俺―――南沢篤志が、月山国光に転校して、しばらくがたった。
月山国光の制服は、帝国学園をもう少し堅くした感じで、帽子も付いていた。
一方女子は、セーラー服。大きめのリボンが付いていて、おしゃれな感じだ。靴下は、ニーハイの白で、男女ともに、ショートブーツが規定だ。
ちなみに、男女ともにイメージカラーは、深緑だ。
「南沢、一緒に帰ろう」
「兵頭・・・そうだな」
こいつは、同じサッカー部のキャプテンでGKの、兵頭司だ。
此処に来て、俺に一番最初に話しかけて、友好的にしてくれた奴だ。
いつもは2人なのだが、今日は兵頭の後ろに、小さな影が見えた。
水色のリボンで、多めの髪をツインテールにしている。背は俺の肩くらいで、雷門の天馬よりも小さいだろう。目はくりくりとしていて、前髪はそろえてある。すごく童顔で、何も知らなかったら小学生みたいだ。
「・・・兵頭、誰だ?」
「あぁ、こいつは・・・」
兵頭がいいかけて、その女が遮った。
「西園彩だよ。ちょっと、南沢君とお話ししたくって」
―――おい、なんかかわいいじゃないか。
兵頭は気を利かせたのか、先に帰った。
俺と彼女―――西園は、月山国光から街へとでる、長い山道を歩いた。ほとんどの生徒は自転車通学だが、少し電車通学や徒歩通学もいる。
俺も西園も、偶然にも電車通学だったため、駅まで一緒に歩いていた。ちなみに、駅まではざっと20分ほどだ。走れば、10分くらいで着くだろう。
「・・・んで、俺に話って?」
「あ、えっと・・・南沢君って、雷門中学校からの転校生だよね?」
「・・・あぁ。でも、それが何か?」
西園の口は、とまらなかった。
「じゃあじゃあ!雷門でも、サッカー・・・やってたりする?」
「あぁ、やってたんだがな・・・新しい監督のやり方が、どうも俺には合わなくて・・・サッカー部を退部したんだ。それでも、サッカー部の奴らと会うのがつらくてな・・・それで、HR本戦第1回戦で雷門と当たり、なおかつ家からも電車で通学できる、月山国光に転校したんだ。フィフスセクターっていう組織があってな、その組織はサッカーを管理しているんだ。・・・と言っても、表じゃわかんないよな。でも、少年サッカーっていうのは、今や八百長の世界だ。それで、そのサッカーが正しいんだ、と雷門に見せつけたかったんだが、結局、俺たちのほうが影響された―――正されたんだ。よかったよ、雷門と戦えて」
・・・っと、西園はわかんないよな。
俺は、謝りながら西園を見ると・・・西園は、熱心に手帳に何かをかきこんでいた。
「なんだ・・・?」
西園は、切なそうな顔をして、手帳を見つめた。
「―――この手帳はね、サッカー専用。私も、サッカー好きなんだ。あと・・・弟も」
“弟”・・・そういう西園は、今にも泣きだしそうだった。
「・・・弟がいるのか?」
「・・・うん。今中学校1年生なんだよ。でもね、会えないの・・・」
俺から視線をそらしながら、西園は言った。てくてくと、俺の半歩前を歩きつつ、手の甲で涙をふく。
「・・・ケンカ、しちゃって・・・それくらいなら、今までもあったんだけど。・・・私ってば、馬鹿なんだ。・・・弟の頭、殴っちゃって・・・頭が切れちゃって・・・数針縫ったの。それから、私は1人暮らし。おじいちゃんとかおばあちゃんに、マンションのお金、出してもらってるの。・・・お母さんには、怒られたまんま。・・・えへへ、馬鹿でしょ?」
上を向いて、かばんを空に向かって持ち上げた。ジャラジャラとついているストラップの中、アルバム型のストラップがあった。
「・・・それじゃあ、今から会いに行くか?」
「無理だよっ!ずーっと、会ってなかったし・・・弟に、拒否されちゃったら怖いよぉ・・・」
俺は、遠くに見えてきた駅とは違う方向に、西園を連れて行った。そして、怒鳴った。
「逃げるなよ」
西園は、くりくりの目をさらに丸くして、俺を見つめた。
「逃げて、なんか・・・」
「逃げてるだろ。俺だって・・・逃げてきた。でも、試合をして、ちゃんと正面から向き合った。だからさ、西園も向き合えよ?」
西園は驚いたように目を見開き、そして若干浮かんでいた涙をぬぐい、力のこもった瞳でうなずいた。
それから数分後・・・
俺たちは、“稲妻”駅についた。偶然にも、俺たちは同じ駅だった。もしかしたら、家も案外、近いのかもしれない。
駅のすぐ近くのマンションに、西園は住んでいるらしい。俺の家は、もうちょっと住宅街だから、そんなに近くはなかった。
今日はそこを通り過ぎ、とある家の前に着いた。
ピンポーン・・・高いチャイムの音が鳴って、まるで小学生のような声が聞こえてきた。
「はーいって・・・南沢先輩!?」
「え・・・し、信助!?あ、信助の名字って・・・」
―――西園信助。そうか、そういうことか・・・。西園の弟は、信助か。信助のヘアバンドは、傷を隠すためなのだろうか。
「先輩、どうしたんですk―――お姉ちゃん?」
俺の後ろから、西園が泣き出しそうな顔で、少しだけ出てきた。その瞬間だった。
「お姉ちゃんっ!会いたかった!僕、ずーっと待ってたんだよ!お母さんが何言ったって、僕はお姉ちゃんと一緒に暮らしたいよ!大好きだから!」
西園は、大粒の涙を流しながら、信助を抱きしめた。
「私も!信助、大好きだよ!」
俺は、笑いながらその光景を眺めた。
「・・・南沢君、ありがとう。南沢君のおかげ。逃げちゃだめなんだよね。ちゃんとわかった。もうね、私・・・何からも逃げないから!だから・・・南沢君も約束して?南沢君が言ったんだから、南沢君も逃げないで」
帰りながら、西園は俺にいってきた。俺は、笑いながらうなずいた。それから、そうそう、と言いながら、付け足した。
「私、高校からは雷門行くことにした!だから、南沢君も一緒に行かない?」
―――雷門か・・・。
「そうだな・・・考えておく」
「本当っ!?やったぁ!」
―――俺は、こいつといるのが“苦”ではないらしい。