「ッ、ハァハァ・・・またダメか・・・ッ」
「ッもう一回よッ!何度でもやれば・・・きっと・・・ねっ!」
デビルバーストとエンジェルバースト。
2つの技は、いまだに完成しない。私のエンジェルバーストは、パワーも体力もそれほど要さないし、何より既に完成されている。しかし・・・京介のデビルバーストのほうは・・・。
「ウワッ!!」
「京介!」
パワーも体力も、かなり要してしまう。それに、技を練習し始めたばかりだ。
「・・・ちょっと、休憩する?」
「あぁ」
5時半ごろ、私たちはベンチに戻った。
うちの学校は変わっていて、最終下校時刻が決まっていない。お兄さん曰く、帝国学園中等部は4~9月は6時、10~3月は5時半と決まっているらしい。
それでも、大体の生徒はこの季節、6時くらいには下校する。今くらいの時間でも、ちらほら下校する生徒が見えてくる。
「・・・もう帰る?それとも・・・まだやる?」
練習を切り上げ、集合して解散しようとするサッカー部を見ながら、私は京介に問う。京介は、笑いながら言う。
「フッ、当たり前だろ」
「楓、剣城、まだやるのか?」
「えぇ、先に切り上げていただいて結構ですよ」
もう号令もかけ終わったのか、キャプテンが私たちのところへやってきた。でも、私たちの意見は合致した。―――まだ続ける。
「そうか・・・無理はしないようにな?」
「えぇ、わかってます。それじゃあ・・・お疲れさまでした」
「・・・お疲れさまでした」
なるべく愛想良くした私と、無愛想に挨拶をした京介。そんな私たちを見て、キャプテンは苦笑しながらサッカー塔へと向かった。
「・・・よし、続けるぞッ!」
「わかってるわよ」
そんな私たちを見て、瑠奈がこんなことをつぶやいていることは知らない。
「・・・変ったわね、2人とも・・・昔より、もっと信頼し合ってるって感じね」
いつのまにか時刻は、6時半過ぎになっていた。
薄暗くなってきて、校内の街灯もつき始めた。
「暗くなってきたなぁ・・・」
噴き出す汗をタオルで拭きつつ、まだ少し冷たい夜風に当たりながら月を見つめた。今日は満月だった。どうりで、いつもより明るく感じるわけだ。
「・・・もうそろそろ、切り上げるか」
隣で同じく汗をふきながら、京介も言う。私は、無言のままうなずいた。
「帰りに、何か食って帰るか?」
その場でユニフォームを脱ぎながら、京介が問いかける。京介とは気心が知れた仲だから、別にそういうのも気にしない。
それに実のところ、私は買い食いとかするたちではない。部活をたくさんしたって、あんまりお腹がすかない。それに、比較的小食なほうだ。
でも、今日くらいなら・・・
「そうね、お腹ぺこぺこよ」
「そうか。なら、近くのハンバーガーショップにでも行くか」
そんなたわいのない会話。昔は何も考えずしていたなぁ・・・なんて思う。
こんなことにさえ、幸せを感じられるなんて・・・本当、私たちに流れた数年間は、どれだけのものだったのだろう。
「わ・・・このシェイク、すごくおいしい!」
「だろ?でも、このハンバーガーもうめぇよ」
ハンバーガーショップにて。
お持ち帰りではなく、お店で食べることになった私たち。私は、やっぱりなんだかんだ言っても、おなかはさほどすいていない。
一方の京介は、すごくおなかがすいていたみたいだ。そりゃあそうだろう。何しろデビルバーストは、パワーも体力もすごく消耗するから。
「・・・本当に、おごってもらってもいいの?」
そう、実は・・・これは、京介のおごり。
俺が誘ったんだから、俺が払う、何てかっこつけているけれど、実は数日前に、今月のおこづかいがやばい、何て言っていた気もする。
まぁ、そこら辺は聞いていなかったことにしよう。
「あぁ、いいんだ。・・・にしても、これだけでいいのか?」
「うん、これが飲みたかったの」
私はチョコレートシェイク、京介はハンバーガーセットMを頼み、しばらく楽しい時間を過ごすことが出来た。
サッカーのことだけじゃない。普通の授業のこと、日常生活のこと・・・優一さんや瑠奈のこと。
時間が過ぎ、気がつけば7時くらいになった。
「あら、もうこんな時間・・・」
「本当だな・・・」
楽しい練習も終わり、楽しい話も終わり、それぞれの家に帰ることになった。
実はポテトとかももらったから、おなかがいっぱいになった。
「それじゃ、私・・・帰るから」
「・・・送ってくよ」
京介は優しい。私は知ってる。
「でも、京介の家、反対方向・・・」
「いいから」
そういいながら、私の手を引く京介。その手は、強くて優しい握り方だった。
「ありがと・・・京介」
ボソッとつぶやいてみる。その言葉は、京介の耳に届いたのか否か。それは分からないけど、京介は笑った。
「・・・早く帰るか」
「・・・うん」
辺りはすっかり暗くなっていて、ちらほら星も輝いていた。