それからしばらくして、タクティクスは完成した。―――なんと、試合当日だ。
何とか間に合ったのだ。
「よかったぁ・・・」
ベンチで、1人つぶやいた。
「どうしたんだ、吹雪」
横から、円堂さんのそんな声が聞こえた。私はつられて、そちらを向いた。
「どうしたんですか?」
「あ・・・いや、なんでもない」
その吹雪さんの顔は、なんだか暗かった。大方の予想はつく。
―――昨日の夜、雪村さん―――白恋で、吹雪さんが教えていた2年生―――と、雷門のグラウンドで、あっているのを見た。
私は、暇だったから、サッカー塔内で資料を見ていたのだ。皆のデータは、入学式前にフィフスセクターからもらった資料より、圧倒的にレベルアップされていて、驚いていた。
私は、こそっと吹雪さんに言った。
「大丈夫です、雪村さんだって、絶対にわかってくれるはずだから・・・」
驚いたように私を見て、吹雪さんはまたうつむいた。
「よぉし、皆!出発だ!」
「「「はいっ!」」」
そして、皆でキャラバンに乗り込み、会場へと向かった。
「ぎりぎり完成したわね、必殺タクティクス」
「うん!これで、絶対障壁なんかこわくない」
天馬と葵が盛り上がるなか、輝君が胸に手を当て、目を輝かせていた。私は、京介の隣に、ぎゅうぎゅうになって入っている。瑠奈は、茜さんの隣だ。
「初めての試合、ドキドキします!」
「あっ!そうだ!名前・・・つけなくていいのかな?必殺タクティクス」
信助の一言に、皆があ・・・という顔をする。
「そういえばそうね」
「そうね・・・まだ決めてなかったわね」
「どうするの?いい名前、誰かある?」
すると天馬が、狩屋に問いかける。
「狩屋ー!なんかないの?」
―――狙っているのか否か、よくわからない。でも、狩屋はネーミングセンスが、ほとんどといっていいほどない。
「また俺かよぉ!?」
「うん」
真顔でうなずく天馬。狩屋は、めんどくさそうな顔をしつつ、考える。
「2人で一緒に駆け抜けるわけだから・・・ら、ランランランニングとか・・・///////」
顔を赤らめながら、狩屋が言う。皆に、一瞬の間ができる。そして―――
キャラバンが揺れた。
「だっ、ダッサ――――!!」
「素晴らしくださいですねーっ!」
天馬や輝君、葵に信助や茜さん、水鳥さんは腹を抱えて、大爆笑している。
あの瑠奈でさえ、静かに笑っている。私は、爆笑を通り越して、もはや真顔だ。隣の京介も、同じ感じだろうか。
「だったら、どんなんがいいんだよ・・・」
ふてくされたように、狩屋がきくと、輝君が考える。
「両サイドから駆け上がる新風・・・ダブルウィングとかどうですか?」
また間が空く。しかし、その反応は狩屋の時と違って―――
「それ!それでいこう!」
―――雷門の新必殺タクティクスは、“ダブルウィング”となった。
狩屋は、面白くないように、窓の外を眺めた。私は、前に乗り出して、狩屋に言った。
「いいじゃない、ランランランニング」
「うっ、うるせぇ/////」
また顔を真っ赤にした。面白い。
ブゥ・・・と、小さい音が聞こえた。
「京介、何の音?」
小声で京介に尋ねると、京介は窓の外を見た。
「・・・あれだ」
そう言いながら、空を指差した。
「飛行機か・・・」
―――その飛行機は、イタリアからの飛行機だった―――。
キャラバンはスタジアムにつき、すぐにトレインに乗り込んだ。
目の前には、シードのデータで何度か見たことのある顔が、いくつかある。
中でも、吹雪さんが見つめる顔―――雪村さんは、フィフスセクター内のデータでも、期待される者だけが置かれるところに、データが置かれていた。
やがて、甲高いブレーキの音が聞こえた。―――スタジアムについたのだ。
外に出て、最初に感じたのは
「寒い・・・」
大きなドアを開けて、ぶわっと冷気が吹き込んできた。つまりここは・・・
「えぇ!?なんだここは!?」
皆の混乱した声が、聞こえてきた。
―――一面氷で覆われている、このスタジアム。もちろんピッチだって、すべて氷だ。アイススケートの舞台、なんかではない。
そう、ここが“スノーランドスタジアム”―――。
「ここが、今日のスタジアム・・・」
「はい、ここはスノーランドスタジアムです。雪国の北海道代表、白恋中には・・・うってつけのフィールドです」
・・・この戦い、厳しいものになりそうだ。
ウォーミングアップをし始めた。・・・が・・・
「輝ー!いっくよー!」
天馬は、勢いよくボールをけった。
・・・が、滑ってしまった。
このスタジアムの、最大の特徴である氷のフィールドは、使いこなせるか否かが、勝負のカギとなる。
使いこなせれば、勝算は十分にある。ただし、使いこなせなければ、一気に難しいものとなる。
受け取る輝君も、受け取りにくそうだ。
ボールも、ちゃんと受け取らないと、滑って行ってしまう。
―――白恋中は、冬場なんかは学校のフィールドが、こんな感じだと吹雪さんに聞いたことがある。
つまり、白恋には難しくない。むしろ、使いこなし方がわかる、プラスの舞台となるだろう。
そんな時だった。
春奈さんが、笑顔でベンチへやってきて告げた。
「皆、いいニュースよ。錦君が戻ってきたわ」