―――試合後、拓人さんが倒れて、1時間がたった。
手術室に運ばれて、いまだにドアが開く気配はなく、もう少しで神童総帥たちも来るらしい。お兄さんの話によれば、うららさんのこえは、かなり震えていたという。
実際、ご両親のことを知る私にとっては、そんな息子さんが倒れた現場を見ているわけで。何もできなかったことに、少なからず罪悪感を抱く。
拓也くんも、不安で仕方がないのだと思う。
もちろん、雷門中学校サッカー部も、心配で仕方がなかった。
総帥たちに会うため、私は皆のもとを離れて、病院の入口にいた。
電話をかけ終えた春奈さんも一緒だ。
「私が気付けなかったから・・・っ」
「楓ちゃん・・・それは違うわ。楓ちゃんのせいじゃないわ」
「春奈さん・・・」
私の体は、無意識のうちに震える。冷や汗が背中を伝って、寒い。冷たい。
やがて、大きな黒塗りのリムジンがやってきた。
そこから降りてきたのは、案の定神童拓海総帥と神童うららさんと神童拓也君だった。皆、目を見開いて、恐怖に怯えたような顔をしている。
「楓さんっ!先生!」
「こんにちわ、こっちです」
私がうららさんと拓也君を導いて、手術室の前へと連れてくる。
「兄ちゃん・・・」
か細い拓也君の手を、優しく包み込むように握る。お兄さんの身代わりにはなれないけど、少しでも安心できたら、と思う。
ドアは依然としてあいていなかった。
やがてあいたドア。
2人と総帥が拓人さんについていき、皆は周りに群がったり、先生のところへ集まる。
「冬花さん・・・」
「楓ちゃん・・・皆・・・手術は成功よ。もう心配ないわ」
看護師の冬花さんが、ニコッっとわらって、拓人さんの後をついていく。
「なんだって!?」
その瞬間、先輩の声が聞こえた。何事かと思い、皆で先生のところへ行く。
「全治1カ月?」
その言葉で、皆は理解してしまった。―――キャプテンは、決勝戦には出られない。
「なんでだよ・・・なんで神童が・・・っ!」
「一番頑張ってたのに・・・っ!」
皆がうつむく中、天馬が先生に懸命に頭を下げる。でも、怪我が治るわけでもなく。
「天馬、先生も困っている」
「でも、楓・・・!悔しくないのっ!?」
「私だって!・・・私だって、悔しいよッ。でも、それが運命だから・・・ッ」
その場の雰囲気が、一気に落ち込んだのがわかった。
「なんでだよ・・・決勝戦に出られないなんて・・・ここまでこれたのも、神童がいたからこそじゃないか!なのになんでその神童がッ!」
三国先輩のその言葉に、耐えられなくなって、悔しそうな顔をしている京介の胸に顔をうずめる。
「楓・・・」
「京介・・・ッ!」
―――神様は、なんでこんなに意地悪なの・・・?
翌日、普段通りに練習―――ができるはずもなく。
皆、本調子が出なかった。シュートやドリブルやパス、必殺技も出せなかった。
「お前たち!なんだそのプレイは!?それがお前たちのサッカーか!?」
お兄さんのその言葉は、私たちの胸に突き刺さる。でも、しょうがない。大黒柱が、いなくなった感じなのだから・・・。
「そんなサッカーで、決勝に臨む気か!?」
決勝戦は、おそらく聖堂山中だと思う。千羽山も、確かに強いけれど、黒裂さんたちには太刀打ちできないだろう。
だったら、私たちが拓人さん―――キャプテンの分も、がんばらないと・・・!
部室へ行く途中、春奈さんに手招きをされて、私は呼ばれたところへ行く。すると・・・
「ッ!」
―――自然と、笑顔になってしまう。皆も、きっと笑顔になれるだろう。
一緒に部室へ行く。
ドアが開いた瞬間、皆の顔が輝く。あたりまえだ。ずっとずっとずっと、待ち望んでいた人が帰ってきたのだから。
「円堂監督!!」
二カッと笑ったその顔は、やっぱり太陽みたいで、皆の心を明るく優しく照らし出した。
円堂さんは、ゴットエデンでのことから再び監督になって、お兄さんがコーチになることなど、話した後に、キャプテンの話もした。
「神童のことは聞いた。残念だ。しかし、ここで立ち止まっているわけにはいかない。だから、新キャプテンを任命したいと思う」
「良い考えですね」
この話は、さっきお兄さんに聞いた。
「新キャプテンは、松風天馬、お前だ!」
天馬を指差して、円堂さんは告げる。天馬は、目を大きく見開き、信じられないというばかりの表情だ。
さっき聞いた話によれば、キャプテンは私か天馬だったらしい。
でも、私はキャプテンの器じゃない。今まで、いくつものチームで、何回もキャプテンをやってきたのは事実だ。でも、“雷門”のキャプテンにはふさわしくない。フィフスセクターにいた、というのもある。でも、それ以上に、雷門のキャプテンは、天馬だと思う。天馬なら、革命の続きをやり遂げられる。だって、革命を始められたのは、天馬のおかげだから。
だから、私は気持ちよくキャプテンを断った。
一方の天馬は、絶句状態。
「神童が、お前にやってほしいと言っていた」
「キャプテンが・・・?」
その言葉に、皆が次々に賛成の声を上げる。誰も反対せず、誰もが賛成するなか、天馬はまだ戸惑ってるみたい。
そんな天馬に、水鳥さんが喝を入れる。信助や葵も励ます。そして、天馬の顔が真剣なものになる。
「・・・わかりました。俺、キャプテンやります!」
その声に、円堂さんたちが笑い、そして今日の練習が始まる。
聖堂山の監督は、イシドシュウジ―――豪炎寺さんだ。豪炎寺さんは、やっぱりさすがといった感じだ。だから、聖堂山も強い。
弱点はなく、選手1人1人がエースストライカーといった感じだ。それに、それはあくまで“黒裂さんたちの聖堂山”であって、彼ら―――フィフスセクターの新の頂点、千宮路大悟の息子、千宮路大和のチーム“ドラゴンリンク”ではない。
ドラゴンリンクの恐ろしさは、私もよく知っている。白竜やシュウに比べれば、劣る部分もある。しかし、全員が化身使い、という強みがある。
雷門は、天馬中心の連携を整えないといけない。となると、やっぱり・・・。
「来たな」
セカンドチームがやってきて、青山先輩、一乃先輩を加え、天馬のチームと試合することになった。
・・・でも、やっぱり新チーム。連携はうまくいかない。一方のセカンドチームは、一乃先輩がキャプテン。さすが、といった感じだ。ずっと一緒にやってきて、キャプテンにも慣れているのだから、うまくいくのだろう。
確かにテクニックなら、ファーストチームの方が、確実に上だろう。
でも、連携がうまくいかない。第1の関門だ。
パスがうまくつながらない。
天馬は、ちょっとしたミスまで犯し始める。動揺が、目に見える。
「天馬!ちゃんとしなさい!」
「ご、ごめん!」
―――こんなことを言っても、しょうがないだろうと思うけれど。
放課後、夕香さんに呼ばれた。
「あれを、剣城君に教えたいって、お兄ちゃんが言っているの」
「なるほど。きっと京介なら、天馬を指名すると思いますよ?」
一緒に病院までいって、豪炎寺さんの赤い車の中で、私はスマホをいじる。
「神童はどうだ?」
「・・・決勝は、あきらめなきゃいけないみたいです」
「そうか・・・」
豪炎寺さんと話していると、京介がやってきた。私を見ると、少し驚いた顔をしつつも、今までのことから、少しは予想がついていたみたい。
翌日、京介は豪炎寺さんの特訓。私は、練習に出る。
今日もまた、セカンドチームとの練習試合。私は天馬に提案する。
「私が、拓人さんの代わりにゲームメイクをするわ。少し、任せてもらえる?」
「楓・・・あぁ、頼んだよ!」
そして、今日の練習が始まった。