屋上に続くドアの前。俺は、1度すぅ・・・と息を吸い、静かにドアを開けたそこには案の定、楓と―――噂の女子数人がいた。
俺は、楓たちにばれないように、物陰にこっそり隠れた。
「・・・で、何の用よ?まさか、紫緒莉の時のこと、まだ根に持ってるとかかしら?それだったら、あなたたち、相当のガキね」
「うっ、うるさいのよ!だったら悪い!?」
「えぇ」
・・・即答だ。
「だったらっ・・・こうなっちゃえっ!!」
バシャ・・・鈍い音が、そこら辺に響く。ピチャ・・・ピチャ・・・楓の頭の上から、水がしたたり落ちる。幸い今が初夏のため、風邪をひく心配はなさそうだが、俺は怒りに燃えていた。関係ない楓が・・・関係ないのに、間違いを正してやったのに・・・こんなことをするとは。恩をあだで返す、とでも言ったところか。
「・・・これで満足なの?」
楓は、鋭い目つきで笑ったまま、堂々としていた。その姿はかっこいいが、この行為はいけないことだ。
「な、何よ!負け惜しみっ!?アハハッ!だったら、いい気味っ!!」
「本当、本当!!」
「このままでいればいいんだよっ!!」
ギャハハ、と笑い続ける女子たち。俺は、前に出て行こうとした。その時だった。楓が、ものすごい形相で怒鳴り始めた。
「あなたたち、最低ね。人として・・・いいえ、命あるもののして最低よっ!人をいじめて楽しい?いじめられている人を見て・・・そんなに楽しいのっ!?馬鹿げているわ!・・・いいえ、馬鹿なのね!私の事は・・・どんなことをしてもいいわ。でも、紫緒莉の事をいじめて・・・何の罪もないあの子をいじめて・・・楽しい!?そんなの、ただの負け惜しみよ!負け惜しみをしているのはどっち!?いい気味なのはどっちよっ!!そんなに、霧野先輩と神童先輩と、近づきたい?だから、幼馴染のあの子が羨ましいの?だったら、自分たちの力でどうにかしなさいよっ!あなたたちは、勇気も何にもない・・・ただの負け犬ね!」
その気迫は、ものすごいものだった。目の前にいた女子たちは、腰が抜けたようにその場に座り込んだ。
さらに、俺たちは楓の“心の広さ”を目の当たりにした。
「・・・ほら、立ち上がりなさいよ」
すっと楓は、女子たちに手を差し伸べた。女子たちは、驚いたような顔をして、ただ驚きで手をとれないでいた。しかし、楓は鈍感だ。
「あ、ごめんなさい、濡れているもんね。このことは気にしないから・・・1人で立てる?」
きょとんとしたまま、女子たちは立ち上がり、そのまま走って逃げて行った。去り際、リーダーらしき女子が、楓にこう叫んだ。
「ごめんなさいっ!ありがとうっ!」
―――楓は、本当にすごい存在だ。そう思っていると・・・
「つ、るぎ・・・どうして・・・ここに・・・?」
楓が、目の前にきた。よく見れば、髪の毛はぼっさぼさだし、濡れているし、靴下もずれ下がっているし、腰に巻いているセーターも、びしょびしょだった。オマケに、濡れているからシャツも透けていた。俺は、目のやり場に困った。
「聞く気はなかったけど、聞いてしまったもんはしょうがないだろ」
視線をそらしながら、俺は答える。楓の表情が、見えない。どんな顔をしているのだろうか・・・。
「つ、剣城・・・あの、ごめんね。あの時、とっさに・・・“京介”って呼んじゃってて・・・」
顔を見ていないのにわかる。お互い、顔は真っ赤だろう。そして、きっとあっちも、俺の顔を見ていないだろう。
「じゃ、じゃあ・・・もう戻るわね」
「あぁ」
俺たちは、まだ視線をそらしたまま、立ち上がって、楓は屋上のドアへと向かった。
去り際、楓は真っ赤な顔で言ってきた。
「わ、私、あなたが此処にいるのは知っていたわ!だから・・・勇気っていうか・・・あ、あなたがいたから、あんなこと言えたっていうかっ・・・!」
俺の顔は、楓の瞳よりも、さらに真っ赤になっていく。
「・・・あ、ありがとうっ!!」
そういうと、楓はドアをバタンと閉めて、校舎内へと入っていった。
―――時々見せる、あの照れたような表情。
いつもは冷静で、正義感が強くて、かっこいい。なのに、時々弱くて、泣き虫で、テンパることもあって、かわいい・・・。
ん・・・?今、俺、あいつの事・・・“かわいい”といったか・・・!?