雷門イレブンを待ち受けていたのは、牙山だった。いつもと同じ、ピンク色のスーツとリーゼントを横にしたような髪型が、気持ち悪いほど決まっている。
「ようこそゴットエデンへ・・・君たちにとっては、スタジアム全員が敵と言ったところですね・・・」
「全員が敵・・・」
天馬はそうつぶやくが、それは間違っている。現に、私も豪炎寺さんも、雷門イレブン側の人間だ。
―――そう思っているはずなのに、ゼロの白竜たちを、見捨てられないのは、私の心が弱いからだろう。
「改めて言うが、この試合で君たちが負けた場合、シードになるための教育を・・・」
「何度言われても、俺たちの答えは決まっている!」
「・・・フフフ、まぁいいでしょう。こちらには、すでにシードが1人、いるのですから・・・フフフ・・・」
「それは、楓のことかッ!?」
「さぁ、どうでしょうね」
不敵な笑みをい浮かべる牙山は、本当にいらっとくる。シードとして教育されていた時、何度こいつの喉元に、掴みかかりそうになったことか・・・。
「フフフ・・・だが、拒否することなどできん・・・そしてお前たちは、勝たない限り、此処から出ることもかなわないのだ・・・」
そして、牙山がポーズを決め、大声で叫ぶ。
「いでよ!究極の戦士たちよ!」
―――その瞬間、“光”を表す黄色の光と、“闇”を表す紫の光が放たれた。やがてそれらは混じり合い、雷門イレブンの前で落ちた。
そこから現れたのが、この試合の相手―――白竜がキャプテンを務める、ゼロだ。
このチームは、アンリミテッドシャイニングとエンシャントダークの混合チーム。そのため、両チームの精鋭選手たちが、このチームに集結している。
一方の雷門イレブンは、アンリミテッドシャイニングと戦うと思い込んでいたため、違うメンバーがいることに、戸惑いを隠せていなかった。
そして、一番驚いたのだろう。天馬が、彼―――シュウを見て、声にならない悲鳴、のようなものを上げる。
「シュウ!なんでシュウがあいつらと・・・」
その言葉に、ほかのメンバーが気付く。
「彼だけじゃない。ほかのメンバーも混じっている」
動揺する皆に対して、シュウははっきりと言い放つ。
「誤解のないように言っておくけど、僕は自分の意志でこのチームに参加している」
「シュウ、どうしてなんだよ!」
すると牙山が、一歩前に出て説明を始める。
「究極の力を求める我々の計画・・・“プロジェクト・ゼロ”について、話してやろう・・・。“アンリミテッドシャイニング”と“エンシャントダーク”は、2つのチームに分かれて、特訓を行ってきた・・・。君たちが森でエンシャントダークと戦ったのも、計画の一部だったのだよ・・・。光と影、静と動、プラスとマイナス・・・この2つが融合した時、究極のチーム“ゼロ”が誕生する!」
あの笑みを浮かべたまま、牙山がそう語る。語り終えた瞬間、私の耳に、聞き慣れた声が響いた。
「天馬―――っ!!」
天馬が上を見上げ、驚いたように言う。
「葵!!」
その声を聞いた瞬間、私は反射的に豪炎寺さんを見た。
「どうしてです?」
豪炎寺さんもわからないようで、首を横に振るばかりだった。
「ッ!・・・ちょっと失礼します」
私はそういうと、部屋を出た。そして、廊下で携帯をいじり、奴―――牙山に電話をかけた。
prrrrr・・・prrrrr・・・
牙山の携帯が鳴るのは、此処からでも聞こえた。すぐに牙山は出た。すがすがしい―――計画が成功したような、そんな声だった。
「牙山、なんで葵がいるのよ!?チャンスを与えたのは、あなたでしょ!?」
『フフフ・・・確かにチャンスは与えた。だが、あそこから逃げられなかっただけの話だ』
「・・・でも、お兄さんたちは逃げきれているじゃない!?」
『そうだな・・・それは、運がよかったのだろう』
電話越しに、高笑いする牙山の声が聞こえる。耳の中で、下品な笑い声が響く。頭痛がする。
『ちょ、貴様!何をする!』
携帯を耳元から離していると、そんな焦ったような声が聞こえた。そして、聞き覚えのある、優しい声が聞こえた。
『楓なのか!?俺だ、円堂だ!』
「円堂・・・さん・・・」
まだ痛む頭を抑えつつ、私は円堂さんと話す。
「すいません、まだシードのままだって事、言ってなくって」
『大人の勝手な事情だッ!楓は、全く悪くない!それより楓は、無事なのか!?』
「はい、無事です。でも、試合には出れそうにないので・・・雷門の試合、見届けます」
『そうか・・・わかった。楓も、気をつけろよ』
「はい」
円堂さんの声は、牙山の声と違い、とても優しいもので、壊れかけそうなわたしの心にも、すっとしみ込んでくる。
私は電話を切り、豪炎寺さんのいる部屋に、帰る―――ことはせず、全速力で自分の部屋へと帰った。
急いで部屋に帰り、とりあえずポニーテールをほどき、いつものジャージに着替える。着替え終わったら、黒い小花がらのシュシュで、再びポニーテールにして、インカムをつけた。
インカムのスイッチをオンにして、豪炎寺さん、円堂さん、葵、瑠奈の電話番号を登録して、電話代わりに話せるようにした。
いつも使っているスマホは、ジャージのポケットの中に入れ、黒いキャップをかぶった。
赤茶色の眼鏡をかけ、簡易的な変装を済ませると、私は再び部屋を出た。
―――ゴットエデンの関係者は、只今外出禁止、という規則をなんとかくぐりぬけ、私が向かったのは、エンシャントダークの森。
そこには、私と白竜と京介で、埋めたタイムカプセルのようなものがあった。
“10年後に開けようね”と約束したが、それは果たせそうにない。このタイムカプセルの中には、サッカーが純粋に好きだったころの、形のない想いが詰められているように思った。
中に入っているのは、ボロボロのサッカーボール。そして、3人で書いた色紙だったはずだ。色紙に何て書いたかは覚えていないが、これを見たら、思い出してくれるのではないか・・・そう思った。
つり橋までの距離もかなりあり、朝方雨が降っていたようで、足場は最悪。走っても走っても、なかなかたどり着けない。
つり橋はつり橋で、強風にあおられて、さすがに少し背筋が凍る。
森の中は、今日は曇りのため、薄暗い。おまけに、少しずつ雨も降ってきた。
「最悪・・・」
走ってもしょうがないと思い、私はそういいながら歩いた。ここでの生活は、厳しかったのも事実。だけど、それ以上に楽しかった。
大きい森を抜けると、少し開けたところに着いた。そこには、おおきな楠が1本、堂々と立っている。その木の根元に、確か埋めたはずだ。
キャップをシャベル代りにしたり、手で掘ったりを繰り返し、泥だらけになったころ、大きな箱が出てきた。
「あった・・・っ!」
それが、3人で埋めたタイムカプセルだ。中身を空けて、確認する。
「!・・・これは・・・!」
―――色紙に書いてあったのは、確かにあった“形のない思い出”だった。