初戦
「そうか・・・。なら、完成させるといい。大丈夫だ、きっと・・・いや、絶対に完成させられるよ」
昨日のパーティーで、俺―――神童拓人が主催家の山吹家のご令嬢で、後輩の山吹楓に言った言葉。自分でも、あんであんな言葉を言ったのか、全く迷いがなかったのはなぜか・・・ということが、不思議で仕方がない。
帰りのリムジンの中。
父さんは珍しくお酒に酔ったらしく、前の席で酔いつぶれている。そんな父さんを横目で見ながら、俺はつぶやいた。
「デビルバースト、か・・・」
確かに剣城なら、体力もキック力もある。しかし、楓の言ったように、今の俺たちと剣城だと、息が合わないのは目に見えている。
くそ、俺はキャプテンなのに・・・。
どうすればいいのか解決策が浮かばない。悔しい。ギュッと強く、俺はこぶしを握った。
翌日、とうとうホーリーロードが始まった。
新監督で10年前のFFIの日本代表・イナズマジャパンのキャプテンだった、円堂守監督を迎え、新雷門として進み始めた。
しかし、チーム内でのいざこざもまだ多い。本当のサッカーを取り戻そうとしているのは、1年生の天馬と信助、俺と3年生の三国先輩くらいだ。楓も、協力的なほうだと思うのだが・・・。
逆に、シードの剣城は、信用すらできない。きっと、試合にも出ないつもりだろう。
初戦の相手は、天河原中サッカー部。
キャプテンは俺と同じく2年生の、喜多一番。試合結果は、俺たちの負け。しかし、俺たちは負ける気はさらさらない。
―――本気で、勝ちにいく。
試合の前、1年2人が、俺のところへとやってきた。楓は、昨日のパーティーの疲れが出たのか、残念ながら試合には出られないようだった。
しかし、楓がいようがいなかろうが、本気で勝ちにいく。絶対に、勝てるに決まっている。
―――しかし、俺は知らなかった。
楓が、風邪で休んでいるわけではないということを・・・。
試合が始まった。
私―――楓は、その様子を河原翔とともに、スタンドの影の部分で眺める。―――私はシード。
どうやら雷門は、本気で勝ちにいくつもりらしい。そうしたいのは、私も山々。だけど・・・
「楓・・・裏切るわけじゃ・・・ねぇよなァ?」
「ッ・・・わかって・・・いるわよ・・・」
―――やっぱり、勝敗指示は裏切れない。裏切ってもいい、本当のサッカーを取り戻してほしい・・・聖帝のイシドシュウジ―――豪炎寺さんからのお願いだ。
でも、決まりを破ることは、いけないこと。破ることによって、フィフスセクター―――千宮路大悟から、どんな仕打ちが雷門にされてしまうか・・・それを考えると、私は・・・。
気がついたときには、雷門が1点を入れていた。
うれしさと悲しさが、心の中で交差する。
「チッ、何奴ら、勝敗指示破って・・・!」
「・・・本当ね、いったい何を考えているのかしら・・・」
―――ウソ。やっぱりうれしい。
―――でも、本当。自分たちに何が待っているのか、考えないのか・・・。
「楓・・・っ?」
「ッ、ごめん、翔。さぁ、もう行きましょう」
「・・・いいのかよ?まぁいい。・・・行くか」
これ以上試合を見ていられなくなって、私は逃げるようにその場を立ち去る。
出口で翔と別れ、私は携帯で家に連絡を取ろうと思った。しかし、電話帳の中の“自宅”のところで、指が止まり、やがて電話帳を閉じた。
「はぁ・・・」
大きなため息をつき、その間にしゃがみ込み、顔を膝の中にうずめる。
「うっわ、惨めな姿」
上から聞き慣れた声がして、顔を上げる。そこにいたのは・・・
「剣城・・・何の用よ」
その相手―――剣城をにらみ、立ち上がる。しかし、私の身長は158センチくらい。剣城は165センチ以上はあるようで、とうていたわなかった。
いつもの紫の学ランを風になびかせ、剣城は私の目の前に立つ。私の髪も、風になびく。
「おまえ、試合に出なかったんだな。やっぱり怖いのか、ウラギルことが?」
「そんなわけないでしょ」
ウソ、図星。
「体調が悪かっただけよ」
でも、本当のことは言う気にはなれなくて・・・。
剣城は、感情のない冷たい笑みを浮かべ、踵を返して立ち去った。
剣城が角を曲がり、姿が見えなくなった瞬間、私は腰が抜け、その場に座り込んでしまった。
「・・・何よ、この前―――屋上では、ちょっと優しかったのに・・・私たちは、昔のように戻れないのかしらね・・・」
1人で呟いて、急に悲しくなった。
―――もう、私たちは・・・
あのころのように、“私”と“瑠奈”と・・・“京介”と
―――仲良くなることは、出来ないのかしら・・・。
「・・・最後まで、試合を見ることにしましょう」
私は、さっき出てきたスタジアムに、もう一度はいって行った。
「雷門には・・・勝ってもらいたいもの・・・ね」