万能坂中学校サッカー部―――
ホーリーロード地区予選第2回戦の相手だ。数多くのシードが所属しており、ラフプレーをすることで有名だ。
私は、試合に出ることにした。いつまでも・・・いつまでも逃げ続けることはできない。私は、強くならないといけないから。いつか、天馬以外にも、私がシードだと告げないといけない。たとえ目的が違っても、肩書はシードだから。
「楓、今日は出れそうだな」
肩をぽんぽんっと叩きながら、キャプテンが話しかけてきた。
「はい。頑張ります」
「心強いよ」
若干影の残る笑み。やっぱり、キャプテンの責任は大きそうだ。
試合が始まる。
私はFW。倉間先輩がDFに下がり、車田先輩は風邪気味のため、ベンチで待機だ。
横には剣城、目の前には万能坂のキャプテン・磯崎がいる。磯崎は、私がシードだと知らないけど、剣城は・・・。
試合開始前に、剣城が告げる。
「勝つな。自分のことを思うなら・・・な?」
にやりと冷たい笑みを浮かべる剣城。ギロっと私は睨みつける。
試合が開始した。
試合前に霧野先輩も、私たちの考えに賛成してくれた。でも、倉間先輩、天城先輩、速水先輩、浜野先輩、ベンチの車田先輩は、反対派だ。
さらに追い打ちをかけるような出来事が起こる。試合開始早々、剣城がオンゴールを決めてしまったのだ。解説者はバックパスだという。でも、あれは間違いなくシュートだ。
磯崎と剣城が、にやりと笑い合う。私の中で、怒りがこみ上げてくる。
先輩たちも天馬や信助も、ただ呆然とする。皆の心は、痛いほどわかるけれど・・・
「皆っ!気をしっかり持って!!」
やっぱり、試合に負けるわけにはいかない。
霧野先輩がいった。
「味方の中に敵がいる」
・・・そう、剣城は“敵”。―――なのに、私は剣城を信じたい、なんて思ってる。本当に、馬鹿みたい。
試合が再開する。
私は倉間先輩からのボールを受け取り、キャプテンにパスを出す。キャプテンは天馬にパス。そして天馬は、ドリブルで上がっていく。しかし、すぐにボールは取られ、パスを出された。しかし、そのボールは・・・
「ぐわっ!」
浜野先輩に直撃。パスとは思えないほどの威力、間違いない。あれは、パスではない。狙ったのだ。
浜野先輩は、笑って立ち上がる。私の中で、さらに怒りが大きくなる。
そのあと、万能坂のスローインで試合が再開。それとほぼ同時に、天馬が相手へと向かって直進する。でも、なかなかパスを出さない相手。そして、私は気がつく。
「天馬ッ!危ないッ!!」
「え・・・?」
天馬が止まった時には、もう遅かった。相手はボールをけるのと同時に、天馬の腹部をける。どすっと音を立て、天馬が倒れる。そのまま、腹部を抑えたまま、天馬は倒れこむ。
キャプテンが叫ぶ。
「皆、気をつけろッ!あいつらは、俺たちを潰すつもりだッ!!」
そう、つぶされてしまう。気をつけなければ・・・!
「楓ッ!伏せてッ!!」
誰かが叫んだ。刹那、腹部に強烈な痛みが襲ってくる。ギュッと目をつぶり、再び目を開けた時に見えたものは、サッカーボール。
―――私の腹部に、ボールが直撃したのだ。
それを皮切りに、天馬、信助、浜野先輩、倉間先輩、キャプテン、霧野先輩・・・と、次々にボールがぶつかってゆく。しかし、審判はレットカードどころか、イエローカードさえも出さない。それどころか、注意の1つもしない。ベンチで葵が言っている。
「仲間がラフプレーを隠している。審判に見えなければ、反則はとられない」
―――本当にせこい奴らだ。私の中の怒りが、さらに大きくなっていくのに・・・立ち上がれない。悔しい。
天城先輩も倒される。GKの三国先輩も上がってくる。確かに勝敗指示は1-0だけど、先輩が・・・
「グワァァァァ!!!」
―――先輩も、つぶされてしまう。さらに、速水先輩まで・・・。そして、磯崎がキャプテンにボールをぶつける。キャプテンの気持ちが、伝わってくる。―――“仲間を守れないのか”
悔しいのに、やっぱり立ち上がれない。
天馬も何度も立ち上がろうとする。やっと立ち上がれても、磯崎にボールをぶつけられ、倒れてしまう。でも、私は気がつく。おそらく剣城も気がついたのだろう。
―――天馬の動きは、あの日―――入学式の日と一緒。ダメージを、最小限にするぶつかり方をしている。本人は無自覚かもしれない。だけど、これはすごいこと。だから、何度だって立ち上がれる。
しかし、剣城がやってくる。そして、天馬に強烈なシュートをぶつける。
「あんたッ、やってることわかってんのッ!!」
私は叫ぶ。でも、それは剣城の耳には届かない。
しかし、磯崎は天馬にボールを渡した。天馬は戸惑いながら、ドリブルをする。相手がスライディングをしてくる。その標的はボール―――ではなく、天馬の足。
やつら、天馬の足を・・・つぶすつもりだ。
剣城の顔がかすかに変わる。―――そうだ、優一さんは確か足が・・・。
磯崎が、とどめをさす。天馬の足に向かって、強烈なスライディングをする。
ダンッ!!天馬が飛んでいく音。しかし、それはスライディングの音ではない。
―――剣城が、天馬にぶつかった音だった。
「剣城・・・まさか、天馬の足を・・・?」