同点に追いついたことで、雰囲気は良くなっている。
「天馬!こっちがおしている!勢いに乗って行こうぜー!」
「はいっ!」
霧野先輩の言うとおり。“今”はおしている。雰囲気が良くなるのはいいこと。でも、奴ら――ドラゴンリンクが来たら・・・。
「楓、どうしたんだ?」
京介に尋ねられて、舌を向いていた頭を上げる。
「ううん、なんでもない」
無理やり笑みを作って、再びポジションに着く。
聖堂山からのキックオフ。
すぐにゴール前。天馬が立ちふさがるも、すぐに抜かれる。天馬が倒れこむ。雷門DFを軽々かわし、黒裂さんにわたる。
そして黒裂さんの化身・炎魔ガザードが現れる。そして爆熱ストーム。狩屋が吹き飛ばされ、残りは三国先輩。しかし、フェンス・オブ・ガイア敗れる。1-2で、再び突き放される。
―――豪炎寺さん、貴方のそのサッカーへの思いが、痛いほど伝わってきます。自由にサッカーしたいという思いが、自由にサッカーさせてやりたいという思いが、伝わってきます。
雷門も、点を取られても士気はおちていない。皆から、サッカーの熱意が伝わる。
ボールを奪われ、奪い、奪われ、奪いの攻防戦。参加していなくても、絶対に見ていて楽しい試合だ。―――千宮路の、最も嫌う“自由なサッカー”だ。
こんな試合、見せつけられて、黙っているはずがない。私の予想だと、おそらく後半戦、ドラゴンリンクを出してくるだろう。ヒロにぃたちだって見つけただろうが、今からレジスタンス本部からここまでは、かなりかかる。間に合う確率は、ほぼ皆無。
雷門の、本当の“実力”が問われる。
―――そんなことはいず知らず、皆は楽しそうなサッカー。これから迫りくる悪夢を、知らないがゆえに。いや、今はそれでいい。私も忘れよう。
気づけば、錦先輩の化身シュートが決まり、同点に追いついていた。
・・・ここで、前半が終了した。
休憩時間中、マネージャーが天馬を励ます。・・・隣にいる京介の顔が、若干怖いです。
「神童キャプテンの代わりになれてるかな・・・」
不安げな天馬に、三国先輩が励ましの言葉をかける。
天馬は不安だらけのようだけど、ちゃんとやれてるいいキャプテンだ。京介の手を引いて、私たちも天馬のところへ行く。
「天馬」
「あ、楓。作戦、よかったよ!」
「ありがとう。皆のおかげよ。私だって、拓人さんの代わりができているかどうか不安。だけど、やるしかないじゃない?だから、がんばる。だから、天馬も頑張ってよね、キャプテン!」
「特訓の成果を出すんだ」
天馬の表情は、少し柔らかいものになった。
他のみんなも、天馬を励ましたり、ちょっと冗談を言ったり、休憩時間の雰囲気もいい。
円堂さんが、天馬に言う。
「天馬。キャプテンの力が必要なのは、ピンチの時だ。その時、お前が皆を支えられるかが大切なんだ」
「はい、がんばります!」
後半戦も頑張ろう、そんな気合が、雷門に満ち溢れるのがわかった。
そんな中・・・刻々と奴らの出番が近づいていた。そう、奴らの・・・。
後半戦が始まろうとしていた時だった。
アマノミカドスタジアムが揺れた。皆が動揺するなか、私は不安が現実になることに気づいた。
―――ドラゴンリンクだ。この存在は、豪炎寺さんさえも知らない。なぜ私が知っているのかというと、私自身が、ドラゴンリンクだったことがあるからだ。白竜たちと出会う前、私はドラゴンリンクのエースストライカーだった。大和のことは、もちろん知っている。全員が化身使いだということも、もちろん知っている。
しかし、それはあくまで“私の知っている”ドラゴンリンク。エンシャントダークのキャプテンを下りて、雷門にやってきたわけであって、つまり半年ほど前の奴らしか知らない。
アマノミカドスタジアムは、その名の通り天に向かってのびる。高く、高く。
―――私たちは、後半戦に備えて聖堂山を待っていた。やがて足音がして、彼らはやってきた。―――キャプテン・千宮路大和のチームが。
「少年サッカー法第5条、フィフスセクターはいかなる時も、ルール変更が可能である・・・これに基づいているのよ」
隣でうろたえる天馬に、耳打ちする。同じように、さらに隣にいた京介に聞かれる。
「知り合いか?」
「・・・えぇ。シュウより前のチームメイト」
京介の瞳が、見開かれるのがわかった。
「お前たちは?黒裂さんたちは?」
天馬が尋ねる。それに対して、大和が答える。
「知らんな。俺たちはドラゴンリンクだ。久々だな、楓」
事情を知らない京介以外が、一斉に私を見る。
「久々ね、大和」
「雷門なんかに入ったのか。次元が低い」
「白竜に言われ慣れたわ。そんなことはどうでもいい。私たちは、負けるわけにはいかないの。イシド様のためにもね」
にらみ合う私たち。やがて、どちらからでもなく視線を外し、再び前を向く。
雷門の動揺は、半端じゃない。天馬は、千宮路のことを知っているようだった。
―――そんな気持ちのまま、後半戦が始まった。
開始早々、ドラゴンリンクは雷門にボールを渡してくる。罠に決まっている。それでも、行かないわけにはいかない。
雷門が上がっていくのに、ドラゴンリンクは冷静にポジションに着いたまま。
浜野先輩から錦先輩にボールが渡った時、ドラゴンリンクが動いた。一気に、4人が化身を出してきたのだった。
FW4人の化身くらいで、おどおどしていてはこれからの戦い、持たない気がする。
さっそくのシュート。三国先輩は持ちこたえてくれた。しかし、2回目は倒れこんでしまう。3回目のシュートが、雷門ゴール目がけて飛んでくる。しかし、天城先輩のアトランティスウォールが立ちふさがる。だが、突破されてしまう。三国先輩は止めた。―――しかし、体をゴールポストにぶつけてしまった。
担架で運ばれていく先輩。先輩の代わりに、信助がGKに入る。
「FW4人、全員が化身使いか・・・」
「まっこと恐ろしいぜよ・・・」
錦先輩と京介が話している。私は、2人の近くへ行く。
「いいえ、まだ恐ろしいわ。だって彼らは―――」
そこまで言いかけて、天馬の声が聞こえた。
「手はあります」
私たちも、そっちに耳を傾ける。
「オフェンスをあげて、相手のフィールド奥深くで戦うんです」
「天馬、それじゃ・・・」
「大丈夫、楓。何とかなるさ」
天馬は心なしか元気のない笑みで、私に言う。違うの、天馬。このチームは全員が化身使いなの・・・!
他のメンバーも、反対意見が多い。カウンター攻撃なんかされたら、終わりだ。しかし、3年生の先輩が説得する。その言葉に、皆が次々と賛成になっていく。それでも、私は賛成できない。
「楓は・・・?」
「わ、私は・・・賛成。がんばろう?」
「あぁ!」
―――そうだ、皆の分も、私が何とかすればいい話だ。特徴はつかめているんだから。
雷門がボールを奪ったと同時に、次々と上がっていく。私は、最前線を行く。化身を出されたら、私が何とかすればいい。
ボールを奪われたら、また取り返し、どんどん上がっていく。やがてボールは、私にわたる。
「・・・今回は、うまくいったようね」
いつの間にかゴール前まで上がっていて、ちょっと安心。ボールを天馬にパスして、天馬に決めてもらう。―――尤も、大和は止めるだろうけれど。
予想通り、賢王キングバーンのキングファイアで、ボールは止められる。
「お前は何もわかっていない。楓に聞いていないんだな」
大和がそう言った瞬間だった。皆が一斉に、化身を出す。
「我らドラゴンリンクは、11人全員が化身使いだ!」
―――とうとう、現実を目の当たりにしてしまった。ドラゴンリンクは、化身のシュートをパスに使うようなチームだ。
やがて、シュートが雷門ゴールに突き刺さる。
フィールドでは、天馬をかばった倉間先輩が倒れこんでいた。近くでは、足を痛めたらしい浜野先輩が座り込んでいた。円堂さんの方を向いて、私は手を挙げる。
こっちへ来い、と合図されたため、私はその場へ向かう。
「楓、FWに移動だ。3トップでいく。もう1りのFWは、輝だ。そして、楓の抜けたMFに速水だ」
「・・・了解です」
私はそういうと、皆のところへ向かって指示を知らせ、そして新たなフォーメーションとなって、キックオフを迎えた。