今は帝国学園からの帰り道。
俺―――剣城は、1人で雷門の門を出た。正直言うと、心の奥がむずがゆい。理由は分からない。でも、おそらく昼間のことだろう。
“えっとな・・・楓と俺は・・・その、それなんだ・・・許婚という奴だ・・・”
―――楓と神童キャプテンが、許婚・・・か。
「ッたく、らしくねぇ・・・」
夕暮の空を見つめ、俺は病院へと向かった。こう言う日は、兄さんの所へ行くに限る。
病院への道のりは、いつみても変わらない。季節も変わっていないし、当然植物の種類も変わっていない。暇だ・・・
「ん?これは・・・」
否、暇じゃなかった。少し前に通ったときにはなかったが、今はある―――小さな黄色の花があった。奇麗だった。兄さんに見せてやろう、そう思い、携帯を取り出し写真を撮った。
そしてふと思った。
「・・・楓に・・・似ているな・・・」
「何が、私に似ているの?」
ひょい、と後ろから誰かが出てきた。
「か、楓・・・ッ!?」
それは、楓本人だった。
「・・・何が私に似てるの?」
「なんでもねーよ」
「えー?何よー?」
さっきから、後ろで楓がうるさい。でも、それがいやじゃない。俺は、こいつの前ではおかしい。そのことは、ずっと前から知っている。楓は、ふてくされたようにしばらく黙った。
そして、ふと思い出したように言う。
「全く・・・あ、そうだった。瑠奈からのメールよ」
「何っ!?なんで俺じゃなうて、楓なんだッ!?」
俺は、楓の肩を持って尋ねた。楓は、痛みで顔をゆがめた。
「ちょっと、離してよっ!」
「あ・・・悪ぃ」
簡単に謝ると、楓は携帯を取り出した。
「ほら、見なさい。一時帰国できるかもしれないって。京介には黙ってて、って言われたけど・・・私の経験で、1回それですれ違いになったことがあったから、やっぱ伝えたほうがいいかなって・・・っていうか、自分にメールが届かなかったから怒るなんて・・・やっぱあなたはシスコンね」
途中からクスクス笑う楓。それに対し、恥かしさと怒りがこみ上げてくる。でも、楓の顔から目が離せない。
―――奇麗だな・・・。・・・って、俺は何て事を・・・!
「そうそう、後・・・天馬が、“瑠奈って誰?”って言ってたけど・・・言ってもいいかしら?それとも、瑠奈が帰ってきたときに言う?」
その瞬間だった。楓が俺の顔を覗き込みながら、そんなことを言ってきた。瑠奈のことを、松風たちにか・・・。
松風は、この前病室に来た時に聞いたんだろう。俺と楓の関係も。―――最も、関係は今日の帝国学園で、楓は自分がシードだったと言っていたが。まぁ、楓がほかの奴ら―――もちろん俺とも違うということは、あまり触れていなかった。
「・・・帰ってきたときでいい。それで、瑠奈はいつ帰るんだ?」
「えーっと・・・2,3日中にはかしら。早ければ、明日とか・・・」
ふーん・・・じゃなくて
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?早ぇよ!!」
俺の叫び声が、そこらへん一体に響いた。
「うるさいわよ!」
いつの間にか、俺は病院についていた。
そして・・・なぜか、楓も一緒だ。途中で聞いたが、兄さんの病室についてくるわけではないらしい。一体、何の用なのだろう。
「じゃあね、また明日」
「あぁ」
そう言うと、俺は兄さんの病室へ行き、しばらく幸せな時間を過ごした。
ちなみに、兄さんにも瑠奈からのメールはなかったらしく、少し安心したことは、俺だけの秘密にしておこう。
兄さんの病室を出て、病院から去ろうとした時だった。
エレベーターがちょっと込んでいて、俺は階段で降りた。2回の踊り場に来た時だった。聞き覚えのある声―――楓の声が聞こえてきた。
「伯父さん、無理はしないでくださいね?」
「あぁ、ありがとう、楓君」
俺は、前に松風がしたように、ドアの前に立った。
「・・・“おじいちゃんがいなくてさみしい!”って、有美ちゃんも言ってますよ?芽さんだって、お兄さんだって・・・早く、体を治してくださいね?母も、早く伯父さんに会いたいって言ってます」
「わかっているんだがな・・・どうも、体の衰えにはついていけない」
「何言ってるんです。まだ49じゃないですか。還暦にもなっていませんし・・・早く、元気になってくださいね」
どうやら、楓が話していたのは、楓のおじさんらしい。
「・・・拓人君のことは、気にいってくれたかな?」
「・・・え、えぇ。本当ちょっと前に聞いたばっかりで・・・びっくりしましたけどね。でも、拓人さんはサッカー部のキャプテンですし」
「おぉ、そうだったのか」
成程、許婚を決めたのは、楓のおじさんだったのか。楓本人が了承したわけではないと知り、なぜかわからないがちょっと安心した。
「それじゃあ、もう帰ります」
「あぁ・・・いつもいつもすまないな」
やばい、と思ってももう遅い。俺は、楓と鉢合わせしてしまった。
「京介・・・なんで・・・?」
「えっと・・・すまねぇ」
しばらくの沈黙。楓は、そのことをすべて話してくれた。
「さっき話していたのは、私の伯父さん。伯父さんは、私の従兄の鬼道さんの父親よ。お兄さんの奥さんは、実は天馬のお姉さん。まぁ、そのことを天馬は知らないみたい。娘さんもいて、有美ちゃんって言うの。今話していたことは、これだけ言うとさっきの話はわかるかしら」
楓の言葉は、ちょっと冷たいようだった。俺は、無意識に謝っていた。
「すまない・・・」
またしばらくの沈黙。沈黙を破ったのは、楓の笑い声だった。
「クスッ・・・」
「は・・・?」
楓は、クスクス笑う。さっきもあったような・・・。
「ごめんね、怒ってないわよ?・・・いつか、言わないといけないと思ってたもの。あ、そうそう。この写真・・・結局とってなかったでしょ?あとで、ちゃんと送ってあげるわ」
そう言って楓が携帯で見せたのは、あの黄色い花の写真だった。
「あぁ、ありがと」
―――やっぱり楓は、一枚上手だ。
一方そのころ―――とある空港にて。
「マネージャーさん、久しぶりね・・・日本は」
「そうね・・・しばらくはいれるわよ」
私は大きなスーツケースをひきながら、マネージャーとともに空港―――日本に降り立った。
周りにいた1人が、誰かにつぶやくのが聞こえた。
「ねぇ、あれって・・・ルナじゃない?」