拝啓 トキワシティの皆様
皆様、ご機嫌いかがでしょうか。俺─グレイは、幼馴染と一緒にレッドさんを探す旅をしています。手がかりこそ無いものの…二人でアズマオウを釣ったり、ピカと一緒に散歩したりと、充実した日々を送っています。襲ってきたシードラをララに追い払って貰って、溺れていたマサキさんを助けたり…なんてこともありましたが、今は…
「さぁ!そのピカチュウを渡しなさい!」
「わぁぁ!?こっちおりて来とるぅぅぅ!?」
…四天王カンナと名乗る不審者に、追いかけられています。どうしてこうなったって?あれはそう、今から数分前………
「なぁグレイ。結局、この麦わら君は誰なんや?それに、何でピカっちゅー名のピカチュウを連れとるん?本人は何か寝とるし…」
「そう言われても、な。生憎と、そう簡単には言えないんだ。寝てるのは…まぁ、寝る子は育つって言うだろ?」
「いや、そんなんで誤魔化されて「そのピカチュウ、渡してくださらない?」も…」
川辺にテントを張り眠る麦藁帽の少年を横に、抱えた疑問を吐き出すマサキ。
しかし、グレイはその疑問に答えようとしない。
そんな時、切り立った崖の上から声が響いた。
その発言から、間違いなく追っ手だと考えたグレイはララをボールから出し、マサキに麦藁帽の少年を起こすよう頼みながら追っ手へと相対する。
「なぁあんた、急に話しかけてくるなんて、どうしたのさ。ここは一旦、話し合いとか…」
「応じるつもりは無いわ。ジュゴン、“オーロラビーム”!」
「まずっ…!ララ、“でんきショック”で向かい撃て!」
「早う起きや!襲われてるで!」「むにゃ…あれ?マサキさん?」
ジュゴンの放った“オーロラビーム”をララの“でんきショック”が打ち消す。
麦藁帽の少年はその間に起きたようだが、直後に放たれた追い打ちの“ふぶき”によりグレイ達の周囲の地面は凍りつき、それどころか“ふぶき”に巻き込まれたピカは傷を負ってしまっている。
「ほら、どうしたの?その程度ではこの『四天王カンナ』の相手はできなくてよ!」
「四天、王…!?そうか、あんた達が…レッドさんを!逃げたピカを追ってきたんだな!?」
「えぇ!ポケモン一匹でも逃がしてしまえば、我ら四天王の名折れになる…。そのピカチュウを置いていくなら、あなた達は見逃してあげるわ!さあ!そのピカチュウを渡しなさい!」
「わぁぁ!?こっちおりて来とるぅぅぅ!?」
四天王を名乗るカンナが、ジュゴンの創り出した氷のレーンを駆使し少年たちを追い掛ける。
その速度は加速を繰り返し、ドドすけに乗っていない少年達では走っても逃げ切れないだろう。
「フフ…今までの攻撃は美しき氷のレーンを敷くためのもの。あなたたちに逃げられるかしら?」
「なら……ドドすけ!」
「……!?チィッ、砕きなさいジュゴン!」
麦藁帽の少年が指示を飛ばし、ドドすけが周囲にある氷の一部を掘り始める。
瞬く間に自身より大きな氷をくり抜き出すと、少年の指示に合わせ二つのクチバシでカンナへと投げつけた。
…だが、カンナは即座にジュゴンに氷を砕かせ、氷が落ちきったのち少年たちのいた場所を睨めつける。
カンナが見つめるその先には…
「…逃げたか」
…既に、彼らの姿は残ってはいなかった。
マサキと出会った川、その近くに開いていた洞窟に彼らは身を隠していた。
今我が身を襲う災難と彼らの会話から推測できてしまった事実を、マサキは息を切らしながら口にする。
「全く今日はなんちゅう日や!それに、四天王にレッド、ピカって…まさか、ソイツらがレッドを倒したって言うんか!?」
「あぁ、そういうことになる。レッドさんのもとについた挑戦状、その差出人に奴らが書かれてたんだ。その挑戦状に応えるために出てから、行方不明に…」
「そして、このピカだけが帰ってきたんです」
「そんな…。ポケモンリーグ優勝者のレッドが敵わん敵。しかも、四天王ってことはそんな実力者が四人いるってことや。どうすれば…」
帰ってきた答えに身を震わせ、ぼやくマサキ。
しかしその直後、麦藁帽の少年が先の攻撃で傷ついたピカを抱き寄せたかと思えば、突如として光と共にピカの傷が消えていった。
「…なんや、今の?きずぐすりは使っとらんかったよな?」
「説明がまだでしたね。ボク達は行方不明のレッドさんを探すよう、オーキド博士に言いつかってきました。」
先の光については一切触れず、とりあえずは自分達の立場だけを説明する麦藁帽の少年。
傷が癒えた現象は謎のままだが、マサキも何故レッドのピカがこの場にいて、この少年たちと一緒にいるのかは納得できたらしい。
「んー…一旦ここから出て…向こうの方に行ければ…」
「グレイ?急にボソボソとどうしたんや?」
「あぁ、どうせすぐに追いついてくるだろうからな。ララもまだ本調子とは言えないし、どう逃げるか考えてたんだが…」
そうグレイが答えた直後、何か不自然な音が洞窟に響く。何かが洞窟へと打つかっているのだろう異音。
それは幾度と無く繰り返され…
「うわあああぁぁ!?」
マサキが飛び退いた直後、先程までマサキが立っていた場所へと巨大な
麦藁帽の少年とマサキは敵に勘付かれたことを悟り、洞窟を脱出しようと出口へ駆け寄るが…その出口もまた、巨大な氷の塊に潰され、密閉されてしまった。
さらには出口の氷や外から続いているのだろう攻撃により、洞窟内は次第に冷気に侵されていく。
「寒ぅ…そうや!さっきのドードーのパワーで、氷を突き破ることはできへんか!?そうすれば…」
「できるでしょうね…でも…、敵にボク達の居場所はバレています。出た途端、ミサイルに狙い撃ちに…「いや、マサキの案で行こう」」
「バカ正直に出ても撃たれるだけだろうが、アイツは油断している。その隙を突ければ、可能性はあるはずだ。…いいか、作戦は……」
「そろそろ洞窟内は低温化し、身動しが取れなくなってきているはず。やけに大きいライチュウを連れているから、念のため強めにしておいたのだけど…必要無かったみたいね」
パルシェンとジュゴンに氷ミサイルを指示しながら洞窟を睨めつけているカンナ。
しかし、その顔には既に笑みを浮かべており、目には
彼女は早くも己の勝ちを確信していた。
その直後。麦藁帽の少年とマサキを乗せたドードーが氷の塊を突き破り、外へと駆け出して行く。ありもしない希望を抱いているのか、こちらを見ようともせず、がむしゃらに走り出した様だった。
「どうやらやけになったようね!パルシェン、ジュゴン撃ち抜きなさ…ッ!?」
既に完成させていた氷ミサイルを撃ち出そうとするカンナ達だったが、狙いを定める直前その目を強力な“フラッシュ”が襲う。
ドードーへ目線を合わせた瞬間を狙った想定外の攻撃に、一人と二匹は目を逸らせない。僅かに曝したその隙は、致命的なモノとなる。
(そう言えば…よく見ればあのドードーに乗っているのは二人だけ。灰色の少年とライチュウは、まだ姿を見せていない…!だとしても、一体どこから!?)
「なるほどな、ソイツがミサイルの本体ってわけだ。ライチュウ、パルシェンに向けて,“でんきショック”だ!」
「“からにこもる”、パルシェン!」
突如横から現れたライチュウの“でんきショック”はパルシェンの殻に阻まれるが、その特徴的な角は殻に隠せずにいる。
罅が入った角はついにはへし折れ、さらには麻痺まで生じている。しばらくパルシェンは戦闘できそうにはない。
不意打ちとはいえ、その攻撃は四天王のポケモンにすら届きうるものだった。カンナはライチュウへの評価を改め……
「まさか、正面から一撃を入れてくるとはな!こちらを見た瞬間、どちらかを封じれば氷ミサイルは撃てないと…そう判断し、ドードー達を囮に飛び出してきたわけだ!だが…このカンナ、ジュゴンだけでも劣りはしない!」
パルシェンを失ったカンナだが、ジュゴンの“れいとうビーム”をドードー、そしてライチュウへと放つ。
しかし、元より距離を離していたドードーは勿論、先程まで近くに来ていたはずのライチュウもまたドードーを追い掛け、追撃を避けたかと思えば前にいたドードーと並走しだす。
2m近くの巨体を持つライチュウは、驚くことにドードーに追い付けるだけの速度で走っているのである。
(そうか…最初から奴らの目的は私に勝つことではなく、逃げ切ること。そのためにドードーは敢えて正面から逃げ出して攻撃を引き付け、、ライチュウはそのスピードを活かし、隙を作り出すために一度こちらへと向かって来た!)
「…どうやら無闇に逃げ回っているわけではないようだな。お前達には何やら興味が湧いてくる!…名を聞いておこう!」
「…グレイ!グレイ・デ・トキワグローブ!聞いたからには、覚えておきな!」
「ボクは…ボクは、イエロー。イエロー・デ・トキワグローブ!!トキワの森のイエローだ!」
「あ~あのバカあれほど名乗るなって言ったのに…。グレイにも言わせないよう伝えてたんだけどなぁ。…にしてもアイツ、あんなアツくなるタイプだったのね…」
グレイと名乗る少年と、イエローと名乗る少年。それぞれを乗せたドドすけとララは、ある場所を目指し森の中を駆け抜ける。
その後ろに続くカンナとジュゴンは、“れいとうビーム”で地面を凍らせ氷の道を作りながら追い掛けて来ている。
その速度は、ドドすけ達すら超えている様だった。
ついには、カンナ達はドドすけ達の真後ろへと追い付き追加の“れいとうビーム”で逃げる先を塞いでしまう。
「お、おいグレイ!塞がれてもうたぞ!ホンマにやるって言うんか!?」
「あぁ、プランBと行こう。イエロー、右転して川に飛び込む!二人とも、ドドすけとピカを仕舞ってララに捕まってくれ」
「うん、後は任せたよ、グレイ!」「ちょ、ちょい待ちぃ!」
グレイ達は急旋回し、川へ走り出す。
イエローとマサキもララに捕まるが、ライチュウは陸地を住処としたポケモンだ。泳ぎに自信があるのかは知らないが、陸上程の速度を出すことはできないはず。
であれば。水上を行くのであれば、水タイプを併せ持つジュゴンが圧倒的に有利だろう。
たとえ何か狙いがあったとしても、カンナを翻弄し続けたグレイとライチュウを仕留めるチャンス。
(ピカにイエロー、そしてグレイ。…今追加された標的の中でまず削るべきは、彼らの中心であろうグレイ!彼さえ対処すれば、あとはどうにでもなるはず…!)
「ララ、“なみのり”だ!全速力で行ってくれ!」
「…何っ!?ライチュウが“なみのり”だと…?だが、水上は我らが独壇場。先刻の礼をしてやれ!パルシェン、“オーロラビーム”!」
僅かに
顔まで凍ってしまったのか、彼らは声を出すことすらできなくなっている様だった。
やけにあっけない最後だと思いながら、カンナは氷像へと向かう。
「随分手こずらせてくれたわね。全身を凍りつかされて、どんな気持ち………ッ!?これは…“みがわり”?他者の姿を真似た“みがわり”まで使えるなんて……」
彼女はその氷像を確認するも、凍りついていたのはララの作り出した“みがわり”だけだった。
本来“みがわり”は自身にそっくりの分身を生み出す技だが、放出した
ならばまだ下流に向かっているはずだとボールを構えるカンナだったが、その直後草むらの何処からか一発の墨弾が飛んでくる。
犯人を探すカンナだったがその人影は草むらに紛れ、目を離した間にグレイたちは目視できない距離まで逃げてしまった。
(イエローは機転は利くみたいだけど、大したポケモンを連れていない…。元の狙いのピカも、既に一度、この手で追い詰めた。…だからこそ、見覚えのあるライチュウとそれを従えるグレイを、ここで仕留めておきたかったのだけれど…)
「…ここまでくれば、大丈夫だろ。逃げ切れたみたいだな…!」
「はふぅ…良かったあ。ありがとねララ」
「ふぃー…やっと助かったんやな。しっかし驚いたでこのライチュウ、えらい器用やんな…それに何度見てもデカいし」
命からがらカンナからの逃亡を成功させたグレイ達は、速度を落としながら下流を流れていた。
張り詰めていた気を緩めながら、彼らは体を休める。
“なみのり”を続けているララも、イエローとの間に光が生じると失ったHPを回復しているようだ。
「ララは前一匹で旅をしていたらしくてさ、トキワの森に戻ってからはロケット団が連れ込んだポケモン達の相手をしてたんだ」
「通りでこんな強そうなわけや…てか、また光っとらんかった…?さっきはグレイも光ってたし、そのへんどうなん…」
「「すぅ…すぅ…」」
「って、今度はグレイもか…でもまぁ、誰でも隠したいことはあるもんやし、しゃあへんな」
その頃、カンナは通信機を取り出しセキエイ高原にいる誰かと連絡をとっていた。
相手は穴の空いた円盤状の石でできた何かを磨き続けている老婆。
「フェフェフェ…ご機嫌斜めだのう、カンナよ」
「油断したわ…。今思えば、あのライチュウは確かトキワの森のヌシだった。何より、あのグレイという少年は僅かにライチュウへ光を放っていた!それにトキワグローブという名前、恐らく…『ワタル』と同じトキワの森の力を持っている!」
「なんじゃと…?となれば、其奴が此度の能力者か。フェフェ…丁度いい、奴らが行くだろうタマムシには刺客を送っておる。たとえ元ヌシであろうと、ライチュウでは奴には勝てん。でんきポケモンに頼っているようでは、な」
「そう…キクコの送る刺客なら奴らも終わりね。私は横やりを入れてきた方を探すとするわ」
そうして四天王カンナとキクコと呼ばれた老婆の通話は終わりを迎える。
トキワの能力者と知られたグレイは四天王に狙われることになるだろう。
だが、彼女たちは見逃していた。否、考えるはずも無かったのである。
10年に一度生まれるという能力者が、二人いるなどと…
こうして、イエローの力は露見することなく旅は次の町へと進む。
彼らとカンナの激闘は、レッドを巡る旅の序章に過ぎないのだった…