運ばれていく倉間先輩を、天馬は心配そうな顔で見る。倉間先輩はふっと笑って、天馬に言う。
「キャプテンが倒れたら、チームはガタガタになる」
「先輩・・・」
私たちは、負傷した三国先輩や倉間先輩、浜野先輩の分も頑張らなくてはいけないのだ。
現時点でのポジションは、FWは私、京介、輝君。MFは天馬、錦先輩、速水先輩。DFは変わらず霧野先輩、狩屋、天城先輩、車田先輩。GKは信助だ。
「また突き放されたな・・・」
「まさか、全員が化身使いだったとは・・・」
「・・・ごめんなさい、私が言えばよかったの」
「違うよ、俺たちがきかなかったのが悪かった!」
雷門のテンションは、下がってくる。下がると同時に、不安も押し寄せてくる。
「天馬の考えは?」
うつむく天馬に聞く。天馬は、前を焦点が定まらない瞳で見つめながら言う。
「相手が化身なら、こっちも化身だ」
「そんな、無茶よ。体力が持たないじゃない!?それに、向こうは11人全員が化身使いよ」
「でも、ボールは1つしかない。ボールを持っている化身に、こっちも化身をぶつければ、何とかなるはずだよ」
天馬の動揺は、私にも伝わってくる。キャプテンとして、どうあるべきか悩んでいる。
「化身に化身をぶつけるなんて・・・」
その動揺の波は、皆にも伝わって行ってしまう。化身を持っていないものは、どうすればいいのだろうか。必殺技で耐えられるところは、限度がある。
天馬が私の手を引いて、京介たち化身使いのところへ行く。
「錦先輩、剣城、楓、信助、いい?」
3人は悩む。私は、最善の策だとは思えない。それでも、3人が同意してしまった。なら、私もキャプテンに従う。
キックオフ後すぐに、化身発動のFW。輝君はぶつかって、飛ばされてしまう。
「京介!」
「あぁ!」
ボールを持つ奴の前に、京介が立ちふさがる。この化身対戦は、京介の勝利。しかし、体力の消耗はかなりだと思う。出すだけでも、かなり疲れるのに・・・。
次の化身対戦は、錦先輩も相手も互角。ボールは飛んで行った。
―――本当に、これでいいの?このままじゃ、化身使いはもちろん、他のみんなだってダメージを受ける可能性もある。
「天馬、本当にいいの?」
「やってみなきゃ分からないだろ?」
その前向きの姿勢、嫌いじゃない。でも、前向きすぎるのが、天馬の短所だ。
―――天馬のその心、拓人さんにしか変えられそうにない。私じゃ、力不足のようだ。でも、出来る限りの呼びかけはする。
「天馬、やっぱり駄目よ!」
「楓、迷わないで!大丈夫だから!勝つんだろ?」
「天馬ぁ・・・」
聞く耳を持ってくれない。とりあえず、自分の前に来たボールをブロックしないと・・・!
ゴール前でも、大和は簡単にシュートを決める。疲労感の違いだろうか。こうなったら、私がDFに回るしかない。天馬の作戦は、もう止められない。
両者ともに、化身使いは化身を出し続ける。しかし、人数の少ない雷門の方が圧倒的に不利。
「もう1度聞く、天馬。本当に、これでいいの?」
天馬の近くへ行き、瞳を見て問いかける。
「え・・・?」
「私は、体力はかなりあるし、皆が女子だからって助けてくれていたから、あまり消耗は激しくないわ。でも、京介や錦先輩、信助を見て。体力消耗は激しいわ。ほかのみんなだって、そのうち・・・」
「うん・・・でも、今は化身でブロックする時だ。まだ俺や楓は大丈夫じゃないか!そのうちに相手は疲れる。そこをつけば・・・」
「天馬・・・」
天馬の考えは、やっぱり間違っている。
しかし、次のスローインから3人の様子は変だった。
疲れきってしまったのだろう。化身が出なくなった。何度も挑戦するも、結果は同じだ。―――ここからは、私1人でこの作戦の“責任”を果たす。
「京介、のいて!出てきてっ!大天使ミカファール!」
化身を出して、何とかブロックする。しかし、ボールは別の相手に。
「渡さない!」
再び化身のぶつけ合い、今度は勝利だ。しかし、ボールが奪われる。2度連続は、少しきつい。
そのボールは、雷門ゴール前。錦先輩も化身が出なくなった。DFが、身を呈してのディフェンスで、何とか守れている感じだ。
しかも、DFはもう立ち上がれない。このまま倒されるのを待つだけだ。
「天馬、言ったでしょ?このままじゃ、皆倒されてしまうって!」
天馬の近くまで走っていく。天馬は、ただ絶望に満ちた顔していた。
輝君がやってきて、動揺した瞳で天馬を見つめる。
「早く支指示を・・・キャプテン!」
その時だった。いつの間にか、大和がそこまでやってきていた。
「くだらん」
「くだらなくないわよ」
大和が化身を出してきた。
「止めて見せる!」
大和の前に立とうとする。しかし、天馬が後ろからやってくる。
「俺が・・・止めるんだ・・・!」
しかし、ペガサスは倒れてしまう。タイタニアスも、もう出ないようだった。
他のみんなも、動けない状況だ。おまけに点差は、後半この時間で2点。絶望的だった。
天馬はその場に立ち尽くした。。私はただ、それを見ておくことしかできない。何も声がかけてあげられない。
「俺、なんてことしちゃったんだ・・・。キャプテンは、いつも勝利へ導いてきた。キャプテンがいたから、勝ち進んでこれたんだ・・・!楓は、何度も忠告してくれたのに、それも無視して・・・。結局俺は、皆をボロボロにしただけだった。バカだ・・・俺、化身に化身をぶつけるなんて・・・消耗が激しいって、楓が言っていたのにやっぱり無視して・・・気付けなくて・・・何が何とかなるだよ・・・!皆が頑張ってくれてた・・・皆が何とかしてくれていただけじゃないか・・・!」
天馬の足もとに、雫―――涙が滴り落ちた。
「皆のがんばりに支えられていただけだった。キャプテンの俺が・・・!何とかなっているなんて、大間違いだったんだ・・・!」
天馬は、さらにその場に膝まづく。私は、やっぱり何もしてあげられない。
「・・・何がキャプテンだよ・・・俺がチームをめちゃくちゃにしたんだ・・・!俺、キャプテン失格だ!俺がキャプテンじゃ、どうやったって勝てない・・・!」
大粒の涙を流す天馬。私は、ただ動揺することしかできない。変な同情はできない。どうしようか、悩んでいる時だった。
「天馬ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
聞き覚えのある、懐かしい声が聞こえた。
「天馬・・・呼んでるわ・・・」
「え・・・?」
涙を浮かべたまま、私の方を向く。私は、声の聞こえる方を指差した。そこにいたのは・・・
「松風天馬ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「神童・・・キャプテン・・・」
―――拓人さんだった。
近くに冬花さんがいるから、きっと病院からやってきたのだろう。
TVで試合を見て、拓人さんなら気付いたはずだ。天馬の戦法が、間違っていること。それを正せるのは―――天馬を励ませるのは、同じ立場に立った自分しかいない、ということを・・・。
俺―――天馬は、フィールドで泣くことしかできなかった。
皆の・・・楓の忠告を無視して、ただ皆をボロボロにしてしまった。キャプテン失格だ・・・!
そんなとき、声が聞こえたんだ。―――聞きちがえるはずのない、神童キャプテンの声が。
最初は、幻聴かと思った。でも、楓に言われて、声のする方を向くと、キャプテンがいた。
俺は、キャプテンの顔が見れなかった。せっかくここまで来たのに、俺のせいで・・・!
「俺、キャプテン失格です・・・。皆を引っ張ること、できませんでした」
『天馬』
キャプテンの声が響いた。
『お前ならできる。俺にはわかる。お前の武器は、そこにある!』
そう言ってキャプテンがさした俺の胸から、まばゆいばかりの光があふれた。
「俺の中に・・・サッカーが好きだという、気持ち・・・?」
そういうと、キャプテンはただ微笑んだ。
「気持ち・・・」
「天馬」
横にいた楓が、手を差し伸べる。
「失敗なんて、誰にだってあるじゃない?初めての試合で、ここまでできたんだからすごいよ。ねぇ、キャプテン、私勝ちたいの・・・!」
「楓・・・でも、俺・・・」
「間違いは、正せばいいだけじゃない。ちゃんと謝って、自分の間違いを認めればいいだけじゃない。間違いを正すのなんて、幼稚園児にだって出来る簡単なこと。・・・それを認めることが、難しいだけ。でも、天馬は認めたでしょ?だったら、もう怖いことなんてない」
俺は、その言葉にはっとする。涙をぬぐって、差しのべられた楓の手を握る。
楓は、優しく微笑んで言った。
「さ、ベンチに行って、間違い正そうよ?」
「・・・あぁ!」
ベンチに行くと、皆がボロボロになっていた。
マネージャーやまだ元気だった楓が、必死に手当をする。楓には、本当に迷惑かけっぱなしだと思う。そして、体力の多さに驚くばかりだ。
そんな俺に、円堂監督が問いかけてきた。