「アルティメット・・・か。究極のペンギン・・・最強だな」
「えぇ、叶えられたみたいです」
家に帰って、私はお兄さんに電話する。今日の成果の報告だ。
「3号で進化はお終わりのはずなんだがな・・・」
「あはは、スペースペンギンとかXとか7とかあるじゃないですか?それと同じですよ」
皇帝ペンギンの歴史について話している時だった。ドアが鳴った。
「誰か来たみたいだから・・・切りますね」
「あぁ、またな」
お兄さんとの話を切って、私はドアへと向かった。ドアを開けたら、そこにいたのは・・・
「し、神童総帥・・・!」
キャプテンのお父様・神童拓海さんだった。質のいいスーツを着た40代くらいの男性で、スタイルもいい。周りからの信頼も厚く、そのことは瞳を見ればわかる。
「久しぶりだね、楓さん」
「え、えぇ・・・どうして、此処に・・・?」
「ちょっと・・・話をしようと思ってね」
「あ、はぁ・・・」
ニコニコしている神童総帥。私が、あからさまにひきつった笑みを浮かべているのに、それに気が付いていないのだろうか・・・?
「と、とりあえず、広間へどうぞ。夕食でも食べていってください」
広間へ行ってみれば、お母さんとか料理長とか誰かいるかな、と思ったのだが、ほとんどいなかった。
お母さんは0.1%くらいしか期待していなかったが、料理長もいないとは・・・。
「えっと、誰もいない・・・」
戸惑う私を見て、総帥は僅かに笑った。不思議に思い、私は総帥を見上げる。
「いや、君は面白い子だなと思ってな。ますます気にいるな」
そんなことを真顔で言われるのだから、こっちが恥ずかしい。そういえば神童総帥は、女性人気が高かった気がする。
ちなみに奥様(キャプテンのお母様)は、15年ほど前に人気女優として名をはせた天才女優の西原うららさん。まぁ、現在は神童うららさんだが。
うららさんは、15年ほど前に神童総帥と付き合い始め、すぐに子供―――キャプテンが出来て、結婚とともに、芸能界引退をしたらしい。今は、30代後半だろう。
そんな容姿端麗で成績優秀なお2人の子供・拓人さんは、女子の人気ナンバー1。
要するに、神童財閥はいろいろとすごい財閥なのだ。
「そんな・・・えっと、席にお座りください。何か、すぐに用意させますので」
そう言い残し、私は厨房のほうへと駆けて行った。
「料理長・・・いないのぉ?」
厨房にかけこんで、全体を見渡したが、料理長はいない。
厨房にいた人たちが、一斉に私を見据える。そして、1人の男性が歩み寄ってきた。
「副料理長・・・」
彼は、山吹家福料理長の喜屋武迅(きやんじん)さん。料理長の高橋翔太(たかはししょうた)さんとおなじく、この家に住み込みで働いている。年も30くらいと同じ。
「高橋は、デートだぜ?」
「あ、そうか・・・今日は料理長と奥様の結婚記念日・・・」
そういえば、そんなことを言っていた気がする。料理長は、既婚者。そして、今日は確か結婚記念日だと言っていた気がする。ちなみにご夫婦でこの家に住んでいる。
一応、副料理長も既婚者。こう見えて、10歳の娘さんがいる。その娘さん―――百葉(ももは)ちゃんと私は、仲がいい。実は、副料理長は、奥様と離婚している。だから、百葉ちゃんとこの家に住んでいる。
2つのご家族は、私の家の3階に住んでいる。
・・・って、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「あの、すいませんが・・・神童総帥が訪ねてこられたんです。それで、何か料理でもありませんか・・・?」
無茶ぶりだ。
「あ、うん、あるよー。えっとねー・・・あ、これこれ、スープとかステーキとかデザートとか?」
さすが副料理長!私はすぐにそれを頼み、10分後・・・。
「お待たせいたしました、神童総帥」
「いや、いいんだよ。おぉ、これはレンズ豆のスープか?お、これは、子羊のソテー・・・ラズベリージャラートか。おいしそうじゃないか」
「すいません、こんなものしか出せなくて」
簡単な謝罪を済ませ、私は総帥に長いテーブルの正面に座ってもらう。私は、その横に座っている。
2人以上での食事なんて、いつ振りだろうか。
「楓さん、拓人は最近どうですか?」
「ど、どうって・・・サッカー部ですか?」
「あぁ」
ニコニコとほほ笑む総帥。またひきつった笑みを浮かべる私。総帥も拓人さんもいい人なんだけど・・・総帥は、なんだか対応の仕方がわからない。
「・・・拓人は、君のことをとても評価している。成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗で男子からの人気ナンバー1だとか」
「そんなこと・・・」
そう、そんなこと聞いたことがない。全く・・・拓人さん、お世辞がうますぎですよ。
「ありがとうございます」
無理やり笑顔を作り、食事をすすめた。私は知らない。
―――神童総帥が、悲しそうな顔で私を見つめていたことを・・・。
「ありがとうございます」
そういう笑顔の楓さん。私にはわかる。この笑顔は、無理やり作っているのだろう。
食事が終わり、外へ出た。
「神童総帥」
楓さんが、私の名前を呼ぶ。私は、満面の笑みで彼女を見つめる。
「今日は・・・楽しかったです。2人以上での食事なんて・・・久々でしたから・・・」
また悲しそうな笑みを浮かべる。そうか、そういうことか・・・。
―――彼女は、幼いころからずっと一人なんだな・・・。
―――甘えることも知らず、ただ1人で耐えたのだな・・・。
「君は、偉いね」
「えっ?」
驚いたように声を上げる楓さん。そんな楓さんの頭を撫で、最後にこう言い残した。
「寂しくなったら、いつでもうちへ来ていいからね。拓人もうららも私も・・・皆、君のことを待っているよ」
驚いたように私を見つめる彼女。その瞳が、徐々に潤んでいた・・・ような気がする。
星もきれいだ。彼女は、やはり拓人の言うとおり美しい。
「またいらしてください」
―――心からの笑顔で、私を見送ってくれた。私も、心からの笑顔で言う。
「今度は、うちはおいで。皆で・・・ディナーを楽しもう」