「え・・・え、えぇっと・・・山吹さん・・・?」
さっきのサッカーの試合のことで、ちょっとした有名人だった、松風君。私は、松風君に話しかけた。多くの人に囲まれていた松風君は、私に話しかけられ、立ち上がった。
「ごめんなさい、お話中。でも、ちょっと話しておきたいことがあって・・・。とっても、重要なことなの」
そのあと、私たちは、屋上へと向かった。
「えっと・・・山吹さん・・・?」
松風君が、重々しく口を開いた。それとは裏腹に、私は努めて明るくしてみた。
「別に・・・楓でいいわ」
「じゃ、じゃあ、俺も天馬でっ!」
松風君―――天馬も、大分リラックスできたみたいだ。でも、このいい雰囲気も、もうすぐ崩れ去る・・・そう、私のせいで・・・。
重い口を、私は開く。
「さっきの試合、見せてもらったわ。天馬の活躍、すごかった!・・・それと同時に、黒の騎士団も、観察したの」
「えっ・・・楓、君って・・・」
天馬が、何を聞きたがっていたのか、それは分からない。いや、わかったような気もする。しかし、私はそれには、触れなかった。
「さっきの剣城とか言う奴、あいつの言っていたこと、覚えている?・・・フィフスセクターのこと」
「フィ、フィフス・・・?」
やっぱり、知らなかった・・・。私は、1から話すことにした。それが、自分にとって辛いことでも・・・。
「・・・剣城は、その組織に所属するの。そして・・・私も・・・。フィフスセクターは、サッカー管理大型組織。現代サッカーに、自由なんて言葉、もはやないの。サッカーというのは、管理されるべきものだ、それが今の大人の考え方。でも、私はそう思っていない。サッカーは、自由なもの。サッカーは、実力の差があるもの。だから、勝ち負けがあり、強くなりたい、勝ちたいという感情があるの。それは、美しいもの・・・。あなたには、この現代サッカーを変える、そんな力がある気がする。革命という名の“風”を起こしてくれそう・・・。だから、私、フィフスの最高権力者・聖帝・イシドシュウジの唯一の直属の部下、山吹楓からお願いします」
「楓・・・」
やっぱり、天馬、ひいたわね・・・。しょうがないでしょう。軽蔑されたって、しょうがないんだから・・・。
でも、天馬から返ってきた言葉は、意外なものだった。
「いいよ!!俺でいいなら、喜んで引き受けるっ!!」
ウソ・・・っ!あぁ、貴方はなんでそんなに・・・。
「ありがとう・・・天馬・・・本当に、感謝してる・・・あの、このことは・・・口外、しないでほしいの。サッカー部に入って、先輩に教えてもらっても、はじめて知ったようにして・・・」
「うん、わかったよ!」
私の瞳からは、いつの間にか涙があふれてきていた。
天馬と話し終わり、私は1人、教室へ帰った。かばんを、教室に置きっぱなしだった。
教室には、誰もいない・・・と思っていたのに、そこには、人がいた。―――瑠奈だった。
「瑠奈・・・もう帰ったと思ってた」
「楓、私、伝えなきゃいけないことがあるの」
瑠奈の瞳は、ほんの少し赤かった。
「私、パリに行くことになった」
「え・・・?」
一瞬、耳を疑った。目を見開いて、瑠奈を見つめた。
「どう・・・して・・・?」
「私、仕事で・・・」
あぁ、そういうことか・・・。
瑠奈は、実はモデルの仕事をしている。ティーンに人気の、“GOSICK”や“メイプルハニー”などの雑誌の、一流モデル。芸名は“ルナ”。
年齢似合わない、クールな見た目、クールな仕草が、ファンの心をつかんでやまないのだ。そんな瑠奈が、パリに行くことは、祝ってあげるべきことだ。
パリといえば、ファッションの本場だと聞く。そんなところで、仕事が出来るのだ。
寂しいか、と聞かれて、ううん、と答えるのはウソになるけど、今は、ただ笑顔で見送ってあげたい。
「そっか・・・えっと・・・おめでとう!私の誇りよ、瑠奈は」
「楓・・・私は、うれしいけど・・・さみしいのよ」
あぁ、やっぱり隠せないわ・・・。
「そりゃあ・・・私だって・・・。でも、私は瑠奈の夢を、応援したい。だから、頑張って!」
「楓・・・っ!ありがとう・・・!」
私と瑠奈は、誰もいない教室で、友情を確かめあうように、抱き合った。
「そういえば、学校・・・どうするの?」
「一応・・・転校って形をとるけれど、また日本に戻ってきたら、普通に受け入れるって学校側も、言ってくださっていて」
「そっか・・・」
そこで、私たちの会話は、途絶える。私は、精一杯会話を作った。
「あ・・・あーあ、サッカー部のマネージャー、やる前だったのにね」
「そうね・・・」
「また瑠奈が帰ってきたときは、私と剣城、以前みたいに仲良くしてみせるから。瑠奈に、余計な心配、掛けさせないようにするわ」
・・・話したいことは、たくさんあった。でも、そこでやっぱり会話は止まる。
―――瑠奈の出発日は、明後日。だから、明日の夜、私の部屋でミニパーティーをすることにした。
思いっきり、楽しもう。
そして、サッカー界も、変えて見せよう。