黄金のニクスティア   作:Alfia2

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第27話 対立の先

「私の中には魔核(まかく)があります」

 

 スティアがそう口にした瞬間、目の前にいたシロネの空気が変わった。

 

 え……?

 

 いつの間にか振り抜かれた魔装刀(まそうとう)が、黒鉄色の軌跡を描いていた。その刃がこちらへ向かってきた。

 スティアの目は刀身を追っている。だが、突然のことに体が追い付いていない。

 

「スティア!」

 

 後方からの声に、スティアは反射的に身をかがめた。魔装刀が頭上で制止する。

 スティアはそのまま重心を右足へ移しながら、シロネの胸元へ拳を繰り出す。そこへ――。

 シロネの左手が割って入ってきた。拳が受け止められ、鈍い音が響く。

 

「うっ」

 

 衝撃が腕をかけあがる。シロネは、滑らせるようにスティアの手首へ手を移動させ、強引に彼女の体を引っ張った。

 

「え――」

 

 次の瞬間、スティアの腹部にシロネの膝がめり込んだ。

 

「か、はっ……」

 

 スティアがわずかに後退。視界の端に、体をひねるシロネが映った。

 

 も、もう一度、くる!

 

 なんとか、腕を滑り込ませようと身をよじらせる。だが、その前にスティアの腹部へ、シロネの回し蹴りが叩き込まれた。

 

「おっ――」

 

 そのままの慣性で、スティアは飛ばされ、木へと激突。

 滲む視界の中で、シロネへ魔装銃を向けるニクスの姿が見えた――。

 

 ***

 

 ニクスが引き金を引くよりも前に、シロネの回し蹴りがスティアの腹部へ叩き込まれ、彼女の体が飛ぶ。

 

 スティア……!

 くそっ、慌てるな!

 今の一連のやり方からしても、真正面から戦って、勝てる相手じゃない。なら、まずは隙を突く!

 

 ニクスは腰のポーチに手を入れ、赤い属性魔石の欠片を取り出すと、シロネに向かって投げ放った。すかさず、照準を合わせ、引き金を引く。

 シロネがわずかに目を見開く。彼女は魔装刀を盾にするように、構えた。

 放った魔弾が、ニクスとシロネの間で着弾。小規模の爆発を起こした。

 爆発と土煙で、お互いの視界が遮られる。

 

「目くらまし……」

 

 その声を聞きながら、ニクスは駆け出した。シロネに捉えられないように煙の外側へ回りこむ。すると、煙が大きく裂けた。

 その中心では、魔装刀を振り抜いたシロネの姿が見える。彼女の首がニクスを探すかのように動いている。

 

 まだ、こちらに気づいていない。

 捉えるなら、今だ!

 

 すでに背後に回っていたニクスは、シロネに接近すると彼女の後頭部へ銃口を突きつけた。お互いの動きが一瞬止まる。

 シロネが小さく鼻で笑った。

 

「そこで撃たないのは、甘いよ!」

 

 シロネは魔装刀を逆手に持ち替え、後方へ身をひねらせる。斬撃がニクスを襲った。

 ニクスは咄嗟に刃を左腕で受け止める。腕へ直撃した瞬間、左手がわずかに緩んだ。

 

 この感触、まさか……。

 

 ニクスは勢いをそのままに地面をこするように後退。魔装銃をシロネへ向け、魔弾を放った。その行先は――。

 

 シロネの足元にある闇色の属性魔石の欠片。

 魔弾が命中するとともに、ニクスは言魔(ことのま)を唱えた。

 

「『捉えよ!』」

 

 シロネの足元から影が噴出。影が彼女の足へ巻きついた。

 ニクスは、続けて同じ色の欠片を投げやる。

 

「『1――2――』」

 

 さらにシロネの手や胴体を拘束した。

 シロネはわずかに目を細める。

 

「へぇ、なるほどね。さっき、腕で受け止めたときか……」

 

 ニクスはシロネへ睨みを利かせながら、視界の端でソフィーに助け起こされているスティアへ声をかけた。

 

「スティア! 大丈夫か?」

「だい、じょう、ぶ……」

 

 彼女は腹部を押さえている。足取りも少しおぼつかないようだ。

 ニクスはシロネへ鋭い視線を飛ばす。

 

「……魔装器を起動してなかったな」

「元々、殺すつもりはなかったからね。止めるつもりだったし」

「なら、何故だ」

「いきなり、不用心なことをいう子がいたからね。お灸を据えようかと」

 

 シロネはスティアに視線を向ける。スティアがシロネを睨みつけた。

 

「ソフィー、その子に魔核があるって本当?」

「本当じゃぞ。膨大な魔力が集積しておるからの」

「そっか。だから、さっきボクのスタンスを確認したのか……」

「ま、そうじゃな」

 

 スタンス……?

 

「あー、ボクは基本的に依頼があった魔物か、人を喰った魔物しか殺さない。つまり、何も被害を出していない彼女を斬る理由がない。それはたとえ魔物化したとしてもね」

「そう、なのか」

 

 だから、元から殺すつもりはないと言っていたのか。

 それなら、もう拘束はしなくていいかもしれない。ソフィーさんが手を出さなかった点も含めると、信ぴょう性は高いかもしれない。

 

「『戻れ』」

 

 ニクスが言魔を唱えると、シロネを拘束していた影が霧散。拘束が解けた彼女は、体の関節をほぐすように節々を伸ばした。

 シロネは一息ついたあと、スティアへちらっと視線を向ける。

 

「……聞きたいんだけど、彼女少しちぐはぐだよね。今の感じだと、ボクの反応も予想外みたいだったし。どういうことかな」

 

 ニクスもスティアへ視線を向けた。彼女は真剣なまなざしで、小さくうなずく。その瞳は応接室で見たときと同じだった。

 ニクスは、彼女がラピスに向かって、言った言葉を思い出す。

 

 ――私に任せて。

 

 そういうことか……。

 シロネが即座に報告するつもりがないのであれば、隠すよりも今までのことも含めて、話してしまったほうがいいだろう。味方とは言えずとも、共有することがかえって好都合の場合もある。

 ニクスは深くため息を吐いたあと、シロネに今までの経緯を伝えた。ただし、ラピスの魔核のことを伏せたまま、遺跡を調べている理由をスティアの出自に関わりそうだからという理由に変えて。

 しばらくしたあと、話を聞き終えたシロネは、きょとんとした表情をしていた。

 

「えぇ……。魔核よりも不可思議なんだけど……」

「ほぉれ、わしと似たような反応じゃ。わしが荒唐無稽といったのも無理なかろう!」

 

 あの時も、別にそこは突っ込まれていなかったような。不可思議なのは、確かだしな。

 

「でも、そっか、記憶喪失か……。ってことは、魔核が根本的にどういうものか理解してないということだよね。だから、あんな簡単に口にしたのか」

 

 スティアが魔核のことを言い出したことだろう。

 確かに、情報を開示したことによる弊害を理解していなかったように思う。もしかしたら、彼女の無頓着さのせいかもしれないが……。

 

「まあ、諸々聞くと、隠す意図は理解できるかな。ただ、総局にも隠しているんだね。レオン君に報告したときのことを思うと、意図的に情報を制御してるよね」

 

 ニクスは軽く視線を逸らし、答える。

 

「ああ、そうだな……」

「別に責める気はないよ。さっきも言ったけど、隠す意図は理解できるし。ん~、そうだなぁ」

 

 シロネは考えるように顎へ指を添えた。

 

「……ひとつ聞きたいんだけど、ソフィーには伝えて、総局には伝えない理由は何かな。多分だけど、ボクに言わなかったのも、総長の娘だから彼らに伝わることを恐れたと考えられるけど」

 

 伝えない理由か……。あれは全体を見れば、ラピスも関わっているが、ことさら総局へということなら、話しても大丈夫だろう。そこは俺しか関わってないしな。

 

「分かった。……結論から言うが、総局というより、俺は総局に所属している魔究士(まきゅうし)を信用していない」

「ほう」

「六年前の浄化作戦。そのとき、摘発された研究所で俺はある研究に協力していたんだ」

 

 シロネは特に反応しないまま聞いている。この感じだと、ある程度推測していたのだろうか。

 ニクスは続けて話す。

 

「その研究成果と思われるものが、浄化作戦の二年後あたりで発表された」

「あー、魔装衣の耐久性上昇だっけ。それも魔素の」

「そうだ。当の研究成果を発表した人物は、それによって、六天になってる」

 

 当時、主導していた研究者は全員摘発されたはずだ。にもかかわらず、数年後に研究成果が表に出てきた。総局が公的に発表するならともかく、個人が発表したのだ。

 だから、摘発された人たちは、隠れ蓑に使われていた可能性がある。

 その六天は、現在総局に所属する魔究士を束ねている。

 

「もし、魔究士側に情報が渡れば、最悪俺のように研究に使われるかもしれない」

「なるほど。だから、隠しているんだね」

「ああ、そうだ」

 

 魔核を宿していることがバレれば、保護されて、そのまま隔離されるだろう。そうなると、魔究士側に知られる可能性が高い。

 スティアが口を開いた。

 

「あの……魔究士? に情報が渡らないように守ってもらうのって、そんなに難しいの?」

「難しいな。隔離される際、手続きなどで関わる可能性が高いからな」

「そう、なんだ。それなら、隔離されなければいいということ? それも難しいの?」

 

 これにはシロネが答えた。

 

「ほぼ隔離されると考えたほうがいいよ。スティアちゃん、魔物化というのは、症状が一律じゃないんだ」

「一律じゃない?」

「うん、どういった変化が現れるか分からない。つまり、魔物化というのは、上限がないんだ。極端な話をすれば、キミが魔物化した場合、ここにいる全員を圧倒するような魔物になるかもしれない」

 

 スティアが驚いたように目を見開いた。

 

「保護をするだけでは、魔物化した場合に止められない可能性も出てくるからね。平和のためであれば、隔離することもやむなしという感じかな」

 

 シロネはソフィーに向いた。

 

「ソフィー、彼女の実力は試したの?」

「ふむ? ああ、試したぞ。魔物化したとしても、経験則で言えば、お主で止められる。ニクスはきついやもしれぬがな」

 

 ニクスの脳裏にスティアがソフィーと戦ったときのことがよぎる。

 あれは、そういう理由もあったのか。

 ニクスはソフィーに言った。

 

「すみません、あのときは、ただ遊びたかったのかと思ってました」

「お主……常々思うんじゃが、わしに対しては正面から失礼なことを言うのぅ。本当に不敬じゃ。……魔物云々はモノのついでだったのは確かじゃが」

 

 まあ、ソフィーさんならありえるか。

 その二人のやり取りを聞いていたシロネが気を取り直すように言った。

 

「まあ、色々とすっきりはしたよ。気になったことも確認できたし……で、有用な資料は見つかったの?」

「いや、元々は旧文明のモノかを確かめたかったんだが、年代すら分からなかったらしい。旧文明というのも一説みたいだからな」

 

 シロネはほくそ笑んだ。

 

「となると、ニクス君にとっては、遺跡調査は無茶苦茶ありがたいというわけだ」

「……ああ、そうだな。今となってはな」

「なら、色よい返事を聞けるのかな?」

 

 もっと慎重に行きたかったが、この際しかたないだろう。

 ニクスが口を開きかけたところで、スティアが間に挟まるように口を開いた。

 

「待って、ニクス。その話、ラピスも交えて、話そ」

 

 シロネは得心がいったようにうなずいた。

 

「ああ、そういえば、家族に話してからって言ってたもんね」

「いや……」

 

 行くのは、ほぼ決めている。あとは、ラピスをその間どうするかという話でしかない。返事はこの場でもよさそうだが……。

 スティアを見ると、その目は少し怒っているように見えた。

 

「ま、結論を急ぐことはなかろう。屋敷の中にラピスもおる。そこで改めて話せばよかろう」

「……分かりました」

「それじゃ、ボクもご一緒しようかな」

 

 シロネのその言葉を皮切りに、四人は屋敷へと向かった。

 その傍らニクスは先ほど、スティアがシロネに魔核のことを告げたことを思い出す。

 一回目の資料探しなら、危険もなかったが、今回は看過するわけにはいかない。ちゃんと確認しておいたほうがいい。

 

 四人が屋敷へ到着すると、ニクスは切り出した。

 

「スティア、少し話がしたい。ちょっといいか?」

「え、うん……。分かった」

「ソフィーさん、先に向かっててください」

 

 ソフィーはうなずくとシロネと一緒に屋敷へ入っていった。

 ニクスは改めて、スティアに視線を向ける。彼女は首をかしげていた。

 

「ここじゃ、なんだ。少し裏に行こう」

 

 二人は屋敷の裏へと向かった。

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