「はぁ・・・久々に・・・お母さんのこと・・・考えたわね・・・」
天馬たちを見送り、門が閉まってから、私は門によりかかった。そして、つぶやいた。
お母さん―――山吹桜子は、淡いピンク色のウェーブのかかったロングヘアー、若干つり目の目に、茶色の瞳。私から見ても美人で、聡明で、世界を動かせるほどの信頼があって・・・。
―――本当に、尊敬している。
でも、お母さんは、財閥総帥として世界中を飛び回る。さっきも天馬たちに言ったように、年に1度会えるか会えないか・・・。
本音を言うと、やっぱり寂しくって、哀しい。でも、それがお母さん。私の尊敬する、山吹桜子なんだから、私はそのことを、心の底から応援する。
―――お母さんといえば、やっぱりもう1人のお母さんも思い出す。
―――光山灯。私の・・・本当のお母さん。山吹桜子は、私が6歳のころに私を引き取ってくれた、養母。光山灯は、私が3歳のころに、飛行機事故で亡くなった。
「ママぁ・・・会いたいよぉ・・・」
光山灯―――ママのことを思って、私は今でも、泣いてしまったりする。本当のことを言うと、顔も覚えていない。でも、写真なら持っている。
私が引き取られた時、私は写真どころかママの遺品1つ持っていなかった。でも、お兄さんが、ママと関係があって、写真を持っていた。
私を初めてみた時、お兄さんは言った。―――“灯さんに、そっくりだ”
そのことは、写真を見ればわかった。私と同じ黄髪、下のほうでサイドテールにしていて、髪はストレート。私よりも若干ピンクに近い瞳。ただ目だけは、たれ目で優しそうだった。
私のこの目は、私たちを捨てた父親に似たんだと思う。父親のことは、お兄さんも知らないし、当然私も知らない。まぁ、顔を見たいとは思わないけど。
「あ、楓ちゃん・・・」
しゃがみ込んで門によりかかっていると、聞き慣れた声がした。
「麗一君・・・」
やってきたのは、帝国学園サッカー部で、1年生の雅野麗一君。私と一緒に、レジスタンスに入って、一緒に戦っている。
「ごめん・・・恥ずかしいところ、見られちゃったわ・・・」
涙をぬぐって、無理やり笑顔を作る。麗一君は、そんな私を心配してくれる。
いっしょにがんばっているから・・・麗一君は裏切れないから・・・やっぱり私はフィフスセクターを・・・裏切らないと・・・いけないの。
「楓ちゃん・・・大丈夫だよ、たくさん泣いて。僕は、もう行くから・・・さ」
また目の前が、涙で滲んでくる。せっかくたったのに、また足の力が抜けて、へにゃへにゃと座り込んでしまう。
麗一君が立ち去ったのを確認して、私は泣いた。
1人は、どうも苦手。孤独を感じてしまう。
その時、耳元で大きな音が鳴った。―――チャイムだ。
その場で応答する。なるべく泣いていたことを悟られないよう、努めて普通どうりに頑張った。
「はい、どちらさm―――」
「楓お姉ちゃーん!」
さらに耳元で、大きな声。この声は・・・
「有美ちゃん?」
「有美だけじゃないよー。私と有人もいるよー」
「え・・・芽さん・・・?」
やってきたのは、お兄さん、鬼道有人さんの家族だった。奥さんの芽さん、娘さんの有美ちゃん。年に数回やってくるだけなのに・・・本当に今来るなんて・・・間が悪い。
ガチャと音を立てて、門を開ける。それと同時に、有美ちゃんが抱きついてくる。
「え、ちょ・・・」
「こら、有美。楓―――お姉ちゃんが困っている」
「うぅ・・・はぁーい」
お兄さんが注意をして、有美ちゃんが渋々離れる。―――私も、こんな家庭に生まれていたら、どんな人生を歩んでいたんだろう・・・。
あ、やばいわ・・・また、涙が出てきそう。必死に涙をこらえ、笑顔で3人を向かい入れる。
門をくぐって石畳を歩く3人は、本当に幸せそうだった。
ちょっと後ろを歩く私は、いつも孤独。―――その点で言うと、剣城も似ている。お兄さんは病院、ご両親は一緒に住んでいないし、瑠奈も仕事でいない。だから、放っておけなくて。
「・・・楓」
いつの間にか2人から離れ、お兄さんが私の横に来ていた。また笑顔を作って、お兄さんを見上げる。
「どうしたんですか?お2人と一緒にいなくて、いいんですか?」
「無理はするな」
心内を当てられて、ビクッとなる。
「な、何のことですk―――」
「とぼけるな。顔に書かれている。叔母さんのことか。それとも・・・零佳さんのことか」
零佳さんというのは、ママ―――灯の本名。実は私のもとの名前も、“光山楓”ではなく、ママと同じ“影山楓”だったと、お兄さんに教えてもらった。
そう、影山というのは、あの影山―――影山零治のこと。そう、ママは影山の隠し子。つまり、私は影山の孫ということになる。
お兄さんは、ママのことを零佳さんと呼ぶ。別に本名なのだから、それでもいいだろう。
クスッ―――私は笑う。お兄さんは、不思議そうな顔をする。
「ごめんなさい・・・お兄さんの言うとおりです。でも、もう大丈夫・・・たくさん泣いたから・・・」
こらえていた涙が、私の目からあふれてくる。必死に涙をぬぐい、前を行く2人のところへと駆けていく。
「楓・・・おまえは、本当に強いんだな」
私の後ろ姿を眺めながら、お兄さんが優しく微笑んでいたことを、私は知らない。