「まったく…目を離したら、すぐにこうなんだからさ」
「誰だ、おまえは?オレの邪魔をするのか?」
マントの男のハクリューをリリの尻尾が弾く。
イエローとピカがハクリューに巻き付かれることはなかった。
だが…妨害されたマントの男は苛立ちを隠せずにいる。
体制を立て直すと、リリを見つめながらグレイへと話しかけた。
「ほう、ドラゴンポケモンを連れているのか。だが、邪魔をするなら容赦は…」
「イエロー、大丈夫か?あの変なマント着けた不審者に何かされてないか?」
「う、うん!ごめんね、今回も助けられちゃった…」
「いいんだよ、怪我してないん「人の話も聞けないのか、貴様ぁ!」なら…」
…男を不審者扱いしながらイエローと話しだすグレイだったが、無視された男はついに声を荒げだした。
久しぶりの会話を邪魔されたグレイまで苛つきながら、二人はようやく対話を始めだす。
「結局誰だよ、おまえ。町をあんなにしてさ…。悪事働いてる奴が、まともに取り合ってもらえるとでも思ってるのか?」
「フフ…。悪事か。そうか、オレのあの行為は悪事か。だが考えてもみろ、ポケモンにとってはくそ狭い町まちで飼い慣らされるより良いとは思わないか?」
「…はあ?」
「ポケモンが生きやすい世界を作るには人間は邪魔なのだ。この世界において優秀なトレーナー以外の人間を滅ぼす!それがこの四天王『ワタル』の目的だ!」
マントの男はその名と目的を明かす。
ワタルと名乗った彼の目的はしかし、グレイとイエローからすれば到底受け入れられるものでは無かった。
「人間は邪魔って…人間を滅ぼすなんて、そんなの…!」
「おまえは…そうか、そいつと一緒にいるということは、カンナの言っていたイエローか。しかし…おまえもそちら側なんだな、グレイ。いや、敢えてこう呼ぼうか。
プロジェクト『PURPLE』とな!」
「プロジェクト、『PURPLE』…?グレイ、何を言ってるか分かる?」
「…知ってる。誰よりも、知ってるよ。だけど…何であんたが、それを知っている…!?もう研究所も、データも残っていないはずだ!」
「フ…せっかくだ。ここは一つ、オレが思い出させてやろう」
プロジェクト『PURPLE』。
それは、今から11年前にロケット団のある研究チームが始動したプロジェクトだ。
トキワの力に目をつけた奴らが、その謎を解き明かすために始めた再現実験。
トキワの森の土壌や草木を研究室に移植し、森の環境を再現した上で…赤子に能力者の遺伝子を注入し、能力の覚醒を促した忌むべきもの。
だが…結局、能力に目覚めた者は一人。
再現性を求めたあまり、他の子供たちは無理な実験により全員死亡。
研究所の壊滅と成功作の脱走により、計画は凍結された…だったか。
「まさか、また会うことになるとはな。『PURPLE』…いや、今はグレイか」
「な、んで…研究所は、もう滅びた。それに、知っている人なんてほとんどいないはずだ!生き残った研究員か、あのとき助けてくれた人くらいしか…!」
「分かっているじゃないか。あのとき、おまえを助けたのは…そして、おまえの力に与えた遺伝子の持ち主は!」
「このワタルだ!」
グレイは、言葉を出せない。
あの地獄から連れ出してくれた人が、ワタル?
だというのなら、何故こんなことを…?
「その計画がなにか、分からないけど…あなたも、トキワの力を持っているなら…どうして、こんなことを!?グレイを助けてくれたんでしょう!?」
「だからこそだ!人間はポケモンを傷つけるどころか、同じ人間にさえも躊躇をしない…であれば、もはや滅ぼす以外に道はないだろう…!」
二人の会話がなにか分からずにいたイエローだが、せめてもと唯一分かったことを問いただす。
しかし、ワタルはイエローに何を言われても止まりそうにない。
呆然としているグレイを守りながら戦おうとするイエローだったが…
「…あんたが…いや、あなたが。そんなに悲しい道を選ぼうってんなら…!」
「俺は、俺たちのために…そして、茨の道を行くあなたのために!あなたを…絶対に、止めなきゃならない!」
「…おまえが、ここまで人間性を取り戻しているとはな。やはり、彼らに託して正解だったようだ…。ふむ、
「…え!?どうして、ボクのことを…ずっと、隠してたのに!?」
ワタルはイエローが女の子であることを知っているらしい。
だが、それも当然だろう。
当時三歳だったグレイをイエローの家族に託したのは…他ならないワタル自身なのだから。
「安心しろ、他の四天王に伝えるつもりはない。それで決着がついては、納得できないからな。…手段を選ぶつもりはないが、オレは
「諦めて、くれないのなら…!ここで、決着をつけてやる!リリ、“たつまき”!」
「ピカ、ボクたちも!“10まんボルト”!」
竜使いであることを明かしながら、その矜持を示すワタル。
彼を止めるべく、グレイとイエローは攻撃を仕掛けるが…呼び起こした雷雨によって強化されたワタルのハクリューが、“はかいこうせん”でそれを打ち消す。
このまま戦闘を続けても、攻撃が通りそうにはないだろう。
「無駄だ、グレイよ。今のおまえは、まだ動揺から戻ってこれてはいない。戦う意味もないだろう…おまえが万全の状態になってから決着をつけるとしよう!それまでは…おまえたちの命は、預けておく!」
そう言い残し、ワタルは海へ去って行ってしまった。
追いかけようとするグレイたちだが、“はかいこうせん”の衝撃によりリリはまだ動けそうにない。
ワタルの去った方向を睨めつけていたグレイだったが…突如としてその体が崩れる。
イエローはリリの体に乗り移り、急いでグレイを支えるが…顔を見れば、グレイは泣いているようだった。
「どうしたの、グレイ…。どうして、そんなに泣いているの…?」
「俺は、さ。ホントは真っ当な人間じゃ、ないんだ」
俺は、ワタルが言っていたように研究所で遺伝子を注入された。
だけど、それだけじゃないんだ。
俺は、他の子供とは違ってワタルの遺伝子以外にも、『あるポケモン』の遺伝子が埋め込まれた。
そのポケモンは…『ミュウ』。
全てのポケモンの遺伝子を持つと言われる幻のポケモン。
その遺伝子により力は方向性づけられて、トキワの森の力を授かった…。
「イエローにだけは、知られたくなかったんだ…。知られたら、いなくなっちゃうんじゃないかって…」
「…ねぇ、グレイ。ボクは、そんなに頼りにならない?」
「っ、違う!そういうわけじゃ、ないんだ。ただ、どうしても怖くて…!」
弱音を吐くグレイを、イエローは優しくその胸に抱くと慰め始める。
「よしよし…。大丈夫…、大丈夫だよ。ボクは、ここにいる。いつまでも、ずっと一緒にいるから…。だから、元気をだして。それに…グレイはボクと同じ人間だよ。ちょっと人と違う個性があるだけなんだ。人間じゃないなんてそんな悲しいこと、言わないでよ…」
「イエ、ロー…!っぐす、ゔあぁぁぁぁぁ…!」
「ん…大丈夫、大丈夫…。」
そうして、しばらくたったあと。
ようやく泣き止んだのか、グレイはその顔を上げると。
まだ恥ずかしいのか…赤くなった目を逸らしながら話し始めた。
「ありがと…もう、大丈夫だ」
「そっか…よかった。その、これからどうするの…?一度、休んでも…」
「いや…ワタルを追いにいこう。放っておくなんて、できないよ。…それに、人間は傷つけるだけじゃない。誰かを助けることも、ポケモンと友達になることもできるって…教えてやるんだ!」
「ポケモンと、友達に…。うん、そうだね…そうだよね…!…あっでも、さっきは言わなかったけど…ボクだって怒りたいことはあるんだよ?いっつも無理して…ケーシィさんからも聞いたんだからね?」
「うぇ!?い、今はご勘弁を…
ほ、ほら、このままリリに乗って行こうぜ…?」
「ん…今は、誤魔化されてあげる。ピカ、ボールに戻って…。じゃあ、海の向こうの次の町に…行こう!」
グレイたちはワタルの向かった方向へリリに乗り飛び続ける。
その途中、イエローのお説教はまた始まっていたのだが…
(なんだろ、この感覚…。イエローとくっついてると、心がポカポカするような…っ!?違う違う違う、イエローは家族なんだぞ、気のせいなんだ、これは…!煩悩退散、煩悩退散…!)
(グレイ、なんだか暖かいような…?ボクまで暖かくなっちゃいそう…)
『ドウシタ、ララ殿。「抱けぇぇぇぇ!抱けぇぇぇぇぇ!!」ッテ…急ニナンナンダ…?』
そうして、しばらく飛んでいたところ…グレイたちは、『ふたご島』にたどり着いた。
リリの体力が自然に回復するまで休むことにした二人だったが。
二人が釣りをしていると、ふらふらと飛んでいた『カモネギ』が海へと落ちていくのが見えた。
イエローがピカの“なみのり”で落下点に先回りし、その両手でカモネギを受け止める。
どうやら翼を怪我しているようで、二人はトキワの力でその怪我を癒す。
ガァガァと何かを伝えたいことがあるらしいカモネギの心を読んでみると…急に自分の巣の位置が分からなくなって帰れなくなったと、おまけに傷も森に攻撃されたという。
困っているポケモンを助けずにはいられない。
グレイたちはカモネギを連れて、森に足を踏み入れたのだが…
「確かにこれは、迷いそうだな…。『来るたびに様子が変わる』らしいし…」
「一緒に巣を探してあげるにしても、迷わなくて済むように…よし、ピーすけ!…こうしてっと」
「へぇ…そのキャタピー、タマムシのときのか?糸をかけていけば戻るのも容易いか。よく考えたな、イエロー」
「うん、ついてきてくれたんだ。それじゃあ、まずはココから真っすぐに進んでいこう!」
二人は真っすぐ前へと歩いていくが…気づけば、目の前にピーすけの糸が見える。
真っすぐ進んでいたはずなのだが、同じところをぐるぐる回っていたらしい。
明らかにおかしい様子に、二人は警戒していたが…不意に、背後から木の実が飛んでくる。
「…!ピカ、“でんきショック”だ!」
「ッキング頼んだ、打ち返せ!」
飛んできた木の実を打ち落とすが、次々と木の実は襲いかかってくる。
しかも…何が何やら、周囲の草木がその根を抜き始めた。
「埒が明かない…!森を抜けるぞ、イエロー!ララ、乗せてくれ」
「わかった!ドドすけ、頼む!森の外へ…!」
木の実が落ち続ける森を、当たらないように全速力で駆け抜ける。
森を抜け、見晴らしの良い崖の上から二人が見たものとは…
「あれは…森そのものが、移動しているのか!?」
「ううん、違う…!森だと思っていたのは、ナッシーに…ナゾノクサだ!」
『まったく!おまえたちはこんな時じゃなきゃ連絡をよこさんのか!?』
「だって通信は盗聴される危険があるって…」
「俺はそもそも通信器持ってないし…」
二人はナッシーたちの起こした謎の現象を相談すべく、オーキド博士に通信をとっていた。
少々叱られはしたが…博士はすぐにその答えを教えてくれた。
『まあいいわい。いや、グレイくんはあまりよくないが…ナッシーとナゾノクサの大移動にあったんじゃな。カモネギが迷っていた原因は、わかったじゃろ。問題は…「大移動がなぜ起きたか!?」じゃな。…繁殖の時期ではないし…、もしかすると…』
「「もしかすると?」」
『野生の生物は大きな危機の前触れを、敏感に悟るものじゃ。天変地異や…もしくは、それに匹敵する巨大な力を!』
「巨大な、力…!」
三人が通話をしていた頃、スオウ島にて…
ワタルはカンナとキクコを背に、彼らを待ち続けていた。
「敏感な生物は、気づきざわめいているはずだ!この四天王の将ワタルが動こうとしていることをな」
「すぐに再び
「森だったところがただの空地になっちゃった」
「へぇ…咥えてたの巣を作るための材料だったのか。森は移動しちゃったけど…おかげで、おまえの巣は見つかったな」
ナッシーたちの森が移動し、見る限りの空地となった島で、グレイたちはカモネギの巣を見つけることに成功していた。
ようやく巣に帰れたカモネギも、嬉しそうにお礼を繰り返している。
「アハハ!そんなに何度もお礼はいいって…こっちも楽しかったから!」
「それにしても…天変地異かそれに匹敵する力って、何が起こるんだろうな、このカントーに…」
「わからない、けど…きっと、この先に行けばそれもわかるはず」
「あぁ。それじゃ、そろそろ行こうか」
騒動の答えを求め、グレイたちは次の島へ移動を始める。
旅の終わりが近づく中、彼らはハッピーエンドへたどり着けるのか。
その答えもまた、未だ見えず。
だが…その訪れはもはや、遠くはないだろう…