駅前に、ピンクの三つ網がチャームポイントの、女子高生がいた。
「夕香さんっ!」
息を切らす勢いで、駅までダッシュしてきた。途中で、スカートがめくれたりしたが、そこら辺は気にしない。
「楓ちゃん、早いわね。さすが」
「いえ・・・天馬は?」
「あそこよ。天馬君が、責任を感じる必要はないのにね」
夕香さんの言葉は、ごもっとも。でも、彼は責任感の強いところがある。
「行こっか」
「はい」
私たちは階段を下りて、天馬に近づく。
「天馬」
「え・・・楓?どうして・・・あと、どちら様・・・?」
「こちらは夕香さん」
夕香さんは、堂々とした態度で話す。さすが、聖帝の妹だ。
「これから、あってほしい人がいるの」
天馬の顔は、誰だ?と言わんばかりの顔。今から会うのは、恩人だというのに・・・。
「誰ですか?」
「大事なことなの。ちょっと、楓ちゃんと待っててね」
そう言い残すと、夕香さんは立ち去った。豪炎寺さんを、呼びに行ったのだろう。私はというと、天馬の方を向く。
「天馬、責任感じるの?」
「・・・あぁ」
暗く沈んだ顔は、そよかぜとは似ても似つかなくて、悲しくなった。こんな天馬に、私はひかれたんじゃない。明るい天馬だったから、雷門のサッカーを好きになれた。
「・・・深く、考えすぎないでね。もうすぐ、来ると思うから」
―――それ以降、私たちは口を開かなかった。
しばらくしてやってきたのは、真っ赤なスーツの青年―――聖帝、イシドシュウジだ。
「お久し振りです」
「あぁ」
短くあいさつを済ませると、聖帝は天馬のところへ歩み寄る。天馬は、誰だかわかっているのだろうか、わかっていないのだろうか。
「イシドシュウジ・・・ッ!」
やがて天馬が気付くと、聖帝は階段を下りてきた。
「活躍しているな、天馬君」
「なぜおれに?」
「君は雷門中を変えた。楓や剣城に聞けば、よくわかるだろう」
そう言いながら、私を一瞥する。確かに、天馬のおかげで今の雷門になったといっても、過言ではない。
そのあとの天馬は、聖帝に反論を続けた。―――豪炎寺さんは、何も悪くない。悪いのはすべて、千宮路。そう言いたいのをぐっとこらえ、私は黙っていた。
次に、廃校の話になった。そして、聖帝は言い放った。
「この事態を招いたのは、まぎれもなく君だ。君のサッカーへの思いが、サッカーを楽しくやろうとしている人から、サッカーを奪っている」
「聖帝、言い過ぎじゃ・・・ッ」
さすがに制止しようとしたけれど、聖帝は聞く耳を持たない。
天馬はと言えば、小さくカタカタと震えている。
―――その時だった。女性の悲鳴が聞こえた。
「私が行きます!」
私は走る。しかし、私よりも男子の方が、少しくらいは速いわけで。ちょっとの差で天馬に抜かされて、天馬が鞄を取り戻す。
しかし、犯人が天馬を殴ろうとする。思わず目を閉じたその瞬間だった。
バシィィィン!と、音を立てて、犯人がボールに突き飛ばされた。反射的に豪炎寺さんを見る。あのフォーム、懐かしい・・・。
天馬の方は、何が起こったのか理解できていないのか―――はたまた、聖帝が自分の命の恩人だと気付いたのか、目をぱちくりさせている。
やがて警官が来て、犯人は逃げて行った。女性もお礼を述べて、その場から立ち去る。しかし天馬は、動けずにいた。
「貴方は・・・」
「天馬、気付いたのね・・・」
小さくつぶやいたつもりが、聞こえていたらしい。私の方を、見開いた瞳で見る。
「楓、知っていたの・・・?」
観念するか。
「・・・えぇ、知っていたわ。でも、告げられなかった。それだけの話。それじゃあ、私はもう帰るわね」
私は逃げるように、その場を立ち去る。
すると、前方に見慣れた、改造制服発見。
「京介・・・見てた?」
「楓は、聖帝の正体を・・・」
やっぱり京介も、あのフォームを見ていたらしかった。私は肩をすくめる。
「さぁ?でも、今から一緒に来る?聖帝のところ」
私たちは、並んで聖帝のところへ向かう。
駐車場には、夕香さんと豪炎寺さんがいた。
「さっきはありがとうございました」
「いや、良いんだ」
「お兄ちゃんは変わらないね」
確かに、とっさに人助けができるところは、昔から変わっていないと言えるだろう。
「あ、お客さん」
私はそういうと、京介を手招きして呼んだ。京介はと言えば、睨みつける勢いで聖帝を見ている。
「貴方は、炎のストライカー・・・」
京介のその言葉に、聖帝はさほど反応せず、その場を立ち去った。しっかり見送る私の隣で、京介がただ呆然としていた。
「京介は、なんでここに・・・?」
「偶然だ」
「嘘つけ。偶然なんて・・・はぁ」
毎回のようなやり取りをして、自然を私の家に着く。
「泊っていく?暇だし」
「そうだな。荷物は、学校だが」
私は、舌をちょこっとだけ出して、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。いたずらをするわけではないのに。
「良いじゃない。宿題ないし」
「・・・それもそうか」
私はドでかいもんを開け、京介と2人、家の敷地内へとはいって行った。
一方、俺―――神童拓人は、キャプテンとして、天馬の家へといった。
天馬の家は、木枯らしそうというアパートだった。そういえば天馬は、1人暮らしをしていると言っていた。すごいと思う。
天馬と会ってから、しばらく話した。
サスケという犬のことから、サッカーや廃校のことまで。天馬は、思いつめたようだった。少し前の、自分を見ているようだ。
「河川敷に行っている」
俺はそう言い残すと、天馬の家を後にした。
しばらく1人でサッカーをしていたが、やがて天馬はやってきた。予想済みだ。
天馬はなんだかんだ言ったって、サッカーが好きなわけだ。
夕暮れに染まる街の中、俺たちはサッカーをした。昔のおれも、今の天馬も、サッカーが救ってくれるはず、そう信じて・・・。
やがて、いつも通りの天馬へと戻った。サッカーの力は、とても大きいのだろう。
帰り道、俺は天馬に言われた。
「サッカー、楽しいです。革命、止めたくありません」
その言葉は、気持ちがちゃんとこもっていて、俺は力強くうなずいた。
「そうだな」
―――もう少しで、新雲学園だ。決勝戦まで、あと少しだ。
―――そうおもう中、俺は準決勝に、無性に出たくないと思った。
理由はわからないけれど、出たくなかった。しかし、そんなわがままが通じない。怖いのだろうか?まさか、な。
しばらくして思えば、出なければよかったと、少なからず思った・・・。
しかしそれは、もう少し後の話だ。