「京介、遅いわね・・・」
私―――瑠奈は、京介よりも遅く山を出たのに、まだ京介が帰っていないことを不思議に思った。
まぁ、どこかで遊んでいるのだろう、なんて考えて、ソファに腰掛けた。
「狩屋君・・・助けてくれた・・・」
私の脳内は、さっきの肝試しで埋め尽くされている。
狩屋君は・・・私のクラスの転校生で、第一印象は最悪で、でも1人にはしておけなくて、私のファンの1人で・・・
―――私の今日のヒーロー。
それは、肝試しの出来事。
意外にも倉間先輩は、お化けが苦手らしい。だから、佐久間さんが真っ赤なペンギンを出してきた途端、何かのお化けと勘違いしたらしく、全速力で逃げて行ってしまった。
そのすぐ後、私は風丸さんの“風神の舞”によって風がやってきて、首筋に生温かい風が吹いてきて、思わず大声をあげてしまったのだ。
しばらく、その場から動けなくなってしまった私。そんな時だった。
「瑠奈ちゃん!瑠奈ちゃん!」
後ろから、大分聞き慣れた声がした。そう、それが―――・・・
「か、りや、くん・・・?」
狩屋君は、私のことを抱き寄せた。頭が混乱して、すぐに顔が真っ赤になった。泣いていたのに、涙も止まっていた。
「よかった・・・悲鳴が聞こえたから、来たんだけど・・・」
私は、その優しさに甘え、狩屋君に抱きついた。
落ち着いたころ、私たちはいっしょに出口に向かって歩いた。
「ありがと、狩屋君」
「いや・・・!べ、べつに、そんなつもりじゃねぇし」
なんだか、狩屋君が大きく見えたの。でも、忘れていた―――。
“狩屋君のペアって、楓だったな・・・”
ヴーヴー・・・
テーブルの上のケータイが、バイブ音を立てながらなった。私はソファから立ち上がり、ケータイを取った。
「もしもし・・・」
「あ、瑠奈か」
相手を見ていなかったけど、相手は京介らしい。
「どこにいるのよ?」
半分切れた状態で聞くと、京介は思いもよらない場所を言った。
「病院」
一瞬、状況が理解できなかった。なぜ京介が、面談できる時間も過ぎているのに、病院にいるの・・・?
「なんで・・・?」
恐る恐る聞いてみた。
「・・・楓がな、怪我して・・・」
ぼそぼそっと呟くようだったけど、ちゃんと聞こえた。私は、ケータイに向かって
「すぐ行くっ!」
とだけ叫び、電話を切った。
―――楓、家に帰ったんじゃなかったの・・・?
「はぁ・・・はぁ・・・ついたぁ・・・」
全力疾走して、私は稲妻総合病院へ着いた。自動ドアを通り、すぐに状況は理解できた。
楓は、太ももに包帯を巻いて、椅子に座っていた。京介は、楓の隣に座って、楓の隣に冬花さんが座っていた。何やら、話しているようだった。
「楓、京介・・・!」
病院だってことを忘れ、私は大声で叫んだ。
2人は振り返り、笑いかけてくれた。
「瑠奈、来てくれたんだ・・・ありがとう」
絆創膏もガーゼも包帯もたくさんしているのに、笑顔を続けようとする楓に、心のなかが締め付けられる。
もしかしたら、狩屋君が一緒だったら・・・楓はそんなことにならなかったのかな・・・。
京介は、楓を助けたのだろう。京介の顔にも、いくつか傷があった。掌は、真っ赤になっているようだった。
「どうして・・・何があったの・・・」
京介と楓は顔を見合わせ、話し始めた。
びっくりする事ばかりだった。鬼道さんに楓が告げたことは、全部ウソだった。
京介だけが気が付き、行動に移した。
「ちょっと、なんであなたが泣いているのよ!?」
「だって・・・安心しちゃって・・・」
楓が泣いてもいいのに、私が泣いてしまっている。楓は、私の頭をなでながら言う。
「貴方のせいじゃないからね。狩屋は・・・男子として、当り前のことをしただけよ」
京介は、楓が言った後にうなずく。私には見えている。楓がウインクして、京介がうなずいているのだろう。
それでも、やっぱり・・・。
そのあと、楓は京介に背負われて、家へ帰った。
「そうだ、2人とも泊まって行かない?」
楓が急に提案してきた。服はたくさんあるらしいし、私たちはお言葉に甘えることにした。
「ねぇ、瑠奈。狩屋のこと・・・ただのクラスメイトだって思える?」
寝る前、楓が私に聞いてきた。
京介は、部屋のソファで寝ている。ソファでさえ、ベットに見えるくらいだから、寝心地はいいだろう。
私は、楓と同じベットで寝ている。
「うーん・・・そうね・・・わかんなくなっちゃったわ」
顔を伏せたまま、私はそう答え、そのまま眠りに落ちた。
―――狩屋君。
―――私は、貴方に対して、どんな感情を抱いているの・・・?
―――貴方の“好き”は、ファンだからなの・・・?
変な私。
こんなに誰かのことを考えるなんて・・・京介と楓以外のことを考えるなんて・・・そう、私らしくない。