そこにいたのは、南沢さんと兵頭さん。それと、どこかで見たような童顔の、少女だった。
彼女は、サッカー部のマネージャーではない。私は見たことがない。
見た目は小学生みたいだけど、南沢さんと兵頭さんと一緒にいる、ということはおそらく、中学3年生なのだろう。
「久しぶり、信助」
彼女は、ぎこちない笑みで信助に笑いかける。信助は、飛び跳ねて喜ぶ。
「お姉ちゃん!どうしたの!?」
『お、お姉ちゃん!?』
私と天馬の声が、見事にハモった。
彼女―――西園彩さんは、信助のお姉さんで、事情があって月山国光に通っているらしい。
それはさておき・・・
「南沢さん、どうされたんです?」
「ちょっと、な。西園、やるようになったな」
信助をほめる南沢さんのちょっと後ろで、兵頭さんが言う。
「しかし、これからの試合、通用しない」
そして、三国先輩がやってくる。
「どうだ、驚いたか?」
―――話によれば、南沢さんたちは、これからさらに強くなる敵に対するために、GKの特訓に来てくださったらしい。本来は三国先輩の特訓だが、先輩が信助のことを頼んだらしい。
「西園、といったな。雷門のゴールを守る覚悟はあるか?」
気合のこもった返事。彩さんが、そんな信助を見て、優しいまなざしになる。この姉弟は、いろいろあったらしい。
特訓はPK戦形式。雷門のMFのキャプテン、錦先輩、天馬とFWの私、京介、倉間先輩、輝君、南沢さんがボールをけり、信助が止めるという形だ。
手加減無用、そう言い放つと、私たちも手加減なんかしないで、本気でノーマルシュートを打ってゆく。信助は、昨日の特訓で、何かをつかんだようだった。
そして、私の番。私の後ろは、南沢先輩。
すると、兵頭さんが静かに告げた。
「楓、といったか」
「はい」
「楓、南沢、必殺シュートでいけ」
私たちは顔を見合わせて、若干戸惑いの色を浮かべる。しかし、すぐにうなずく。
「信助、手加減なしよ!“エンジェルバースト”ッ!」
今までとは違う、速く強いボールに、信助は戸惑っていた。そして、そのままゴールが決まる。
次の南沢さんも、同様だった。必殺シュートは、やっぱり辛いらしい。
そのあとも、数人の必殺シュートを受けたが、どれも同様。しかし、進歩は見えた。信助はおそらく、化身が使えるだろう。こい青色の影が、確かに後ろに見えた。
しかし、止めるには至らないようで・・・。
―――でも、この様子だと、最後の京介にはおそらく、とんでもない注文をつけるだろう。
案の定、京介に付けた注文は、とんでもないものだった。
「剣城」
そう呟いて、兵頭さんはただうなずいた。それで、わかった。―――化身シュートを打たせるつもりだ、と。ここまできたら、なんでも来いといった感じだろうか?でも、信助はもうボロボロで・・・。
マネージャーたちが、不安げなまなざしを送る。
「行くぞッ!はぁぁぁぁぁ!“剣聖ランスロット”!」
後ろの天馬と輝君が、驚いている。あたりまえだ。必殺シュートも止められないのに、化身シュートなんて、無謀にもほどがある。
しかし、兵頭さんはGK。FWにはわからなくても、GKにはわかることもあるだろう。
「集中だ、信助!止めることに、集中するんだ!」
天馬が叫ぶ。その言葉が、信助に届いたのだろう。
真剣なまなざしとなり、精神を統一する。
研ぎ澄まされた精神。雷門魂と、月山魂が、ここに融合する。皆の思いを乗せた、京介の“ロストエンジェル”が、信助の守るゴールへと向かう。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
―――数秒後、信助の後ろは光り輝いていていた。化身が出たのだ。
そして、ボールも彼の手の中に。
信助に集まる皆の後ろで、3年生の先輩方が大変なことになっていたけれど、それはそれでともかくとして・・・。
信助は、力を伸ばすことができたのだ。
そして信助はたちあがって、宣言する。
「僕、キーパーとして雷門のゴールを守る!」
「信助・・・!」
信助のGKの葛藤は、良い方向で幕を閉じた。
私はそのあと、彩さんのところへ行く。
「信助―――弟さんは、毎日がんばってるんです」
すると彩さんは、にこっと笑う。その笑顔は、やっぱり信助と似ている。
「よかった。弟は、雷門で良い仲間を見つけたんだね・・・」
「はい」
私たちは顔を見合わせて、そして笑った。
そのあと、私は思い出したように南沢さんに声をかける。
「南沢さん」
「ん?楓か。どうした?」
前よりも態度は軟化していて、とても話しかけやすかった。
「あの・・・会長さん、南沢さんが転校してからというもの、生きた抜け殻みたいで・・・」
すると南沢さんは、気まずそうに視線をさらしながら、つぶやく。
「麗子にも、会いに行くか」
その言葉に、私の表情も自然にほころぶ。
―――にしても南沢さん、彩さんに会長まで・・・貴方は本当に罪な男ですよ。
部活の帰り道、旧部室の前にお兄さんと春奈さんと、立向居さんがいた。
「みなさん、お疲れ様です」
「・・・?」
立向居さんは、私が誰だかわかっていないようだ。
まぁ、しょうがないかもしれない。私はテレビで立向居さんを見るけれど、実際に会ったのは4、5歳きりだから。
「お久しぶりです」
私は笑うと、立向居さんは、思いだしたようだった。
「もしかして・・・楓ちゃん?」
「覚えてくださったんですね」
「嘘!あんなに小さかったのに・・・?」
春奈さんが、苦笑している。
「この子、すごい子なの。きっとサッカーの腕前だったら、中学生時代の円堂さん、抜いてるかもしれないわ」
「そんなに!?すごいね、楓ちゃん・・・」
私まで、苦笑してしまう。
「ありがとう、立向居くん」
「君から急に連絡もらった時には、面喰ったけどね。でも、来てよかったよ」
そういうと、立向居さんは看板をなでた。この看板、いつの間にかなおってる・・・。
「初心を思い出したっていうのかな・・・。円堂さんを超えたくて、必死に練習していた自分を思い出した」
なつかしむ3人は、とても優しい瞳をしていた。
「私も見てみたかったです・・・。10年前のFFI。きっと・・・いえ、絶対に素敵な大会だったんでしょうね。あと、ヒロにぃたちと戦っていた時も」
そのことは、ヒロにぃたちの前では禁句だけど、別にここならいいだろう。
春奈さんは胸を張って、えぇと言った。
―――とうとう準決勝の日がやってきた。
相手は新雲学園。―――太陽の在籍するチームだ。天馬は、太陽の病気のこと、知っているのだろうか。知っていたら、どんな試合をするのだろうか。
気になるところだけど、今はとりあえずホーリーライナーの到着を待つ。
「新雲学園は、個人技にもすぐれたパーフェクトなチームだ」
「そして、10年に一度の天才がいるみたいよ」
雷門は、知っている情報を提供しあう。天才―――太陽は、まだ来ていないようだった。しかし、もうすぐ・・・。
ホーリーライナーに乗って、私たちが向かったのは、砂のフィールドの“デザートスタジアム”。
フィールドの感触などを確かめて、試合に備えていると、新雲学園が入場。
そのメンバーを見て、天馬の目が大きく見開かれる。私は、視線をそらしてしまう。
そして雷門のみんなも知ることとなる。
―――彼が、10年に1人の天才だと・・・。
革命をかけた準決勝が、始まろうとしていた。