あの試合から、1週間がたった。
あの試合のことは、学校中で噂になった。楓と2人で、音無とかいう先生に怒られた。その時に、楓とその先生が知り合いだ、ということも察した。
1週間経つと、大分その波も収まってきた。・・・まぁ、俺が学校で浮いている存在であることには、変わりない。
一方の楓はというと、クラスにも学校にもなじみ、あの憎たらしい松風たちとも、すっかり仲良くなっているようだった。
今日も、C組の前を通ると、C組のサッカー部が集まって話している。
「楓ぇー、今日部活行く?」
「えぇ、行くわ。・・・3人とも、行くの?」
「あったりまえじゃん!!」
楓は、いつも取り巻きに囲まれていて、楽しそうだ。―――しかし、俺にはわかる。あの笑顔は、作り物の笑顔だ。心からの笑顔じゃない、何かに縛られているような、作った笑顔だ。おそらく楓を縛っているは、罪悪感だろう。
「・・・フン、くだらん」
俺はそう呟き、C組の前から離れる。離れ際、一瞬楓と目があった。楓は、気まずそうに視線をそらした。そのことを察した松風が、楓を心配している。楓は、何でもないと笑ってい見せていた。
―――なんでかは分からない。でも、その笑顔に俺はムカついた。
弁当の時間になった。俺は、1人で屋上へ行く。屋上には、ほとんど人がいない。否、全くいないに等しい。
しかし、今日は違った。屋上の端っこで、メロンパンを食べている黄髪の少女―――楓がいた。
「・・・楓」
「・・・剣城・・・」
お互いの名前を呼び合い、俺たちは黙って俯いた。先に口を開いたのは、意外にも俺だった。
「あの時は、言い過ぎた・・・すまない・・・」
あぁ、俺はいったい、何を言っているんだ・・・。急に、謝り始めて、楓も混乱しているようだった。
「つ、剣城・・・?」
「ッ!・・・悪ぃ、忘れろ」
俺はそういうと、屋上を去ろうと踵を返す。しかし、楓にズボンの裾をつかまれて、動けなくなった。
「剣城、屋上以外に行くところないでしょ?私は・・・行くあてがあるけれど・・・貴方にはないでしょ?」
なんで、こいつはこんなに鋭いんだ・・・。だが、言っていることはあっているから、俺は仕方がなく屋上にいることにした。
楓は、腰を上げて屋上から去ろうとしたが、なんでかわからないが、俺が今度はひきとめた。
「・・・別に、此処にいていい」
そして、結局2人で並んで、昼食を食べることになった。
しかし・・・無言のままだ。
「・・・」
「・・・」
キーンコーンカーンコーン・・・
そのまま、休憩が終わった。俺たちは、気まずいまま、屋上から降りた。
午後の授業は、暇だった。
国語と社会だった。
数日前に、古文の文章を読んだ。書き下し文じゃない、訓読文に近いものだ。今時、そんなものが売っているのだから、驚いた。
しかも、その内容がそのまま、授業で習うことになった。だから暇だ。
社会は社会で、今日の授業は小学校の頃の復習のようなものだった。―――やっぱり、暇だ。
放課後、俺は部活に行く気はさらさらない。
「・・・兄さんのところに、行くか」
俺は、携帯をいじりながら、校門から出た。道行く人が、俺のことを二度見したりする。正直言うと、少し恥ずかしかった。
行く途中、キャプテンの神童とか言う奴と会った。神童は、俺を見つけるなり、若干涙目になりながら、俺のことを睨みつけた。
しかし、俺はそのままスルー。すると神童は、もっと泣きそうな顔になる。なぜかわからないが、俺の良心が痛む―――ような気がした。
「兄さん、来たよ」
「あぁ、京介。今さっき、瑠奈からメールがあったよ」
「そうか、瑠奈から」
病院の兄さんの病室にいるときは、本来の俺でいられる。すごくリラックスできるし、なんだか気持がいい。
ちょっと前までは、瑠奈も一緒だったな・・・なんて考える。
「そういや、この前楓ちゃんが来てくれたけど・・・中学校も一緒だったんだね」
“楓”という単語に、俺は肩をビクッと震わせる。俺は、いつから“楓”という言葉に、そんなに反応するようになったのだろうか。
それほど俺の中で、あいつの存在は、ライバルだからかなんでなのかは分からないが―――大きい存在らしい。
「あぁ。楓は・・・サッカー部の練習だ」
「そうか・・・。京介、おまえはいいのか?」
「・・・あぁ、今日はいいんだ」
ウソだ。俺は、練習になんかでない。否、出れないというべきだろうか。でも、そのことは兄さんに入っていない。・・・というか、絶対に言うことはできない。
「京介・・・?」
「ッ!す、すまない・・・今日は疲れていて・・・もう、帰ってもいいか?」
「いいよ、ちゃんと休むんだよ?」
兄さんは笑顔でそう言ってくれた。その笑顔が、俺にとっては辛いものだった。