トキワの森での戦いからからくも逃げ切ったグレイとイエロー。
彼らを乗せたララは川の流れのままに森から、東の方向に向かっていった。
道中マサキと別れをつげた彼らがたどり着いた次なる町は…タマムシシティ。
カントー有数の発展を遂げた大都会へと続く道で、彼らは一時の休みを迎えていた。
真夜中の間、イエローとピカによる「おや」問答、そしてエリカとタマムシ親衛隊の来訪があったのだが…
「むにゃ…イエロー、それはやめ…」
「きて…起きて、グレイ!寝てる場合じゃないよ…!」
カンナとの激闘で随分と消耗しているのか、未だにグレイは眠り続けていた。寝言を呟くグレイに、イエローはエリカより知らされたとある知らせを告げ、体を揺すり続ける。
「レッドさんが見つかったらしいんだ!だからグレイ、早く会いに行こうよ!」
「ん…イエロー…急になに……待て、レッドさんが見つかった、って…?」
「やっと起きた…そうだよ、ピカもすぐ行っちゃいそうだし、急いで」
タマムシ西郊外へと走り出すイエローとピカ。
グレイは目を擦りながら行き先も分からないままイエロー達についていく。
ピカが辺りを見渡していると、草むらの影より一人の青年がその姿を現した。
赤い帽子に黒い髪、手に嵌めた絶縁グローブ…その姿はまさに、イエローやエリカ達が探し続けていたレッドその人だった。
ついに見つけた自身の『おや』に嬉しそうに飛び込むピカだったが…
「…待てピカ、ソイツはレッドさんじゃない!」
「クク…まさかこんなすぐにバレるとはな。そう、オレはりかけいのおとこ!残念だったな、既にこいつはオレが手に入れた…だが、何故わかった?オレの全身を包む全身ストッキングにはコイツの本物のご主人様のにおいに似せた香料をしめこませてある。変身も完璧だったはずなんだがな…」
「目だよ。あんたの目には欲望が浮かんでいた。もし本物のレッドさんなら、ようやく会えた相棒に安堵するはずだ。そんな目してる奴、怪しいに決まってるだろ」
現れた青年が本物でないことを見抜いたグレイだったが、その警告は間に合わなかった。飛び込んだピカの耳を掴み、偽レッドはその変装を解く。その正体であるりかけいのおとこは放電するピカをものともせず、警戒しながらにじり寄るエリカと親衛隊へボールから出したガラガラの“ホネブーメラン”で攻撃する。そのブーメランは弧を描き…グレイの側頭部を強打し、ガラガラの手に戻っていった。
「…っぁ、ぐぅ…!」
「ふん、チョロいもんだ。じゃあな!あばよ!」
「そんなっグレイ!「大丈夫、それよりピカを…」…っ、待て、ボクのピカを…返せ!」
「…あ?ボクのピカだぁ?」
思わず頭を押さえるグレイを見るイエローだったが、ピカを攫っていくりかけいのおとこを無視することはできない。イエローはりかけいのおとこへと向き直り、啖呵を切る。
「そうだ、レッドさんが見つかるまではボクが…。このイエロー・デ・トキワグローブが…ピカの『おや』だ!」
「おまえがこのピカの『おや』だと!?ヒヒヒヒ…笑わせるぜ!だったら奪い返してみろっつーんだよ!!」
りかけいのおとこがポケモンを繰り出し、イエローに向けて攻撃を命じ、ペルシアンの“みだれひっかき”にパラスの“ねむりごな”がイエローを襲う。
幸いその攻撃が当たることはなかったが、その間にりかけいのおとこは町の中へと逃げ込んでしまった。
イエローは
「町のほうへ!よおし、こうなったらこっちも総力戦だ!」
「待って…!総力戦って、コラッタとドードーだけじゃ!?今まで他に捕まえたポケモンは…?」
「いたけど…みんな逃がしちゃいました。今、いるのはこの二匹とピカだけです。」
「逃がしたって…どうして…」
「ボクたちの旅の目的は図鑑完成じゃないからです。側にいるのは仲良くなれる何匹かだけでいい!」
そう言い残し、夜の町へ駆けていくイエロー達。
…ピカを諦めたくない。その意志を、エリカには止めることができなかった。
「なら、私たちも…!」
「いや、ここは俺が行きます。…あなたたちには、あいつがどこでレッドさんのにおいを手に入れたか、調べてほしい」
「でも、さっきあなたは…そのライチュウも戦えそうには…いえ、分かりました。そこまで固い意志を持っているというなら、止めることはできません。ですが、事が分かり次第私達も続きます!」
追いかけていったイエローの後に続こうとするエリカだったが、グレイは移動のためにララを呼び出しながらそれを止める。
頭を打たれたにも関わらず、
グレイがイエローを見つけた時、彼は“ホネブーメラン”に襲われていた。何か策があるのか、ラッちゃん達をボールに入れ、何かを話しかけている。
(あとは頼んだよ、ラッちゃん…ドドすけ…!)
そう覚悟を決め、両手を広げ“ホネブーメラン”を受け止めようとするが……その衝撃は、いつまで経ってもやって来ない。
「あまり体を張りすぎるなよ…おまえが傷つくところなんて、見たくないんだ」
「…グレ、ィ…?どうして、ここに…?」
グレイが、その両手で“ホネブーメラン”を掴み取っていた。
本来肋骨が折れるはずの威力だというのに、グレイには一切のダメージが入っていない。
グレイは泣きだしてしまったイエローから何かを受け取ると、“ホネブーメラン”に括りつけりかけいのおとこに向けて投げつける。
「ほら、こいつは返してやるよっ!」
「あのガキ、何で動ける…!?バカなガキで遊んでたってのに!…!?ブーメランに、ボールが…」
グレイの投げたブーメランがりかけいのおとこの顎に直撃し、思わず手を離した瞬間ピカはその腕から逃げ出す。
諦めずにいるりかけいのおとこだったが、直後その周囲を正義のジムリーダーズことエリカとカスミ、タケシ…そしてカツラが取り押さえる。
「ぬぅ…こうなったら…パラスの“どくのこな”付き“ホネブーメラン”を浴びて死ね「いいえ、もうあなたの負けです」ぐあっ…!?」
最後の抵抗をするりかけいのおとこの背中に石が直撃する。
周囲に浮かび続ける石。その正体は、ラッちゃんが削り出しドドすけが蹴り上げ……ピカが怒りの“放電”で磁力を帯びさせた鉄筋コンクリートの破片だった。留まった電気により磁石化したりかけいのおとこへ破片が打つかり、その体を覆っていく。どうやら、彼はその衝撃で気絶した様子だった。
「やれやれ、ムチャをする子供たちだ…よほどおまえさんを信じているようだな、ピカ。今の作戦は、おまえさんの電撃が無ければ成し得なかった作戦だ」
「どうする、ピカ?ここにいる皆は誰もがレッドを心配しているわ」
「そして、誰についていくかは自由だぞ」
そうピカへ話しかけるカツラとカスミ、タケシだったが…一瞬の思考ののち、グレイに支えられているイエローへと抱きついた。
…やっとのこと、イエローとピカは『ほんとうのなかま』になれたのだった。
「ピカ…!えへへ、本当に、ボクで良いんだね…!」
「ふわぁ…良かったな、イエロー。…本当に、何とかなって…すぅ…」
眠り出してしまったグレイと慌てふためくイエローを尻目に、ジムリーダーズはスケッチブックを返しながら彼らへの褒め言葉を口にする。
その後カツラからカスミへの謝罪、カツラとガーディによる調査があったのだが…その結果。
りかけいのおとこが手に入れた切れ端はタマムシの北、昔月の石が落ちたというオツキミ山だということが判明した。
その手がかりをもとに動き出そうとしたが…直後、気絶していたはずのりかけいのおとこの体が宙に浮かび始めた。
よく見れば、どこからか漂ってきた黒い霧が彼の体を締め付けているようだった。
黒い霧は強い力をかけ続けているのか、体が軋む嫌な音を立てながらりかけいのおとこを連れどこかへと浮遊していく。
このままでは、せっかくの証拠となる彼は死んでしまうだろう。
連れ去ろうとする誰かの陰謀を砕くため、、ジムリーダーズはガーディ、ゴローン、オムナイトを構え、救出へ向かう。
「あれは…いったい…カスミさん、大丈夫なんですか?ボクも手伝って…」
「あれが何かはわからないけど…大丈夫よ!あなたたちは休んでいて。私たちだってそう簡単に逃さないわ」
オムナイトの“みずでっぽう”とゴローンの“メガトンパンチ”がりかけいのおとこを締め付ける霧を引き裂く。
そのまま二匹は彼の体にしがみつき、地面へと引きずり下ろそうとするが、それを妨害すべくちぎられた霧は一箇所に集い、その正体を現した。
「あれは…『ゴース』!この霧の正体はあいつか!」
「よし、ポケモンと分かれば話は早い。あの霧をコイツの熱風圧で吹き飛ばす!…ガーディによる高温の息吹を食らえ!」
「いけませんわ、あの木のカゲに野生ポケモンが!」「何っ!?」
「…いっけええええ!」
核を現した霧の正体は『ガスじょう』ポケモンのゴース。
カツラはガーディの炎攻撃でゴースを倒そうとするが、その先には木の上にキャタピーが隠れていた。
あわや巻き込まれるところだったキャタピーだが、イエローはピカを入れたボールを釣り竿の先につけキャタピーに向けて振りかぶる。
ゴースは炎に包まれ吹き飛ばされるが、キャタピーはピカに抱えられ地上まで怪我することなく届けられた。
「アハ…ナイス、ピカ!」
「なんて子だ…さすがだよ、イエローくん。まだ体力も戻っていないだろうに、よく行動したな。君のウデは確かに見せてもらったよ。」
「えへへ…頑張ってくれたのは、ピカですから…」
「…んぅ…まずっ、寝ちゃってたか…」
「良かった、起きたんだね…おはよう、グレイ」
目を覚ましたグレイに、それを迎えるイエロー。
そんな二人を微笑ましそうに見ながら自己紹介を済ませる
(カツラ…?どこかで、聞いたような…?)
カツラの名前に何か感じるものがあったグレイだが、曖昧な記憶を辿っているのか口には出せずにいる。
その間にジムリーダーズは会議を進め、カツラがスーツの分析、タケシがオツキミ山の調査を。
そしてエリカは緊急時の戦力を集めにいこうとするが…吹き飛ばしたはずのゴースが復活し、りかけいのおとこを操り再度襲いかかる。
抵抗は間に合わないと思われたが…
「相手は霧状のポケモンだ!核を撃て!」
「…誰だ!?」
「霧は吹き飛ばしたり引き裂いたりするよりも…全体を統率している核を撃ち抜く。そうすれば復活を阻止できる。」
「…グリーン!ありがとう、助かったわ。でも、どうしてここに?」
復活したゴースはビルの上から姿を現したリザードンに撃ち抜かれた。
そのリザードンの『おや』であるグリーンは、りかけいのおとこの背後には四天王キクコがいると語る。
グリーンによると、以前キクコと戦ったことがあるらしくゴースの攻撃パターンが同じであることやキクコはグリーンのおじいちゃん──オーキド博士に恨みがあるらしい。
ジムリーダーズは四天王の差し金に緊迫した様子で話し合う。
さらにグリーンは釣り竿でちゃちゃを入れたイエローへ優しさと甘さは違うことを知った方が良いと告げる。
カスミはその言い方はあんまりだと抗議するが、イエローとグレイは厳しいながらも的を射ている主張に反論できずにいた。
「そいつを責めるつもりはないが…レッドなら、あの状況でもキャタピーを助け敵も討つ方法をひねり出していたはずだぜ。ヤツを助けに行くなら、そのくらいのレベルが必要だ…四天王に対抗するならせいぜい自分を鍛えるんだな」
グリーンはそう言い残し飛び去ろうとするが、イエローが待ったをかける。
レッドを助けるためにもっと強くなりたいというイエローにグリーンは好きにするよう言い、タケシとカスミは修行へ向かうイエローにオムナイトとゴローンを渡す。
「ありがとうございます、カスミさん、タケシさん。…グレイは、どうするの?」
「…俺は、ついていくつもりはない。グリーンさんといたほうが強くなれるだろうし、俺も仲間を探してこないとだからな…。だから、クチバだ。あそこなら、港があるからどこへでも行ける…クチバで、また会おう!」
「クチバで…。うん!クチバでまた!それじゃ…いってきます、グレイ!」
「あぁ、いってらっしゃいイエロー。俺も、早くポケモンを集めるとするかな」
イエローはグリーンについていったが、グレイはタマムシに残るようだった。
彼らはクチバシティで再開することを約束し、次のステージへ向かう。
グリーンたちが去った後、ふとあることを思い出したカツラが疑問を投げかける。
「そういえば…グレイくんはブーメランを受け止めていたが、相当な威力だろうに怪我をしていないだろう。あれはいったい?」
「あー…あなたたちになら、言ってもいいかな。…ララの力を借りたんですよ。『こうげき』や『ぼうぎょ』を分けてもらって…ですね」
「ポケモンの力を…?そうか、聞いたことがあるぞ。トキワの森の力…キミはトキワの森で育ったんだね?」
「まぁ…そんな感じです」
「…?しかし、そういった力もあるんだな…」
「みたいね、タケシ。びっくりしちゃったけど…このことは内密に、よね」
自身の秘密である森の力を明かすグレイ。
明かされた力に驚くジムリーダーたちを置いて、グレイは町の外へと歩き出す。
カツラはグレイにどこへ行くか聞くが…
「おや、どこに行くんだい?まだ夜だ、少し休んでいったほうが…」
「外にテント張ったままだったので…一度テントに戻って寝ますよ。朝になった出ていくつもりです」
「そうか…私は普段グレン島の研究所にいる。もし寄る機会があれば、遠慮なく来てくれ」
「ありがとうございます…それじゃ、お休みなさい」
そう言いグレイは歩き出す。
朝になればまた旅は続くが、今はまだ時間がある。
せめてもの休息を取りにいくのだった。
「ほう…あれがグレイとやらの力かい。さしずめ、『繋ぐ者』といったところかの。…さて、ワタルたちに伝えるとするか…フェフェフェ…!」
グレイたちが戦っていた場所近くのビル。
そこから彼らを監視していたキクコは他の四天王への通信を開始した。
『繋ぐ者』と名付けられたグレイの力。
その力がこの物語に及ぼすだろう影響は未だ、誰にも分からない。
修行へ向かったイエローと仲間集めに向かうグレイ。
二人の旅が再び交差する場所は、カントー中央部に位置するクチバシティ。
いつか来たるその時まで、各々力をつけ備える旅へ赴くのだった。