万能坂中の試合の翌日。俺―――剣城は、悩んでいた。柄にもないのだが、教室の机に突っ伏して、ただ悩んでいた。
思い出されるのは、あの試合中の出来事―――。
“うるさいわね、“京介”!助けるために来たのよッ!!”
「はぁ・・・なんであのタイミングで、京介とか言うかな」
あのことを思い出してしまい、やっぱり・・・あの時と同じような、顔の熱さになる。そして、楓の困ったような顔も思い出され、悲しくもなる。
「俺たちって・・・いつからこんな関係に・・・なったんだろうな・・・」
顔をあげて、小学校と変わらない、ちょっと汚い教室の蛍光灯を眺めた。
―――小学3年生
「ねぇ見て、京介ぇ!私、3-1だぁ!京介はねぇ・・・3-2だよっ!」
「そうだね!あっ、この人、名前は知ってるよ!」
小3の始業式。瑠奈と2人で、掲示板を眺めていると見つけた名前―――山吹楓。
近所でも有名な、豪邸に住んでいるとか、すっごくかわいいとか、噂は小1のころから聞いたことがあった。
「山吹楓・・・あぁ、うん、知ってる!すっごくかわいいって、噂でしょ!」
瑠奈も笑顔で言う。やっぱり知っているんだ。それくらい、有名なこの少女。このときは、高嶺の花とかと思っていた。
―――まさか、この楓と仲良くなれるなんて、思っていもいなかった。
「―――それじゃあ皆さん。今年1年間、仲良くしましょう!」
「「はーい!!」」
クラスメイトの声が響く。俺は無意識に、楓を探していた。なぜだかわからない。ただ、そう、あれだ・・・興味があったんだ。
そして、見つけた―――。
「山吹さん・・・」
「え?・・・えっと・・・剣城君?」
それが、楓とかわした、初めての言葉だった。
「・・・ぎ君、・・・るぎ君、・・・つるぎ君・・・剣城君!」
「ッ!」
クラスメイトの声で、俺は現実に引き戻された。
目の前にいるのは、クラスの男子が時々噂している、クラスでも結構かわいいほうに分類される女子。膝上のスカートのはしを、ひらひら揺らしている。
「・・・なんだ」
「あ、えっと・・・C組の山吹さんが・・・呼んでるよ?」
その瞬間、ガタっと音を立て、俺は椅子から立ち上がった。そして、ドアのほうへと大股でドアへと近づく。だんだん見えてくる、楓の顔。俺と視線が合うと、ひきつったような笑みを浮かべながら、俺を見ている。
「何だ?」
「ごめんなさい、考え事の最中だったみたいね・・・あのね、昨日の試合のことで・・・天馬たちの代弁なんだけど・・・“ありがとう”って」
俺のことを見上げる形の楓。そう、出会ったころは、身長は同じくらいだった。むしろ、俺のほうが若干小さかった気もする。
「なんだよ・・・俺は、仲間になったわけじゃないからな」
楓の心からの言葉なのだろうか、本当に松風たちの代弁なんだろうか、そこら辺は分からない。でも、“ありがとう”という言葉が、とても温かく感じた。
「ね~、剣城君って・・・山吹さんと、仲いいよね?」
席に戻るや否や、さっきの女子に話しかけられる。別にそんなこと、どうでもいいだろと思いつつ、無視はいけないと思い、一応対応する。
「仲がいい・・・ねぇ。まぁ、そうなんじゃね?」
「えぇ?でもさぁ、山吹さんって、正義感強すぎて・・・知ってる、剣城君?あの子ね、B組の桜庭紫緒莉がいじめられてて、関係ないのに注意したんだって。だから、そのこたちに目をつけられてるって・・・って、ちょっと、剣城君っ!?」
楓の身に、危険が迫っている。その女子の話を聞いていると、いてもたってもいられなくて、俺は席を立ってC組に向かった。
―――なんで、俺は楓のことを・・・こんなに考えているんだ・・・?
C組の前へ来た。
C組の中を覗くと、楓の姿はなかった。松風がこちらへとやってきた。めんどくさいと思いつつ、今はそれどころではなかった。
「剣城、どうしt―――」
「楓はッ!!楓は、どこに行ったッ!?」
松風が驚いたように、目を見開くが、俺は松風の肩を持ったまま、まっすぐに瞳を見つめた。やがて松風は、戸惑いがちに左側を指差した。
「あ、あっちに・・・女子数人で・・・」
「ッ!!」
くそ、遅かったか・・・。左側は、屋上への階段へと続く道だ。その女子数人というのは、もしかして・・・!
俺は、向きを変えて、左側へと走り出す。
「ちょっと、剣城っ!?」
後ろで松風が叫んでいる。そんなのしらない。今はただ、楓のことが心配だ。
なんで俺は・・・こんなにも・・・楓を・・・?