの脳裏にソフィーの言葉が浮かぶ。

 

 ――もしかしたら、スティアの体がどのようにできたのか、そやつのルーツを調べればラピスの件も解決できるやもしれぬ。

 

 ……自分のことを調べるのが、ラピスの助けになるかもしれない。今できることを、少しでも進めたい。ここに来たのだって、遺跡の資料を調べに来たんだ。

 ニクスはここで待っててと言っていたけど……予定になかったことをするわけじゃない。資料探し程度なら、大丈夫なはずだ。

 スティアは押し黙ったままのラピスに話しかけた。

 

「ラピス、遺跡の資料を探しに行かない?」

 

 ラピスは顔を上げると、いぶかしんだ目をこちらに向けてくる。

 

「何、いきなり」

「ここには資料を探しに来たから、探しに行ってもいいかなと思って」

 

 彼女は鋭い視線を向けてきた。

 

「お兄は待っててって言ってなかった?」

「うん。でも、元々予定していたことだし、大丈夫かなと思って。どうかな?」

 

 ラピスは考えるようにうつむいた。やがて、軽く息を吐いた後、口を開く。

 

「資料を探すったって、どこで探すの」

「そういうのが置いてある場所だと思うけど……。ん~、分からないことは――」

 

 スティアはぐるっとあたりを見回す。その視線が、広間の中央にある受付で止まる。スティアはそちらを指さした。

 

「あそこで聞けばいいんじゃないかな? なんだか受付っぽいし」

 

 ラピスもつられて、スティアが指さしたほうを見る。

 

「……まあ、聞くだけならいいけど」

「うん。じゃあ、行こっか!」

 

 二人は受付に向かう。近づくと、手の空いていた女性がこちらに気づき、声をかけてきた。

 

「どうされましたか?」

「えっと、遺跡について調べたいんですけど、そういう資料が置いてある場所ってありますか?」

「遺跡?」

「あー……」

 

 スティアが困ったようにラピスを見る。

 ラピスは呆れたような視線をスティアに向けた。

 

「各国に遺跡があると聞きました。その遺跡に関する資料を探しています」

「あー、なるほど。そうですねぇ……確認ですが、総局所属の方ではないということでよろしいでしょうか」

 

 二人がうなずくのを確認すると、受付の女性はカウンター内から縦長の小さい紙を取り出し、広げる。どうやら、館内地図のようだ。

 

「それでしたら、こちらにある資料室で探してみてはどうでしょうか。一般に開放されている資料から、お目当ての資料が見つかるかもしれません」

 

 スティアとラピスものぞき込む。

 

「ありがとうございます! ここに行ってみようと思います」

「ふふ、こちらは持って行っていただいて構いませんよ」

 

 スティアは受付の女性から差し出された紙を受け取ると、そのまま二人は資料室へ向かうのだった。

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