俺―――霧野蘭丸は、いつの間にか泣いていた。
理由は簡単。親友の神童と、ちょっとした喧嘩をしたからだ。たかがけんかなのに、つい泣いてしまった。
さらに、サッカー部の後輩、山吹楓にみられ、なぜか楓に腕をひかれ、楓の家に向かっている最中だ。
「楓!どうして俺なんかを、気にする!?」
「先輩ですよっ!?放っておけませんし!」
しばらく走ったころ、地元でも有名な、豪邸が見えてきた。
家の敷地範囲は、財閥である神童の家よりも、はるかに大きく、ゴルフコース、植物園、バラ園、川、プール、噴水・・・など、様々な施設がある。森だって持っている。また、本館と思われる館は、5階建て。まるで宮殿のような外見で、庭なんかは端から端までが見えないくらい広い。また、別館もあり、別館だけでも神童の家くらいの大きさだ。
そんな家(?)に見入っていると、楓の歩みが止まった。歩みが止まったのは、とてつもなく大きな門の前だった。そして、何のためらいもなくインターホンを押す。そのインターホンでさえ、いくつも宝石が付いていた。
「ちょ、楓!?何やってるんだ!?」
「え・・・?」
不思議そうな顔をしたまま、楓はこちらを見つめ返す。その時だった。そのドでかい門があいた。
門の内側には、大きな石畳の道があり、それに沿うように両側に、帝国学園の制服を着た少年が、ズラリと並んでいた。
その石畳の道を、楓は歩いてゆく。俺は、いまだに理解に苦しんでいた。
その道も、また長い。リムジンも何台もあれば、世界の高級車もいくつもある。噴水でさえ、やばいくらいの水量だ。作られている素材も、大理石っぽい。
そしてとうとう、本館に着いた。豪華な玄関に、思わず目がくらむ。
「楓、此処は一体・・・?」
「此処ですか?私の家です」
・・・はぁぁぁぁぁぁぁ!?こ、此処が、楓の家なのか!?ということは、楓は、世界屈指のお嬢様なのか・・・!?
「楓、1つ聞いていいか?」
「・・・はい」
「楓の家は、何なんだ!?」
すると、楓はさらに驚きの発言をした。
「私、山吹楓は、世界3大財閥のうち最も力のある財閥、つまり世界で最も力を持つ財閥、山吹財閥の1人娘です」
「・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
今度は、声に出てしまった。しかし、しょうがない。驚かないほうが、おかしい。
「ちょっと待て、つまり、楓はお嬢様なんだな!?」
「・・・まぁ、そういうことになりますが・・・自覚とか、あまりありませんね」
確かに・・・お嬢様のような、ツンとした雰囲気は、楓にはない。その代わり、人のことを思いやれる優しい気持ちがある。そこが、世界最高の力を持つ財閥の、次期総帥というものなのだろう。
俺はそのあと、楓の部屋に上げてもらった。
楓の部屋は、広すぎた。俺の家の、1階(リビング、ダイニング、キッチン、部屋が2つ、洗面所、風呂)以上の広さがある。ベットなんか、大人が3~4人くらい寝れそうな広さだ。
窓も、でかい。カーテンのレースの糸も、シルクと金糸でできている。今座っているソファも、おそらくとてつもない値段なんだろう・・・。この目の前にあるカップも、紅茶も、お皿も、お菓子も・・・。
動くたび、震える。まるで、はじめて神童の家に来たときみたいだ。―――そうだ、今、俺と神童は、喧嘩中なんだよな・・・。
「あ、あの・・・ありがとう、気遣ってくれて。で、でも、迷惑だろ」
「いいえ」
・・・即答だ。すごい、楓が今、とてつもなくまぶしい・・・。
その時、俺は1つ気になった。
「なぁ、なんで帝国学園の人が、たくさんいるんだ?」
それを聞くと、楓は答えてくれた。
「私の母―――養母なんですけど・・・その母の、お兄さん・・・私からすると、伯父さんなんですが、その人の家が、帝国学園とつながりがある、私の従兄のお兄さんが、帝国学園の総帥で、学校教育の一環で、“帝王学”があって、その実習の事業として、1人週に1日、私の家に来るんです」
成程。すごい・・・それしか、出てこなかった。
「そういえば、なぜ先輩は、あんなところにいらっしゃって、その・・・泣いていたんですか?」
痛いところを、ついてくるな・・・。でも、しょうがない。話すか。
「恥ずかしいんだけど・・・神童とけんかしたんだ。それで、ちょっとな・・・かっこ悪いだろっ!?」
すると、楓はさらに予想外の言葉をかけてきた。
「そんなことありませんよ。友と真っ向からぶつかり、傷つき涙を流すことは、とてもかっこいいことですよ?」
シルクのような、黄色と金色の混じった奇麗な長い髪を揺らしながら、紅の瞳を優しく少し細め、まるで天使のような笑みを、楓は俺に向けてきた。・・・やばい、この笑顔、絶対に一瞬は、男女関係なく、惚れるだろ。
「先輩?顔、赤いですが・・・熱でもあるかもしれません、すぐ別の部屋を用意しますので・・・」
「あ、大丈夫だ。それより、ありがとう。元気が出た。それじゃ、もう帰るな」
俺は、席を立って、楓の家を後にした。帰り道、リムジンで送らせると言ってくれたが、それはさすがに遠慮した。ならといって、楓は、お土産と言って、10枚入りのクッキーの詰め合わせをくれた。まったく、世話になってばかりだった・・・。
「よし、明日、神童に謝るか!」
なんだかすっきりした気分だった。
そのあと、家で母さんに、楓にもらったクッキーは、世界屈指の高級店のもので、1枚500円もするものだと知って、血の気が引いたのは言うまでもない。