ボールを遮ったその人は・・・
「鬼道さん!?」
「兄さん!?」
かつてイナズマジャパンを世界一に導いた天才ゲームメーカーで、少し前まではイタリアのユースで活躍していた、今は帝国学園総帥で、帝国サッカー部の監督の鬼道有人さんだった。
そして、私―――楓の従兄。
ボールをけりながら、皆の近くへ歩み寄るお兄さん。
「お兄さん、どうされたんですか?」
ベンチから少し前に出て、私が問いかけると、皆が一斉に驚いたような顔をして、私を見据えた。一体、どうしたのだろう。
キャプテンが、信じられない・・・というような顔をして、私に問いかける。
「楓、今お前は鬼道さんのこと・・・“お兄さん”と呼んだか?」
「・・・はい?」
と真顔で答えた後、思い出す。―――そういえば、雷門のみんなに、私とお兄さん―――鬼道さんが従兄妹だって言ってなかったな・・・。
「・・・まさか楓お前・・・おまえと俺の関係、伝えていないわけじゃ・・・?」
「そのまさかです・・・すいません」
はぁぁぁ・・・と大きなため息をつき、お兄さんは私の頭の上に手をのせた。幼いころからいつもそう。私を子供扱いするときは、頭の上に手をのせる癖がある。全く、私だっていつまでたっても子供じゃないのに・・・。
「なんでお前がここに・・・?」
監督は、驚いたようにお兄さんを見つめる。お兄さんは、いつものように得意顔で話し始める。
「俺が、雷門のコーチをすることになった」
一同から、驚きの声が上がる。無論、私も驚いたのは驚いたが、お兄さんがここに来た時点で、そうではないのかな、と薄々は思っていた。
最近、お兄さんは佐久間さんに仕事を任せっきりで、ちょっとおかしいな、と思ったいた。しかし、今わかった。つまり、佐久間さんに選手たちをしばらく見てもらうつもりだということだ。
「本当か、鬼道!?」
円堂さんが、驚きながらうれしそうに言う。春奈さんは、立ち上がった。
「兄さん、どういうこと!?」
―――といっても、やっぱり驚かないわけにはいかないし、事情も話さないといけないか。
「春奈さん、円堂さん、私が話します」
お兄さんが話し始めるより前に、私が口を開いた。レジスタンスのときの恩返しだ。
お兄さんは、ふっと笑って、私のほうを向いた。
「これから全国大会に入ると、戦いはさらに激しくなるでしょ?だから、お兄さんも力を貸したい・・・ってところじゃないですか?まぁ、響木さんから言われてた、って可能性も否定できないけど」
お兄さんは、目を見開いた。
「楓・・・勘がよすぎるな」
「あはは、そんなことはないですよ」
そう笑ってみせると、お兄さんは円堂さんに向かって、足元になったサッカーボールを転がした。円堂さんは、笑顔で言う。
「そうかぁ・・・よぉし、またいっしょに、サッカーやろうぜ!」
2人は、ほほ笑みあった。10年来の親友とは、いいものだと改めて思わされる。
すぐにお兄さんは、皆のほうを向こうとした。しかし、思い出したように私のほうを向く。
「楓、着替えてこい。なんできょうに限って・・・ユニフォームを着ていないんだ?」
「あ・・・ちょっと、そういう気分でして」
苦笑しつつ、私はスカートとシャツを脱いだ。実は、2つの下にちゃんとユニフォームを着ていたのだ。
制服とジャージを瑠奈たちに預け、私は皆に混じった。
お兄さんは、今度こそ皆のほうを向き、真剣な顔で話し始めた。
「雷門の初戦の相手は、月山国光だ」
月山国光―――あまり知らないが、確か去年のベスト8に入っていた気がする。
「月山国光・・・?」
円堂監督が、頭に疑問符を浮かべる中、天馬と信助が驚いたように言う。
「去年のベスト8じゃないですか!」
「全国大会でも、指折りの強豪チームですよね!?」
そうか、やっぱり記憶は正しかった。しかし、雷門は去年の準優勝校だ。勝てない相手ではない気がする。
「フィフスセクターは、真正面から雷門を潰しに来たわけか・・・」
「おそらくな・・・」
キャプテンの言葉は、頭の中に響いた。これを決めたのだって、おそらくは豪炎寺さんじゃなくて、千宮路だろう。
千宮路大悟・・・どこまでも憎いやつだ。
「でも、俺たちは負けない!」
キャプテンのその言葉は、不安を払いのけた。その代わり、勇気が胸の中いっぱいに響いた。私たちは、うなずき合った。
私は、早くも皆になじみ始めている狩屋君を見た。
彼のことは、ヒロにぃこと吉良ヒロトさんから聞いたことがある。パーティーの時だ。
“あのね、1年くらい前に新しく園に入ってきた子がいてね、その子―――マサキ、サッカーが好きみたいなんだけどさぁ、その、あれ・・・そう、人間不信でさ、俺のことはおろか瞳子姉さんのことも信じてなくってね・・・どうすればいいんだろうねぇ・・・”
その時、私は確か・・・
“ヒロにぃはヒロにぃらしく!・・・ってところね”
とアドバイスした。しかし、状況は変わらなかったらしい。
さっきヒロにぃに電話すると、素直にすべて話してくれた。
―――解決策がなくて困り、円堂さんに任せてみよう、と瞳子姉さんと相談して決めたらしい。
狩屋君は、どうもヒロにぃが苦手らしい。まぁ、黒歴史を知られていないんだから、それがせめてもの救いじゃないか。
そのことをそのまま言うと、ヒロにぃは、苦笑いしながら電話を切った。
そして、さっきの天馬へのプレーといい、霧野先輩が注意した時の顔といい・・・
彼は、心の中に、何かしらの闇を抱えれいるのだろう。
まぁ、キャラ的に不動さんとかぶるから、大方の予想は付く。
親がリストラされたかなんかで育てられなくなり、お日さま園へやってきた。しかし、親が騙されたためか人間不信に陥り、人を簡単に信じられなくなった。
だから、猫をかぶったりなれなれしいヒロにぃには馴れなかったりするのだろう。
「・・・彼には、注意が必要ね。いい子なのはしってるけれど・・・」
狩屋君の存在が、はたして雷門にどう影響するのか・・・楽しみだ。