天馬の化身―――魔神ペガサスアークは、白竜の化身、あの大きくて立派な、聖獣シャイニングドラゴンを、一撃で倒す。
「キャプテン!」
天馬のボールは、キャプテンにわたる。
―――キャプテンは確か、風丸さんとともに、巨大な葉っぱを飛び移る訓練をしていたはずだ。
その時に身に付けた、反射神経。どこを通って、どこを避ければ、安全に行けるかどうか、この特訓で身につけたはずだ。
「奏者マエストロ!!・・見えた!」
キャプテンには、しっかりとボールのルートが見えたらしい。そうだ、その調子だ。
「ハーモニクス!!」
化身シュートに見せかけ、そのボールは京介へ。そして、今や京介の十八番となりつつある、あの技がさく裂。
「デスドロップッ!!」
ドカッという音とともに、ボールが蹴られる。ゴールに向かう、強力な力を持つボール。
しかし、雷門の力は、此処で終わるものではない。
天馬がボールの前に滑り込み、ハーモニクス、デスドロップのパワーのこもったボールを、化身を出したまま蹴りこむ。
相手キャプテンは抗うが、それもむなしく、天馬の蹴りこんだボールは、ゼロゴールに突き刺さる。
その瞬間、スタジアム中が動揺する。当たり前だ。此処は、ほとんどがゼロの見方だ。観客だったら、私くらいしか雷門の味方はいないだろう。
「やったー!!決めたぞーッ!」
天馬の声が、スタジアムに響く。その声につられ、私も思わず立ち上がってしまう。
「やったっ!光が見えたッ!!」
その声に、お兄さんが振り返る。
「楓・・・?」
お兄さんたちには、この変装だって通用しなかった。
「あ・・・お兄さん・・・皆さん・・・こ、こんにちわ・・・あはは・・・」
乾いた笑い声が、私たちの周りに響いた。怒られるだろう、軽蔑されるだろう、そう覚悟していた。
しかし、現実は違っていた。
「無事だったんだな。安心した」
「お兄さん・・・ありがとうございます」
今謝ると、キリがない。私は、とりあえず礼を述べ、そして“希望”を託すことにした。
「お兄さん!これを・・・京介に・・・」
私が渡したのは、あのタイムカプセル。タイムカプセルの中には、サッカーボールと色紙、それに今さっき書いた、私から京介と白竜に対した、ミニレターが入っている。
「これは・・・?」
「京介に渡せばわかります。この試合、絶対にカギの1つになります」
まっすぐに瞳を見つめ、私はお兄さんに託した。お兄さんは戸惑い気味だったが、すぐに力強くうなずいた。
私はお兄さんに託し、私は豪炎寺さんのところへ向かった。
「失礼します」
私がそういって入ると、豪炎寺さんはスマホを眺めていた。
「千宮路だ。“終わりにしろ”とな・・・」
「そう、ですか・・・」
私はそういうと黙りこむ。豪炎寺さんは、牙山に電話をかける。―――終わりにする、という電話を・・・。
「仕上げに入る!」
しばらくして、白竜の声が聞こえた。そして、一気にまぶしくなるフィールド。
「化身・・・」
フィールド上には、シャイニングドラゴンを中心に、化身が5対出ている。前半にも、同じ展開があったらしい。
「化身を使える時間は限られている!此処は何としても抑え込むんだ!」
キャプテンの発言を、白竜は馬鹿にする。
「それを分かっていたところで、どうにもならないんだよ!」
「ならば連携して迎え撃つ!」
天馬、京介、キャプテンの化身が出る。5-3、ちょっときついかもしれない。それに・・・化身使いはまだいる。
―――その時だった。霧野先輩が、急に飛び出した。
「ディフェンス!神童たちをサポートする!俺たちにしかできないことがある!!」
そういうと、雷門DFの4人は、それぞれの技で計2体の化身を抑え込む。これで対等。でも、本当にこれだけ・・・?シュウの化身は、まだ出ない・・・?
そのことだけが、頭に浮かぶ。もうそろそろ、シュウだって化身を出してくる。
そんな考えを覆すように、雷門は化身を使いこなし、ボールを奪った。そのボールはキャプテンにわたり、輝君にわたる。そして、エクステンドゾーンでボールをける。
・・・が、それはフェイント。雷門にだって、もう1人、化身使いがいるのだ。
「いくぜよ!戦国武神ムサシ!!武神連斬!!」
錦先輩の化身シュートは、見事ゼロゴールに突き刺さる。とうとう、2-2。雷門は、ゼロに追いついたのだ。
その時だった。―――白竜が言っていた。“大人だって、試合に出れる”と・・・。
その言葉の通りになる。牙山たちが、”教育”の名のもとに、試合に出ることとなってしまったのだ。
「馬鹿な!」
「シュウ!本当にこれでいいの?これがキミの求めるサッカーなの!?」
選手に続き、お兄さんたちも反撃する。
「こんなことが許されるわけがない!!」
しかし、牙山の態度は変わらない。
「あなた方は、立場を理解するべきではないかな?」
―――そうだった。葵が、まだ捕まったままだった。
私は椅子から立ち上がり、豪炎寺さんに一礼すると、インカムをつなぐ。
prrrrr・・・prrrrr・・・
『もしもし』
「葵!楓よ!今助けにいくから、檻の入口の近くにいて頂戴!」
『え?楓、大丈夫なの!?』
葵の心配そうな声が聞こえる。
「大丈夫よ。シード長をなめないのね」
『シード長?』
葵の不思議そうな声を聞きつつ、それはあえて無視。急いで1階まで駆け降りて、鍵を借りることにした。
「それじゃあ、すぐ行くから!」
そういうと、私は一方的に電話を切って、全速疾走する。
「何度だって、助け出してみせる・・・!」
ロビーでは、人なんてほとんど来ないのに、ちゃんと女性が制服を着て対応する。
「楓さま、どうされたのですか?」
「左のカギ、全部貸してください!」
ダメもとで頼む。ダメでも、強行するつもりだった。しかし、意外と簡単で。
「いいですよ。でも、何に使われるのです?」
私は悟った。―――受付嬢には、何も伝えられていないのだ。私は笑顔をつくり、急いで駆けあがる。
檻のカギは、全部で20種類。すべて試していては、気付かれる可能性がある。
―――考えないと。まず、最新式が多い中、確か古くから使われていた形だったため、くの字型はありえない。すると、7種類にまで絞られる。そして、下と上に空きスペースがある穴のため、下にしかない奴、および横にある奴は除外。すると、残るは3種類。
鍵穴のさび具合からして、2つは古く、1つは新しい。あの檻は、見た目は新しかった。つまり、1つに絞られた。
「これねっ!」
正解のカギを握りしめ、私は檻に向かって走る。そして、鍵穴にカギを差し込む。―――ガチャリ。
「開いた・・・っ!」
扉を開けると、瞳に涙を浮かべた葵がいた。扉が開くなり、私に抱きつく葵。
「ちょ、葵・・・っ!?」
「楓・・・怖かったよぉ・・・!」
私は葵をなでて、すぐに手をつなぎ、スタジアムに向かった。