フラッシュさんとの恋愛日記   作:ココアポタージュ

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真面目な少女との出会い⑦

第7章 名前を呼ぶ理由

 

嫉妬という感情を自覚しかけた日から、彼女の様子が少しだけおかしくなったが、本人は気付いていない。

 

あなた

「おはよう」

 

エイシンフラッシュ

「お、おはようございます」

 

あなた

「?」

 

反応がいつもより一拍遅い。

 

昼休み。

 

あなた

「何の本読んでるの?」

 

エイシンフラッシュ

「え?」

 

あなた

「いや本」

 

エイシンフラッシュ

「……ああ」

 

あなた

「どうした。どこか具合でも悪いのか?」

 

エイシンフラッシュ

「何でもありません」

 

そんなはずはない。しかし本人には理由が分からない。

 

あなたを見ると、胸が少し騒ぎ、話しかけられると、落ち着かず、笑ってもらえるとなぜか嬉しい。

 

全部分析不能だった。

 

ある日の放課後の図書室。

 

エイシンフラッシュは参考資料を探していた。

 

高い棚に目当ての本があるが、手が少し届かない。

 

背伸びをしようとしたその時、ひょいと頭上から本が抜き取られた。

 

エイシンフラッシュ

「!」

 

驚いて振り向くと、そこにいたのは目当ての本を手にしたあなただった。

 

あなた

「取ろうとしていた本は、これで合ってる?」

 

エイシンフラッシュ

「……」

 

あなた

「あれ、違った?」

 

エイシンフラッシュ

「いえ、合っています」

 

あなた

「なら、よかった」

 

彼女はあなたから本を手渡される。

 

あなた

「届かなかったのか」

 

エイシンフラッシュ

「少しだけです」

 

あなた

「かわいいな」

 

エイシンフラッシュ

「?」

 

あなた

「背伸びしてた」

 

エイシンフラッシュ

「……」

 

数秒停止。

 

エイシンフラッシュ

「その評価基準は理解できません」

 

あなた

「もしかして照れてる?」

 

エイシンフラッシュ

「違います」

 

あなた

「耳赤いぞ」

 

エイシンフラッシュ

「照明の影響です」

 

あなた

「ここ、図書室だけど?」

 

エイシンフラッシュ

「……」

 

あなたは笑う。

 

彼女は目を逸らす。

 

最近このようなやり取りが増えた。

 

帰り道。夕焼け。並んで歩くふたり。

 

あなた

「そういえばさ」

 

エイシンフラッシュ

「はい?」

 

あなた

「フラッシュってさ」

 

エイシンフラッシュ

「?」

 

あなた

「みんなにはエイシンフラッシュって呼ばれてるよな」

 

エイシンフラッシュ

「そうですね」

 

あなた

「長い」

 

エイシンフラッシュ

「否定できませんが、親がつけてくれた名前に文句を言われても困ります」

 

あなた

「俺だけフラッシュって呼んでるな」

 

その瞬間、彼女の歩みが少しだけ止まった。

 

エイシンフラッシュ

「……そうですね」

 

あなた

「嫌だった?」

 

エイシンフラッシュ

「いいえ」

 

彼女は驚くほど迷いなく返事をした。

 

あなた

「ならよかった」

 

エイシンフラッシュ

「むしろ」

 

あなた

「ん?」

 

彼女は少しだけ考え、言うべきか迷ったが、

 

エイシンフラッシュ

「嫌ではありません」

 

あなた

「うん。それなら良かった」

 

エイシンフラッシュ

「特別な呼び方というのは」

 

あなた

「うん?」

 

エイシンフラッシュ

「少しだけ……嬉しいので」

 

あなた

「!」

 

今度はあなたが固まった。

 

あなた

「え」

 

エイシンフラッシュ

「?」

 

あなた

「今の結構破壊力あったぞ」

 

エイシンフラッシュ

「そうでしょうか」

 

本人は本当に分かっていない。

 

あなた

「反則だろ」

 

エイシンフラッシュ

「意味が分かりません」

 

あなた

「だろうな」

 

あなたは苦笑する。

 

その晩、彼女は部屋の机の上で参考書を開くが、昨晩同様全く手が進まない

 

原因は明白だった。

 

『特別な呼び方』『嬉しい』

 

自分で言った言葉を思い出してしまう。

 

エイシンフラッシュ

「……」

 

(なぜあのようなことを言ったのだろう)

 

だが、嘘ではなかった。

 

あなたにだけ呼ばれる名前。『フラッシュ』

 

その響きが嫌ではない。むしろ好きだった。

 

エイシンフラッシュ

「……」

 

そこでふと気付く。

 

(もし他の誰かが同じように呼んだら、たぶん少し嫌だ)

 

(なぜ?)

 

数秒後、彼女は顔を伏せた。

 

答えに近付いてしまったから。

 

この時ばかりは、流石の彼女も日頃の分析する癖を憎いと感じていた。

 

翌日の昼休み。

 

あなたは中庭へ向かう。

 

するとそこには、既に彼女がいた。

 

だが、様子がおかしい。

 

何か考え込んでいる。

 

あなた

「フラッシュ?」

 

エイシンフラッシュ

「!」

 

突然声をかけられて、彼女は驚いてしまう。

 

あなた

「大丈夫か?」

 

エイシンフラッシュ

「はい」

 

あなた

「本当に?」

 

エイシンフラッシュ

「本当にです」

 

だが、少し沈黙した後、彼女はぽつりと言った。

 

エイシンフラッシュ

「一つ質問があります」

 

あなた

「おう」

 

エイシンフラッシュ

「私達は友人ですよね」

 

あなた

「そうだな」

 

エイシンフラッシュ

「……」

 

あなた

「?」

 

エイシンフラッシュ

「友人は」

 

ここで言葉を区切り、少し迷った後

 

エイシンフラッシュ

「会えないと寂しいものなのでしょうか」

 

あなた

「!」

 

その瞬間、あなたもようやく気付き始める。

 

この感情は、もしかすると友達以上なのかもしれないと。

 

そして二人はまだ知らない。

 

この数週間後、初めて二人きりで出掛けた帰り道。

 

夕焼けの駅前で、エイシンフラッシュが初めて自分の恋心を完全に自覚することを。

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