第7章 初めての小さな喧嘩
付き合い始めて半年。
世の中のどれだけ仲の良い恋人でも、意見がぶつかることは必ずある。
そして二人にもその日が来た。
土曜日。
ショッピングモール。
来月の旅行に向けて買い物中。
あなた
「これ良くない?」
あなたは一目見て気に入った〇〇をフラッシュに見せたが、
エイシンフラッシュ
「少々高価な気がします」
フラッシュに即却下されたが、引き下がらずに良さをアピールする。
あなた
「でも長く使えるし」
エイシンフラッシュ
「費用対効果を考えると別の商品が――」
あなた
「はぁ〜、また効率か」
あなたはフラッシュの言葉を遮って、思わずため息をついてしまう。
エイシンフラッシュ
「効率は重要です」
あなた
「でもさ、全部それじゃつまらなくない?」
あなたは自分の感性を理解してもらえず、少し強い言葉を返してしまう。
フラッシュは驚いた顔で黙ってしまう。
あなたは今の言い方が良くなかったことに気づいたが、今更引っ込みがつかない。
しばらくしてから
エイシンフラッシュ
「……そうでしょうか」
あなた
「そ、そうだろ」
エイシンフラッシュ
「私はそう思いません」
あなた
「で、でもさ」
エイシンフラッシュ
「私にはあなたが合理性を否定する理由が分かりません」
あなた
「いや、否定してるわけじゃなくて」
エイシンフラッシュ
「では何ですか」
今度はフラッシュがあなたを強く問いただす。
あなた
「たまには感覚で選んでもいいだろ」
エイシンフラッシュ
「それでは失敗する可能性があります」
あなた
「別に失敗したっていいじゃん」
フラッシュは信じられないと言った顔をする。
さっきよりも長い沈黙により、2人の間に気まずい空気が流れる。
あなた
「……」
エイシンフラッシュ
「……」
こんな空気になったのは初めてだった。
その後も買い物は続けたが、会話は明らかに少ない。
あなた
「……」
エイシンフラッシュ
「……」
気まずい空気は夕方に駅前で別れるまで続き、
あなた
「じゃあ」
エイシンフラッシュ
「はい」
あなた
「気をつけて帰ってね」
エイシンフラッシュ
「……はい」
普段よりも別れ際の会話が短い。
帰宅後。
あなた
「……やっちまったぁ〜」
ソファに倒れて猛省する。
あなた
「あの言い方は、完全にまずかった。フラッシュにも考えがあったはずなのに、遮って自分の気持ちを押しつけようとするなんて」
本当は彼女を否定したかったわけではない。
ただ少し意地になってしまっただけ。
あなた
「フラッシュに二度と口聞いてもらえなくなったらどうしよう」
一方その頃。
エイシンフラッシュも自室で机の上にノートを広げて、日課の復習をしようとするが、全く集中できていない。
エイシンフラッシュ
「……」
何度もペンが止まってしまう。
思い出すのは、あなたの表情、あなたの声、そして自分の言葉。
エイシンフラッシュ
「……」
小さく息を吐く。
エイシンフラッシュ
「私も意固地でしたね」
珍しく感情的になってしまった自分に驚きつつ、スマホを手に取りメッセージアプリを開く。
十分後。
あなたのスマホが鳴り、すぐに手に取り画面を見るとメッセージが1通届いている。
送り主はエイシンフラッシュ
内容は『今少しお話できますか』
あなた
「!」
すぐに電話をかけたら、ワンコールで相手も出る。
数秒間、お互い黙ったまま。
そしてほぼ同時に
あなた / エイシンフラッシュ
「ごめん」 「申し訳ありません」
しばらくの沈黙後、二人とも笑う。
あなた
「被った」
エイシンフラッシュ
「被りましたね」
あなた
「お先にどうぞ」
エイシンフラッシュ
「いえ、あなたの方からどうぞ」
あなた
「わかった。じゃあ俺から」
深呼吸。
あなた
「さっきは言い方が悪かった」
あなた
「だけどフラッシュを否定したかったわけじゃない」
あなた
「それは本心だ」
静かな沈黙。
エイシンフラッシュ
「……ありがとうございます」
あなた
「うん」
エイシンフラッシュ
「私も謝罪します」
フラッシュも深呼吸
エイシンフラッシュ
「私は、自分の考えが正しいと決めつけて、それをあなたにも理解してもらえると思っていました」
あなた
「そんなこと...」
エイシンフラッシュ
「思っていました」
きっぱりと言い切る。
フラッシュはいつだって自分を甘やかさない。
エイシンフラッシュ
「あなたの考えを聞こうとしませんでした」
フラッシュも自分と同じことを考えていたことが分かり、ちょっぴり嬉しくなる。
あなた
「……」
エイシンフラッシュ
「申し訳ありません」
しばらく沈黙したが、今度は心地良い。
あなた
「なあ」
エイシンフラッシュ
「はい」
あなた
「俺たち初めて喧嘩したな」
エイシンフラッシュ
「しましたね」
あなた
「意外と早かった」
エイシンフラッシュ
「半年ですから」
あなた
「こらこら、統計取るな」
エイシンフラッシュ
「癖です」
最後に2人で笑い合う。
翌日に仲直りも兼ねて、あなたの家で二人で夕飯を作ることになった。
フラッシュのエプロン姿に見惚れてしまう。
エイシンフラッシュ
「どうかしましたか?」
あなた
「フラッシュのエプロン姿似合っているなと思って」
フラッシュは照れながら、
エイシンフラッシュ
「そういうあなたのエプロン姿もなかなか様になっていますよ」
あなた
「ありがとう。さて何作ろうか?」
エイシンフラッシュ
「カレーにしましょう」
あなた
「無難だと思うけど、理由は?」
エイシンフラッシュ
「失敗率が低いので」
あなた
「出た」
二人で笑う。
昨日までの空気が嘘みたいだった。
野菜を切っていると、あなたはよそ見をして包丁で指を切りそうになる。
あなた
「うわっと」
エイシンフラッシュ
「すぐに消毒しましょう」
フラッシュは、慌てて救急セットを取りに行こうとする
あなた
「大丈夫。指は切ってない」
エイシンフラッシュ
「ならよいのですが、あなたの包丁の持ち方を修正させていただきます」
あなた
「先生か」
エイシンフラッシュ
「効率向上です」
あなた
「さすがフラッシュ先生」
2人は思わず笑い合う。
煮込み中キッチンに並んで立っていると、
あなた
「ねぇ」
エイシンフラッシュ
「なんでしょう」
あなた
「正直昨日はフラッシュからメッセージが来るまですごく不安だった」
そう言って彼女の顔を見る。
あなた
「もしフラッシュが本気で怒ってたらどうしようって」
エイシンフラッシュ
「……」
フラッシュは少しだけ目を細めて、
エイシンフラッシュ
「実は私も同じ気持ちでした」
あなた
「え」
エイシンフラッシュ
「あなたに嫌われてしまったかと思いました」
あなた
「それは絶対ない」
あなたは即答する。
エイシンフラッシュ
「……そうですか」
あなたの言葉を聞き、フラッシュは安心した顔をする
煮込み終わり完成したカレーを分ける皿を探していると
あなた
「あっ、ご飯のタイマー押したっけ?」
エイシンフラッシュ
「あなたが野菜の皮を剥いている間に、米を研いでタイマーをセットしてあります。それとあなたのお皿はコレですよね?」
フラッシュが見せた皿は自分のお気に入りのものであり、理解していることに嬉しくなる。
その時、炊飯器から炊きあがりを知らせる音が鳴る。
フラッシュが皿によそったカレーをスプーンと一緒にテーブルに運ぶ。
フラッシュの皿は自分の色違いだが、一回り小さい。
二人で手を合わせてあいさつをする。
あなた・エイシンフラッシュ
「いただきます」
あなた
「う〜ん。うまい」
エイシンフラッシュ
「本当に美味しいですね。ただ、何度もレシピ通りに作ってきたはずなのに目の前のものが今までで一番に感じられるのはなぜでしょうか?」
あなた
「2人で作ったからじゃない?」
エイシンフラッシュ
「論理的ではないですが、不思議と納得してしまいます」
あなた
「なら仲直りの味だからということで」
エイシンフラッシュ
「そうですね」
2人は思わず笑い合う
あなた
「すごい、今気づいたんだけど、自分の皿によそってある具が全部同じ大きさなだけでなく、ルーと具とご飯のバランスが綺麗に整っている!」
エイシンフラッシュ
「私が調理して盛り付けるなら当然です。ドイツの三つ星レストランで食べたカレーを常に再現しています」
フラッシュは胸を張って誇らしそうに言う反面、あなたは呆れながら、
あなた
「驚いて言葉が出てこない。フラッシュってカレー好きだったっけ?学校であんまり食べているところ見たことないけど」
フラッシュは恥ずかしそうに、
エイシンフラッシュ
「実は、私の家では楽しいことがあった時は昔馴染みの高級レストランへ行くことがあるのですが、そこのカレーは食べると笑顔になれる特別な味なので、あなたにも食べて欲しかったのと、仲直りの記念になればと思い、今日作ることにしました」
フラッシュは少し考えてから、
エイシンフラッシュ
「ですが、喧嘩はしない方が良いです」
あなた
「まあな」
エイシンフラッシュ
「なにより心拍数が上がります」
あなた
「理由がフラッシュ」
エイシンフラッシュ
「ですが仲直りできるなら、悪くない経験かもしれません」
フラッシュの言葉が理解ができず、聞き返してしまう。
あなた
「どうして?」
フラッシュは照れながら
エイシンフラッシュ
「なぜならお互いのことを、もっと理解できますので」
あなた
「……フッ」
あなたは笑ってから、そっと彼女の手に触れる。
あなた
「次からはちゃんと話そうな」
エイシンフラッシュ
「はい」
彼女も優しく握り返す。
エイシンフラッシュ
「約束します」
こうして二人は初めての喧嘩を終えた。
以前より少しだけ互いを理解し、以前より少しだけ深く結ばれた2人なのであった。