会長さんの件も、一段落し、久々にフィフスセクター本部に戻る。
豪炎寺さん―――聖帝は、いつものように赤いスーツを、なぜか着こなし、大きな地球儀のようなものがある部屋に、1日中閉じこもっている。
―――まったく、飽きないものかと思う。
「お久しぶりです、聖帝」
一礼してその部屋に入ると、部下に急に舞台そでらしきところに、引きずり込まれた。理由はもちろんわからない。おまけに、口までふさがれ、
「小声で話せ!」
とまで言われる。こいつ、私よりも身分、下のはずなのに。
ウィーンとドアのあく音がした。
部下に言われたように、小声でたずねる。
「誰が来たの?」
「自分で確認したらどうだ」
そでから顔をのぞかせ、見えたのはきれいな金髪。幼いころの記憶が、鮮明に呼び起こされた。
「アフロディ・・・?」
―――そこにいたのは、アフロディだった。私がまだ3歳―――光山楓だったころ、よく面倒を見てもらっていたのを覚えている。私は基本、世宇子中のサッカー部に面倒を見てもらっていた。
サラサラ揺れる金髪は変わらず、右サイドでくくられていた。
「久しぶりだな・・・」
聖帝の声がする。“久しぶり”ということは、やっぱりアフロディだ。―――ということは、アフロディもフィフスセクターの・・・?
「・・・もう帰る」
「いいのですか?」
急に敬語に戻った部下を無視して、私は隠し扉から外へと出た。
暗い気持ちのまま、部活には行きたくなかった。
「・・・行こうかしら」
そう呟いて、私は駅に向かう。
―――駅から次の駅まで5分、そこから徒歩で15分歩くと、巨大な不気味な建物が見える。シンボルマークは、“帝”の文字―――・・・。
「ここが、やっぱり落ち着く」
そして向かうのは、総帥室。かつて・・・というか、ちょっと前までは、お兄さんが座っていた。今は、代理の佐久間さんだ。
―――あそこには、おじいちゃんも座っていたわけで。本音を言えば、ちょっと落ち着く。・・・なんて、私はおじいちゃんのこと、ほとんど何も知らない。
「楓、はい」
佐久間さんから差し出されたのは、アップルティー。コップには、すべてペンギンがプリントされている。実を言えば、私もペンギンは好きだ。
「ありがとうございます」
一緒に出されたケーキも食べつつ、私は佐久間さんに聞いてみる。
「アフロディがね・・・フィフスセクター本部に来てました」
驚きを隠せないようで、うっかりアップルティーを落としそうになっていた。やがて、私を見つめた。
「大丈夫か?・・・毎回毎回」
「ハハハ・・・もうなれちゃいましたね。地区大会は、お兄さんも佐久間さんも、そういえば相手でしたし」
苦笑気味で言うと、佐久間さんまで苦笑した。
―――やっぱりここは、心が温まる。家よりも、ずっと“人のぬくもり”に満ちている。
帰り道、天馬、葵、信助の3人を見つけた。
3人はどうやら、パスタだのスパゲッティだの話していた。そんな会話を聞いていると、パスタが食べたくなってきた。
ちょっと細い路地に入ると、お兄さんを見つけた。
「お兄さん」
「楓か・・・。佐久間のところに行っていたんだろ?話は聞いた」
「はい・・・無断欠席は、すいませんでした」
簡単な謝罪をして、並んで帰っていると、空き地に見覚えのある影発見。
「錦先輩・・・」
錦先輩は、サッカーボールに絵の具を付け、離れた場所にある紙に書いてある、青い点に重ねるつもりらしい。染岡さんから、聞いたことのある練習法だった。
「あいつ!あの青いしるしに、当てるつもりなのか!?」
「染岡さんから聞いたことがあります」
しばらく見届けて、私たちは家へと帰った。今日は、芽さんも有美ちゃんも、うちに来ていたはずだ。
―――その夜は、久々に楽しかった。
翌日、朝練の時、春奈さんが次の対戦相手を発表した。
「次の対戦相手が決まったわ。相手は木戸川清修よ」
『木戸川清修!?』
皆が口をそろえる中、霧野先輩がつぶやく。
「やはり来たか」
「あぁ」
前年度の優勝校。1年生だって知ってることで、空気が張り詰める。
―――突然、輝君が私の肩をつつく。
「ねぇねぇ、木戸川清修って、そんなに強いとこなの?」
しばしの間。そして、私の盛大なため息が漏れた。
「はぁぁぁぁ・・・。輝君、知らないの?前年度の優勝校よ」
「そうなの!?」
驚く輝君の横で、狩屋が興味なさそうに言う。
「勝ったって・・・フィフスセクターの指示があったんだろ?」
するとまじめなトーンの三国先輩が言う。
「あの試合は、違う。あのときはもう、聖帝選挙の結果が決まっていたからな。勝敗指示は出ていなかった」
「私も見てました。白熱した試合でしたよね」
今でも、豪炎寺さんの横で見た去年の決勝戦が、脳裏に浮かぶ。
「俺たちは・・・本気の勝負で負けたんだ」
悔しそうな三国先輩。そのころはまだ、中学がどうこうは決まっていなかった。まぁ、雷門など名門に入るくとは、決まっていたが。
「そんなに強い学校なの・・・?」
不安げな輝君に、青山先輩が言う。
「でも、今年は案外楽勝かもしれませんよ」
青山先輩と一乃先輩が顔を見合わせ、話しだす。
「ちょっと調べてみたんですけど・・・」
―――先輩方が言ったのは、面白い情報だった。
“木戸川清修は、今は2つのチームに分かれている”と・・・。おもには、滝兄弟が原因らしい、ということは、後で聖帝から聞いた。
「仲間割れってことか・・・」
その情報を聞いて、喜ぶ人の方が多かったものの、キャプテンはうつむいた。―――何度か拓人さんから、聞いたことがある。“木戸川清修のキャプテンとは、よきライバルだ”という話を。
それに、京介とお兄さんはわかっているようだが、木戸川清修は特にフィフスセクターの力が大きい。そのため、この試合は重要になる。
負ければ一気に不利になり、勝てば有利となる。
―――つまりは、負けられない試合、ということだ。