“めんどくさいことになったな・・・”
俺―――剣城京介の頭に浮かぶのは、そのことばかりだ。
事の起こりは、数時間前にさかのぼる。
今日は、栄都学園という、はっきり言うとクソな学園との練習試合らしい。俺は、当然出るはずがない。シードが出るのは・・・ホーリーロードが始まってからでいいだろう。
でも、家にいても、俺は1人暮らしだから、誰もいない。暇でしょうがなかったから、サッカー塔へとりあえず来てみた。なにか、資料でもあれば、フィフスに貢献できると思ったからだ。
しかし、そのことが、めんどくさいことになるなんて、思ってもいなかった。行ったのが、間違いだったんだ。
サッカー塔のファーストチームの部室へ行くと、かすかに人の気配がした。恐る恐るドアに近付く。そして、ドアが開く。その気配の主も、ぱっとドアのほうを向いた。
―――そこにいたのは、サッカー部部員の1年生、山吹楓だった。楓は、ただの1年生ではない。こいつは、シード養成施設で見たことがある。仲間だった奴らが、よく噂していた。
「山吹楓ちゃん、化身も出せて、本当強いよね~!俺、惚れちゃうよ~」
彼女は、フィフス内でも、飛びぬけて成績が良かった。白竜や俺と並ぶくらいか、もしかするとそれ以上だったかもしれない。
そして彼女は、俺の双子の妹・瑠奈の親友で、俺たち兄妹の幼馴染だった。でも、俺と楓がフィフスに入り、関係が険悪に。それから、今までその関係が、続いている。
そんな楓と、サッカー塔で出会ってしまった。
お互い気まずく、視線をそらした。
楓は、この前兄さんのところに行ったことを、なぜかは分からないが、後悔しているらしい。
俺だって、楓とまだ仲がいい、というような演技をした。兄さんに、ウソをついたことは、後悔している。
これから、どうしようと思っていると、楓が話しかけてきた。
「剣城、ちょっといいかしら」
剣城・・・か。前みたいに、“京介”とは呼んでくれないんだな・・・。
「は・・・?なんだよ」
「貴方は・・・本当に今のサッカーがしたいの?苦しくないの?私は・・・今の剣城見ていると、苦し・・・。サッカーには・・・本当に好きなことには、ウソをついてはいけないと思うの・・・。ねぇ、剣城、わt」
「うるせぇ!!」
ビクッと楓が反応する。俺も、俺らしくないと思いながら、一瞬たじろぐ。
「えっと・・・ご、ごめんなさい」
「い、いや・・・悪かった・・・」
・・・ッたく、こいつといると、調子が狂う・・・。
「・・・剣城、私と勝負よ。やっぱり、サッカーと一度でいいから、向き合って・・・お願い・・・私たちの好きだった・・・サッカーと・・・」
「はぁ!?」
今度は何を言い出すか・・・。マジで、こいつといるとやばいな・・・。でも、此処で逃げるつもりもない。
「わかったよ。まぁ、おまえが俺に勝てるとは思わねぇけどな」
「・・・そんな大口叩いて、大丈夫かしらね?」
そして、試合をすることになり、今に至る。
勝負は、1VS1で、先にボールを奪い、シュートを決めたほうが勝ち。俺はFWだし、楓もFWやMFだから、ハンデ入らない。性別のハンデもいらない、と楓は言った。
「おまえたち、何をしているんだ!?」
試合が始まる、という時だった。観客席のほうから、声がした。この声の主は・・・
「神童・・・キャプテン・・・」
楓が、つぶやく。俺は、このキャプテン―――神童との関係は、楓との関係よりもさらに悪い。
「何って・・・見てわかんないんですかぁ?試合、ですよ」
挑発するような口調で、俺は言った。楓は、無言のままだ。神童は、怒っていた。まぁ、あいつからすれば、まさに“神聖なグラウンドで何をしているんだ”という話なんだろう。
俺は続けた。
「俺と楓が、今から勝負する。俺たちの勝手だろ?なら、おとなしく見とけよ」
キャプテンは何か言いかけたが、監督の久遠が制止した。
「わかった。ならば、俺たちはここで見ている」
俺たちは、試合を始めた。
キックオフは、楓からだった。
キックオフから、はげしい試合になった。
楓は、予想以上に強かった。俺は、なかなかボールを取ることが出来なかったし、俺がボールを持っていても、すぐにとられてしまった。しかも、あいつはGKも含め、全ポジションが出来る。かなりの強敵だ。
俺も油断しないようにしたが、ちょっとしたすきを、あいつは突いてくる。そして、とうとう楓がゴール前に来てしまった。
「ッ!!」
「これで終わりね・・・出てきて!大天使ミカファールっ!!」
クソッ・・・こいつ、化身を出してきたか・・・。しかも、かなりの大きさだし、何より―――きれいで、傷つけられないような気がした。しかし、そんなことは関係ない。
俺も、すぐに戻り、化身を出した。
「出てこいっ!剣聖ランスロット!!」
しかし、遅かった。
「これで本当に終わりっ!クールハニーっ!!」
神々しい光にボールが包まれ、赤いバラの花びらが舞う。そして、そのボールは、ゴールネットに突き刺さり、ネットを破ってしまった。
「ッ!・・・俺の、負けか・・・」
なんとなく、予想は付いていたが、まさかこんなに強いとは・・・さすが・・・聖帝お気に入りのシードだ。
「・・・剣城・・・ありがとう。もう、サッカーしたくなかったらしなくてもいいから・・・ありがとう」
俺は、目の前に来た楓を見た。瞳は若干潤んでいて、手足は震えていた。
そして、楓はコートから出た。そのあとを、上で見ていた奴らが、走っておっていく。ただ1人、あの憎たらしい松風をのぞいて・・・。
松風は、上から叫んだ。
「俺、剣城のこと、信じてるからっ!!」
「ッ!?」
・・・また楓が、余計なことでも話したんだろうか。それでも、なんだか心の奥深くに、温かいものがともった―――ような気がした。
松風は、そういい終わると、皆の後に続いた。
「・・・ったく、調子狂うな・・・っ」
そう言い残し、俺もコートから出た。