「太陽」
幻影学園戦の後、私は病院へと向かう。伯父さんのお見舞いも兼ねて、太陽の病室へと向かった。
「あ、楓!今日は幻影学園戦、お疲れ様」
太陽のその笑顔は、本当に太陽みたいで―――やっぱり、葵と重なった。それで、やっぱり2人は双子なんだと思う。
「ありがとう。次は、新雲ね」
「そうだね・・・僕は、出れるかどうかだけどね」
そういう太陽の顔は、ちょっとさびしげだった。私は、はっきり言えば、太陽の体が心配だから、試合には出てほしくない。
でも、太陽との本気の勝負、これは楽しいと思う。
私は笑って、太陽に勝ってきたシュークリームを手渡す。
「はい、太陽の好きなシュークリーム。聖帝にも頼まれたの」
「わぁ!やったっ!」
太陽は、さわやかで、元気のいい少年だ。―――彼に、病気があるなんて信じられない。
“10年に一度の天才”。彼は、そう呼ばれる。飲み込みが早く、化身も出せる。しかし、サッカーは禁止されているからだ。
“検査入院”なんて理由だけど、本当はそんな理由じゃなくて、サッカーのような激しい運動は禁じられているからだ。
「よかった、喜んでくれて。じゃあ、もういくね」
「え、もういくの?」
「えぇ。試合で疲れたし、この後いくところもあるし」
「そっか・・・じゃ、また会えたらフィールドで!」
「・・・うん」
簡単で、短い会話を済ませると、私は病室から出る。
太陽の病室から、しばらく歩いたところにあるのが、伯父さんの病室。
もうすぐ退院できそうらしいけど、若いうちに仕事しすぎたのが出たらしく、しばらくは安静。
「伯父さん、失礼しますね」
「楓・・・来てくれたんだな。試合、お疲れ様」
「お兄さんのゲームメイクは、相変わらずでした」
にこっと微笑んで、近くにあった椅子に座る。伯父さんの病室は、個室だったりする。
「・・・伯父さん」
「なんだ?」
私は、もしもという前提で話し始めた。
「もしも、知り合いが生き別れの兄弟だって言われたら・・・どうします?」
「それは・・・もしもなのか?」
「えぇ、まぁ」
極力視線を合わせず、それでいて冷静を保つ。
「そうだな・・・別に、どうでもないな。知り合いだ、と接するな」
「そう、ですか・・・」
―――私は、翔にそういう風に、接することができるだろうか・・・。
「ありがとうございます」
そういうと、重い腰を上げる。そして、また笑顔を作る。
「それじゃあ、また来ますね」
「忙しいのに、すまないな」
「いえいえ、気にしないでください。では」
私は少し足早に、伯父さんの病室を出て、そして携帯を取り出す。電話帳を開いて、“河原翔”の名前を探す。
―――翔は、私が妹だと、知っているのだろうか。
私は、つい最近知ったようなものだ。私と翔―――お兄ちゃんは、父親が違う。ママは、男運が悪かったらしい。お兄ちゃんの父親も、私の父親も、子供ができたと知ったとたんに、ママから離れて行った。
「・・・決めた」
ボタンを押して、コール音が聞こえる。すぐに、何度も聞いたことのある、ちょっと高めで、冷たくて、それでいてどこか温かい声が、耳に響いて涙腺が緩む。
「翔、私。山吹楓」
「あぁ、楓か。何の用だ」
何度も聞いたのに、事実を知ってからだと、とても恋しい声。今となっては、唯一の肉親。
「翔は、知っている?私とあなたの、本当の関係―――・・・」
翔は、黙りこんで、やがて、うん、といった。
「・・・―――兄妹、だよな」
「翔は、覚えてるの?私のこと・・・」
翔の声も、なんとなくだけど震えてるようだった。
「あぁ。俺は、4歳だったからな。瞳子姉さんが、母さんが死んだって言ったことも、鮮明に覚えている」
「そっか・・・私、ごめんねだけど、覚えてなくって・・・」
「あたりまえだ。3歳だったんだからな」
その優しい“お兄ちゃん”の声は、私の心にしみわたる。
お母さんもいて、お兄さんもいて、仲間もいるけれど、それでも“お兄ちゃん”は特別。
「ありがとう。学校では、ちゃんと吹っ切れる。翔って呼ぶから・・・」
震える声で、そう言ってみると、翔は否定する。
「俺、稲妻中学校に転校するんだ。ちゃんと中2になる」
「そっか・・・じゃあ、お兄ちゃんって・・・呼んでもいい?」
尋ねると、お兄ちゃんは優しい声で、あぁ、と言ってくれる。
「当然。よろしくな、楓」
「うんッ!お兄ちゃん・・・ッ!」
―――そのあとも、少しだけ話して、私たちは電話を切った。
電話を切った後、自然と笑顔になれた。私にも、大切に思える“兄妹”がいるんだよね・・・。
翌日、遅れて部室へ行くと、すでに準決勝に向けたミーティングが始まっていた。
私が入ったタイミングは、なぜか天馬、信助、輝が、倉間先輩を輝く瞳で、見つめているシーンだった。なんでだ?でも、そんなことより・・・。
「楓、遅いぞ!」
「すいません。でも、伝えたいことがあって・・・」
「なんだ?」
皆が怪訝な顔になり、視線が私に注がれる。
「フィフスセクターが、実力行使に出ました」
「何っ!?」
―――千宮路、どこまでも邪魔をしてくるやつね・・・。
「どういうことだ、楓」
私はうつむいたまま、スマホをいじる。そこに出る資料を、読み上げる。
「雷門の動きは、全国の学校に風となって、伝わっています。でも、そのことはフィフスセクターにとって、邪魔なだけ・・・。そういう学校を、廃校にしていってるんです」
本当に、卑劣だと思う。正しいことをするだけなのに、理不尽だと思う。こういう学校のためにも、私たちは勝つ必要があるわけだけど・・・。
皆の中に、怒りが芽生える。私はさらに続ける。
「当然、雷門を逆恨みする人もいるわけです・・・」
「今まで感じていた“追い風”が、“逆風”になるかも・・・」
輝君の言うことは、痛いほどわかる。しょうがないかもしれないけれど・・・それでも、許せない。
「しかし、他校を廃校に追い込むほど、フィフスセクターが焦っているとこ考えられる」
霧野先輩の言うことも、一理ある。
そして、雷門は前向きになった。“革命”を、皆で成し遂げようと、団結しているのだ。入学当初、考えられないことだった。
―――と、私は天馬の様子が違うことに気づく。
「天馬、どうしたの?」
「俺・・・」
皆が前向きなのに対して、天馬だけは後ろ向き。いつもの天馬らしくない。
「天馬が吹かせた風でしょ。やめるの?」
「そういうわけじゃ・・・」
天馬の焦点は定まっていない。動揺しているのがまるわかり。天馬は、責任でも感じているのだろう。
「天馬、もっと強い風を起こそう!」
キャプテンの言葉に、天馬は恐る恐る立ち上がる。
「あの・・・俺達が戦いを続ければ、またほかの学校が、潰されちゃうんじゃないでしょうか・・・」
その言葉に、皆も少なからず反応する。それは、わかりきっていることだ。それでも、皆は革命をやめようとはしないわけだ。
「きっと、沢山の中学生が今、学校がなくなって、困っています。なんか、俺、そういう人たちのこと考えたら、ちょっと怖くなっちゃって・・・」
その言葉に、場の空気は沈む。怖いのは、皆一緒ってわけだ。
「だから・・・ごめんなさい!」
天馬はそういうと、つらそうな顔のまま、部室から立ち去った。
―――前向きな少年の天馬の、そんな顔、見たことがなかった。
葵、信助、輝君が追いかけようとするのを、京介が制止する。これは、天馬の問題なわけだから、私たちにはどうしようもできない。
そのあとやってきたお兄さんと春奈さんに、天馬が学校から出て行ったことを聞いた。
その時だった。携帯が鳴った。この着信音は、フィフスセクター関係者のもので、なおかつイナズマジャパン関係者のものだ。
「ッ!すいません、私も休みます!」
私は携帯を握りしめて、荷物を置きっぱなしで外に出た。
―――メールの受信者は、豪炎寺夕香さん。豪炎寺さん―――聖帝、イシドシュウジの妹さんだ。
“楓ちゃん
今、松風天馬君を見たわ。
駅前を通り過ぎて行ったから、
河川敷にでも行くと思うわ。
今から、兄と合流するの。
天馬君は、10年前に助けてくれたのが、兄だと知るかも知れない。
合流して”