試合当日、いつもの部屋から雷門イレブンが見える。それも、かなり近くだ。
つまり、こちらへと向かっているということ。
―――空はどんよりと曇っていて、どう頑張ったって“晴れ”とは言えない。今にも、雨が降り出しそうだ。
昨夜はよく眠れず、朝起きたのは5時半だった。
パジャマ代わりのジャージと黒のTシャツを脱ぎ、クローゼットへと向かう。
どうせ試合には出られない。それに、聖帝―――豪炎寺さんのところへ行くのだ。正装、とまではいかないでも、少しちゃんとした服を着ようと思い、白いエレガントなリボン付きのシフォンブラウスと、薄い上品な桃色のフレアスカートをはき、銀色の控えめなミュールをはいた。
髪は少し丁寧にとき、腕にレースでできたバラのシュシュをつけた。
「・・・私じゃないみたい・・・ってね」
鏡を見て、自嘲気味につぶやく。
ドアを開けると、そこは広いホール。上には大きすぎるほどの天窓があって、ステンドグラスのようだから、晴れているときれいなものだ。
だが、今はあいにくの雨。天井からぶら下がるシャンデリアの明かりが、まぶしすぎるほどに輝いている。
ゴットエデンは、見た目こそおっかないが、中は意外と奇麗で、上品だ。下級者の部屋は、どこにでもある寮の一室のようだが、上級者になってくるにつれ、部屋は奇麗になってくる。
私たちのような最上級者ともなれば、高級ホテルの一室ほどのきれいさで、部屋も大きい。ホールもあり、エレベーターもある。しかも階段は、螺旋階段だ。
部屋の端にある観葉植物。その横に、おしゃれなベンチがある。横には、自動販売機だってある。ちなみに、無料だったりする。
自販機でココアを買い、そのベンチに座り、一人ため息を吐く。
「幸せが逃げるらしいぞ」
そんな迷信を、まじめに語る低い声。怖いようで、本当は優しいそんな声。
「白竜・・・早いね」
「今日はゼロ戦だからな。寝てられないんだ。俺は、キャプテンなんだ」
そんな姿を見て、キャプテンに似ている、なんて思う。キャプテンになる人は、そういう変なところが似る。
「ふふっ・・・私は、聖帝のところで見ているわ。頑張って」
白竜は、意外とでも言いたげな顔をする。
「お前は・・・てっきり、雷門にしかそういうこと、言わないと思っていた」
私は、苦笑気味に笑い、自販機のほうへと歩きながら言う。
「私は、貴方達のことを・・・まったく敵だとは思ってないし」
自販機で買ったホットミルク。それを受け取り、白竜のほうへと歩く。白竜の前に着くと、私はそれを差し出す。
「差し入れね。頑張って」
「・・・俺の好きなもの、よくわかったな。甘党だとか、楓は笑うか?」
正直言うと、白竜は白いものと金色のものなら、何でもOKなんだと思った。だが、それは言わないでおこう。
「笑わないわよ。さぁ、頑張って」
「・・・あぁ!」
白竜はそういうと、ちょっとぬるいホットミルクを一気に飲み干し、螺旋階段を駆け降りた。
下のほうから、あちち、という声が聞こえたが、それは聞かなかったことにしよう。
―――時計の針は、早いもので、6時半を指していた。
最上階から、白竜の下りて行った階段を1階下りると、そこは上級者の部屋だ。そこから、3階分くらいが上級者の部屋だ。ふわふわの絨毯が引いてあったり、そこそこ豪奢なシャンデリアがあったりと、そこそこ奇麗だ。
3階分降りると、中級者上の部屋だ。それは、2階分くらいある。中の上の部屋で、そこそこ奇麗だ。
そして地上1階へとたどり着く。1階には、食堂がある。
あの不気味な玄関は、階段を上がったところにあるから、2階にあるのだ。そこからど真ん中に動く廊下があり、突きあたりにある大きなエレベーターに乗り、高いところにあるサッカーピッチへとつながる。
地上1階には、特訓施設がある。鉄球が飛んできたり、危ない特訓をする。その様子が見えるのは、地上3階だ。
つまり、中級者上の部屋は、どちらの階も両サイドに分かれているということだ。
地下にも部屋があり、地下1,2階は中級者下の部屋、地下3階には、下級者の部屋がある。どちらとも部屋は変わらない。若干、中級者下のほうがいい。
最上階の下―――上級者の部屋のある階からつながる渡り廊下で、不気味な羽根のようなところの右へとつながっている。そこに、聖帝の部屋や、会議室などがある。
同じ階、左へと行けば、葵たちが閉じ込められていた檻がある。そっちのほうにも、会議室があったりする。
ただ・・・
―――ゴットエデンは、巨大な岩の中に建物が作られた、と言った感じで、ちょっと迷えば、岩の中で迷い続けることになりかねない。階段もいくつもあり、慣れるまでは、地図がないと命取りだ。
私はそんなゴットエデンの食堂へ着く。
食事は基本ビュッフェ。私はサラダとコンソメスープを取り、まだ人がちらほらしかいないテーブルに着く。
そこにいるのは、ゼロの人ばかり。私を見ると、軽く礼をする。
―――ゼロの人間は、私の事情を察する人ばかり。だから、気が置けない。
長い道のりをこえ、雷門イレブンはゴットエデンへ着くころだろう。
食事も食べ終え、私は皆が来る前に、高い電柱のようなものの上に上る。そしてやがて・・・雷門イレブンはやってきた。
円堂さんが皆を支える姿は、懐かしかった。私もそこにいたい、と思ってしまい、涙がにじんだ。
「やだ・・・もう」
指で涙をぬぐい、私は皆がその場から去ったのを見て、そこから飛び降りる。
そして・・・聖帝の部屋へと向かう。
「皆・・・ごめんなさい・・・」
私は本気になった時、髪の毛をポニテにする癖がある。そうすると、気持ちが高まるのだ。
「皆が戦うの。私だけ、あぁそうですかって・・・従えないわ」
キュッとシュシュで髪をまとめ、私はヒールを鳴らしながら、皆の後に続き、ゴットエデンの中へと入り、聖帝の部屋へと向かう。
「・・・遅いな。見送っていたのか?」
「すいません・・・聖帝」
赤いスーツ姿の彼。彼こそ、聖帝イシドシュウジさま。そして、豪炎寺さん。
「・・・今は、豪炎寺として接せる」
「わかりました、豪炎寺さん。・・・今は、この試合を、見届けましょう」
「そうだな」
視界がにじむ。そのまま、私は豪炎寺さんの横で、試合を眺めていた。