第9章 変わり始める距離
恋を自覚した翌日。
エイシンフラッシュはいつも通りに起床した。
そしていつも通り朝食を取り、いつも通り身支度を整え、いつも通り登校する。
完璧だった。
問題は、あなたを見た瞬間だった。
あなた
「おはよう、フラッシュ」
エイシンフラッシュ
「っ……お、おはようございます」
あなた
「?」
明らかに様子が変だった。
自分でも分かる。昨日までは平気だった。
しかし。
『好き』
その結論に辿り着いてしまった今は、顔を見るだけで落ち着かない。
あなた
「大丈夫か?」
エイシンフラッシュ
「問題ありません」
実際は、問題だらけだった。
昼休み。いつもの中庭。
2人はベンチに向かい合って座っているが、彼女の心は全く落ち着いていなかった。
あなたが笑えば、嬉しい。
あなたが話せば、もっと聞きたい。
目が合えば、心拍数が上がる。
原因は全部分かるし、自覚もある。
だから余計に困る。
そしてあなたは、そんな彼女の反応に気づいていない
あなた
「フラッシュ?」
エイシンフラッシュ
「はい」
あなた
「今日は静かだな」
エイシンフラッシュ
「そうでしょうか」
あなた
「何か考え事?」
エイシンフラッシュ
「少々」
嘘ではない。むしろ考え事しかしていない。
内容もあなたに関することだけ。
その日の放課後。
あなた
「なあ」
エイシンフラッシュ
「はい」
あなた
「最近避けてる?」
その言葉に彼女の心臓が止まりそうになった。
エイシンフラッシュ
「避けてはいません」
あなた
「そうかなぁ?」
エイシンフラッシュ
「はい」
あなた
「ならいいけど」
そう言ってあなたは少しだけ寂しそうに笑う。
その表情を見た瞬間、彼女の胸は苦しくなった。
エイシンフラッシュ
「……」
(違う。避けたいわけではない。むしろ逆だ。)
(もっと一緒にいたい。もっと話したい。もっと知りたい。)
(だけど、そう思えば思うほど、あなたのことを好きだから意識してしまう。)
その晩、彼女は部屋の机の上に参考書を置くが、なかなかページをめくろうとしない。
その代わりに、立ち上がって本棚に向かうと、以前友人に勧められたが読まずに置いたままだった恋愛関連の本を手に取って開いてみる。
だが、数分後彼女はため息と同時にその本を閉じる。
エイシンフラッシュ
「参考になりません」
理論書を読むは得意だ。分析も得意だ。
しかし恋愛は想像以上に非合理的だった。
翌日の昼休み。
あなた
「フラッシュ」
エイシンフラッシュ
「はい」
あなた
「今週末空いてる?」
その瞬間。
彼女の時間が停止した。
エイシンフラッシュ
「……」
あなた
「フラッシュ?」
エイシンフラッシュ
「はい」
あなた
「聞こえてる?」
エイシンフラッシュ
「聞こえています」
あなた
「なら返事を」
エイシンフラッシュ
「空いています」
彼女は食い気味に答える。
あなた
「即答だな」
エイシンフラッシュ
「予定はありませんので」
平静を装うが、心の中は大混乱だった。
あなた
「じゃあ出掛けない?」
エイシンフラッシュ
「……」
"また2人きりで休日に出掛ける"
あなた
「嫌ならいいけど」
エイシンフラッシュ
「行きます」
あなた
「早い」
エイシンフラッシュ
「合理的判断です」
あなた
「本当に?」
エイシンフラッシュ
「……」
少しだけ視線を逸らす。
あなた
「違うんだな」
エイシンフラッシュ
「否定はしません」
週末。待ち合わせ場所の駅前。
今日はあなたが先に来ていた。
あなた
「お」
あなたは彼女の姿を見つける。
そして、一瞬固まる。
あなた
「……」
エイシンフラッシュ
「どうかしましたか?」
あなた
「なんか」
エイシンフラッシュ
「?」
あなた
「今日すごい綺麗だな」
完全停止。
エイシンフラッシュ
「……」
あなた
「フラッシュ?」
返事がないが、耳だけは真っ赤だった。
あなた
「大丈夫か?」
エイシンフラッシュ
「大丈夫ではありません」
あなた
「えっ、もしかして体調悪い?今日は無理せずお開きにしようか?」
エイシンフラッシュ
「……いえ」
深呼吸。そして、
エイシンフラッシュ
「問題ありません」
あなた
「いや、絶対今何か問題あっただろ」
彼女は答えない。
なぜなら、好きな相手に綺麗だと言われて平常心を保つ方法などまだ知らなかったからだ。
帰り道。夕方の街並みをいつものように2人並んで歩く。
あなた
「楽しかったな」
エイシンフラッシュ
「はいとても」
あなた
「最近思うんだけどさ」
エイシンフラッシュ
「何ですか?」
あなた
「フラッシュといるとすごく落ち着く」
また彼女の心臓が跳ねる。
あなた
「何でだろうな」
エイシンフラッシュ
「……」
理由はたぶんあなたも気付き始めているからだ。
そして彼女はまだ知らない。
あなたがその日の夜に友人に
『フラッシュのこと考える時間が増えたんだけど、これって恋かな』
と相談することを。
二人の距離はもう友人には戻れないほどに確実に縮まっていた。