雷門の雰囲気が、最悪へと向かっているころ。
稲妻総合病院315号室・剣城優一の病室。
そこへ、俺―――剣城は戻っていた。俺は知らない。兄さんが、あの会話を聞いていたことなんて・・・。
何事もなかったように、俺は病室へと入った。
そして気づく。―――兄さんの様子が、いつもと違う。どうしたんだ・・・?
俺が近づくと、兄さんは顔をあげ、俺の事を見つめた。その瞳が、あまりに悲しげで、俺は何も言えなかった。
兄さん・・・?
一方雷門はというと、やはり最悪だった。
点はいれられてしまうし、いぜんとしてアルティメットサンダーは完成しない。練習で惜しかった倉間先輩ができなかったなら、私―――楓はもちろん、キャプテンだって出来ないのじゃないかと思う。
今は、倉間先輩がドリブルで上がっている。後ろをついていくように、天馬と私だ。
倉間先輩の前へ、相手が立ちふさがる。そして、
「「サルガッソー」」
必殺技で、ボールがとられてしまう。私は、どう指示を出せばいいんだろう。とりあえず、化身は出した方がいいんだろうか・・・。悩みが、次々と浮かんでは消えていく。
「「ブリタニアクロス!」」
そうしている間にも、今度は速水先輩がピンチだ。
DFも歯が立たないようだし、パスも帝国側ばかりつながる。
シュートは、かろうじてされていないけど、それも時間の問題かもしれない。
帝国の猛攻が続くため、雷門側の体力も限界に近くなっている。体力が持っている人もいるけれど、ほんの一つまみだ。
ピンチになるたび、私の頭の中ではあの人の存在が、大きくなる。―――信じてる、剣城。
―――剣城は今、どうしているんだろう・・・。
TVで見る限り、俺―――剣城の目には、雷門の体力が限界だと見える。
楓や松風は大丈夫そうだが、他の奴らはあと数分、同じ戦い方をすれば潰れるだろう。
―――それよりもだ。今、俺と兄さんの間には、重い空気が流れている。
何でかはわからない。でも、空気が重い。
「・・・チームメイトを置いて、お前はこんなところで何をしている」
兄さんに言われた言葉に、ドキッとする。
TV内では、神童が化身を出していた。同じように、相手も化身を出した。そして、あの日―――入学式前の試合のように、2人がボールを蹴りあう。
これを見ていると、神童も少しは成長したと思う。それでも、シードのパワーには、叶わなかったようだ。
「攻略法は、アルティメットサンダーしかないっ!」
楓が叫ぶ。まだあきらめていない。そして、今度のキッカーは、神童らしい。
相手のキープしているボールを、車田が奪い、1stキッカーの楓にパスする。そして、アルティメットサンダーだ。しかし、またしても決まらない。
―――俺は、何TV内の試合を見て、熱くなってるんだ・・・。
「お前にとってサッカーとは、その程度の物だったのか。答えろ、京介」
兄さんのその問いかけ。いつもと違う、厳しく冷たい視線。俺は、視線をそらす。
―――TV内では、また雷門がおされている。
帝国側では、また化身使いが出た。御門だ。そのままシュート。GKの三国が、必殺技で止めるが、むなしくゴールにボールが突き刺さる。
「―――お前が男と話しているのを聞いた」
突然言われ、耳を疑った。兄さんは、黒木さんとの話を聞いていたのか?そして、上にかかっていた布団を取り去る。そこにあるのは、兄さんの動かない足。
「京介、俺はお前に頼んだか?この足を元通りにしてくれと頼んだのか?一度でも!」
―――確かに、兄さんが言ったわけではない。俺は、また視線をそらす。
「・・・サッカーの勝敗を管理する機関・フィフスセクター。お前が、そんなところとかかわっていたとは・・・そんなのが、俺たちの好きだったサッカーか!?うまくいったら嬉しい、失敗したら悔しい、ドリブルで抜きたい、シュートをしたい・・・そんな1つ1つの思いがあふれて、胸の奥が熱くなる・・・サッカーは、そういうもんだろ?京介ッ!!」
その直後だった。―――ポツリ、ポツリ・・・兄さんが、泣いた。こぶしの上に、清らかな涙が落ちる。俺は、驚くばかりだった。
「ッ!・・・兄さん・・・」
薄々は気が付いていた。このままでいいのか、と。でも、兄さんの為だと思いやってきた。でも、兄さんが悲しんでいる。
「・・・お前はサッカーを裏切った。俺たちの好きだったサッカーを裏切ったんだ!出てけッ!!」
兄さんの気迫に押されるまま、俺は病室を後にした。そして、決めた。
―――俺は、俺と兄さんのサッカー・・・雷門のサッカーをやる!