フラッシュさんとの恋愛日記   作:ココアポタージュ

2 / 18
真面目な少女との出会い②

第2章 昼休みの定位置

 

翌日の昼休み。

 

あなたは何となく昨日と同じ中庭へ向かった。

 

特に理由はない。

 

ただ、昨日の少し変わったウマ娘のことを思い出しただけだった。

 

あなた

「いるかな」

 

自分でも不思議だった。

 

友人を探しているわけではない。約束したわけでもない。

 

それでも足は自然とあのベンチへ向かっていた。

 

そうしたら昨日と同じベンチに、昨日と全く同じ姿勢で、真剣な表情をした彼女がいた

 

あなた

「本当にいた」

 

エイシンフラッシュ

「?」

 

彼女が顔を上げる。

 

エイシンフラッシュ

「何か問題でもありましたか?」

 

あなた

「いや」

 

あなた

「昨日と全く同じだなって」

 

彼女は少し周囲を見渡した。

 

エイシンフラッシュ

「昨日と同じ時間ですので」

 

あなた

「そういう意味じゃない」

 

あなたは苦笑するが、彼女は理解できないらしい。

 

エイシンフラッシュ

「?」

 

あなた

「なんか安心した」

 

今度は彼女が固まった。

 

エイシンフラッシュ

「安心?」

 

あなた

「いつも通りって感じで」

 

また数秒、彼女が固まる

 

エイシンフラッシュ

「……そういうものですか」

 

あなた

「そういうもの」

 

彼女は納得していない顔だった。

 

あなた

「今日は何のデータ?」

 

エイシンフラッシュ

「先程返された模試の結果とそれ以前の結果との比較です」

 

あなた

「それって楽しい?」

 

エイシンフラッシュ

「楽しいです」

 

即答だった。

 

あなた

「本当に?」

 

エイシンフラッシュ

「?」

 

あなた

「もっと義務感でやってるのかと思った」

 

彼女は少しだけ考える。

 

エイシンフラッシュ

「確かに努力は必要です」

 

そう言って、資料を閉じる。

 

エイシンフラッシュ

「ですが」

 

あなた

「うん」

 

エイシンフラッシュ

「分からなかったことが分かるようになる瞬間は好きです」

 

あなた

「へぇ」

 

エイシンフラッシュ

「数字には嘘がありませんから」

 

あなた

「なるほど」

 

エイシンフラッシュ

「だから信頼できます」

 

その時、あなたは少しだけ思った。

 

(ああ、この人は本当に努力家なんだな。)

 

真面目というより、誠実なのかもしれない。

 

あなた

「じゃあ俺もデータ取るか」

 

エイシンフラッシュ

「何のですか?」

 

あなた

「エイシンフラッシュ観察記録」

 

数秒間、彼女が止まる。

 

エイシンフラッシュ

「……は?」

 

あなた

「昼休みになると現れる」

 

エイシンフラッシュ

「現れるとは?」

 

あなた

「資料を開く」

 

エイシンフラッシュ

「当然です」

 

あなた

「真面目」

 

エイシンフラッシュ

「昨日も言われました」

 

あなた

「特徴だからな」

 

彼女は小さく息を吐く。

 

エイシンフラッシュ

「観察対象にされる趣味はありません」

 

あなた

「残念」

 

エイシンフラッシュ

「残念なのですか」

 

あなた

「結構面白そうなのに」

 

エイシンフラッシュ

「意味が分かりません」

 

だが、少しだけ彼女の口元は緩んでいる。

 

その日からあなたは昼休みになると中庭へ来るようになった。

 

最初は偶然。二回目は興味。三回目からは習慣だった。

 

そして数日後、昇降口にて

 

あなた

「おはよう」

 

エイシンフラッシュ

「おはようございます」

 

あなた

「今日は雨だな」

 

エイシンフラッシュ

「降水確率八十七パーセントでしたので」

 

あなた

「知ってた」

 

エイシンフラッシュ

「はい」

 

あなた

「だから傘持ってたのか」

 

エイシンフラッシュ

「当然です」

 

あなた

「すごいなぁ」

 

エイシンフラッシュ

「?」

 

あなた

「君は人生失敗しなさそうだなって思って」

 

今度は彼女が少しだけ黙った。

 

エイシンフラッシュ

「そんなことはありません」

 

彼女は強く否定する

 

あなた

「そう?」

 

エイシンフラッシュ

「私だって失敗はします」

 

珍しく少し寂しそうな表情だった。

 

あなた

「例えば?」

 

エイシンフラッシュ

「予定通りにいかなかったことは何度もあります」

 

あなた

「そうなの?」

 

エイシンフラッシュ

「はい」

 

視線が遠くなる。

 

エイシンフラッシュ

「どれだけ準備しても想定通りにならないことはあります」

 

あなた

「そっか」

 

エイシンフラッシュ

「だからより念入りに準備します」

 

あなた

「なるほど」

 

エイシンフラッシュ

「失敗しないためではなく、失敗した時に後悔しないために」

 

そう言って彼女は少し微笑む。

 

あなた

「……」

 

その言葉は意外だった。

 

正直もっと完璧主義で、結果しか見ていない人だと勝手に思っていた。

 

でも実際は違った。彼女はいつだって努力を大事にしている。

 

あなた

「やっぱ真面目だな」

 

エイシンフラッシュ

「またですか。それは褒めているのですか?」

 

あなた

「もちろん褒めてる」

 

彼女は少し困った顔になる。

 

エイシンフラッシュ

「……そうですか」

 

彼女はほんの少しだけ嬉しそうだった。

 

その頃には中庭のベンチは誰が決めたわけでもなく二人の定位置になっていた。

 

昼休みにあなたが来る。そこには彼女がいる。そして少し話す。

 

たったそれだけなのに、その時間が。二人の日常になり始めていた。

 

そしてある日。その関係が少しだけ変わる出来事が起きる。

 

昼休み。あなたは珍しく現れなかった。

 

エイシンフラッシュは資料を開いていた。

 

しかしページをめくる手が止まっている。

 

時計を見ると、十二時二十七分。

 

いつもなら来ている時間だ。

 

十二時三十二分。あなたはまだ来ない。

 

十二時三十五分。彼女は無意識に周囲を見る。

 

そして、彼女は自分の行動にハッと気付く。

 

(私はいったい何をしているのだろう。)

 

あなたが来るかどうかなど本来は関係ないはずだ。

 

それなのに少しだけ落ち着かない気分になっている。

 

その感情の名前をまだ彼女は知らない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。