魔法少女適齢期 作:えごま油
「ママってさ」
「うん?」
「いつまで魔法少女やるつもりなの?」
「えっ」
早朝、学校に赴く娘にそんな疑問を投げかけられる。
確かにそうだ。
今年45になるおばちゃんがいまだに恥ずかしい格好をして怪獣に拳をぶつける作業は、年頃の娘にしてみればすごく恥ずかしいものかもしれない。
でもなぁ……私がやめたくとも世間様はそれを許してくれないんだ。
機関と結んだ契約もあるし。
「一応やれるまではやるつもり」
「そっか。じゃああたし、学校行くから」
「夕方までには帰ってきなさい。今日はパパも早く帰ってくるから。久しぶりに3人でお食事よ」
「わかってる。ディメンジョンの発生件数もここ最近多いしね」
「そういうこと」
娘も15歳。多感な時期なのだ。
良い歳した大人が現役魔法少女をしてるというのは、なかなか
ぶっちゃけ、時々そう思うし。
「ってさ、娘が言うわけよ」
「あちゃー、朝日さんはそれを、真に受けちゃってる感じですか?」
こんな話題を打ち明けられるのは、決まって同業者。
魔法少女養成機関。
私はいまだに所属しているこの場所で、後輩に愚痴っていた。
「今の魔法少女の多様化についていけないってのは実際感じてるところもあるからねー。
「今は徒手空拳が流行らないってのもありますからねー。私ですか? 私としては、そうですね。やっぱり朝日さんの時代を引きずっちゃってますから。今の子はぬるいなって思う時があります。じゃあ代わりにやれって言われても困るんですけどね」
「だねー」
私たちは前線から身を引いている。
魔法少女といえど、あり方はピンキリだ。
後輩の中ではいまだに現役で活躍している子もいるけど、流石に私は表社会から身を引いている。
美桜ちゃんはサポーターとして、そして私はアルバイトとして魔法少女事業に関わっている。
「でも朝日さんの世代くらいですよ? 素手でディメンジョンの装甲割れるの」
「えー、今の子割れないの?」
「割れませんねー。だから機関も朝日さんを要請しちゃうんですよ。割っちゃえばトドメは今の子達でも刺せますし」
「世知辛いわねー」
自分が魔法少女になった時代、割れるのがデフォルトだった。
けどそうか、今の子は割れないんだ。
だからいまだに私にオファーがかかるのか。
「ガジェットの出力に適応できない子が多いみたいで。やっぱり強い魔法少女適性がないと魔法少女としての格が下がってしまうみたいです」
「今の子ってそんなに適正低いんだ?」
「低いですねー。今はガジェットが当時より高機能化して魔法少女のスペックはそこまで依存してないんですけど。それが現状の問題に上がるくらい適正低下が深刻化しています」
「あらー」
自分の世代ではB級以下は落ちこぼれだった。
A級とかわんさかいた。
それでもディメンジョンの脅威に多くの命が散っていった。
その時代を生き残った魔法少女は、私みたいに子育てしてるか、美桜ちゃんみたいにいまだに機関に席を置いてるかの二つにひとつ。
肉体欠損もデフォルトであったから、女としての機能を失った子も多かった。
私はタフだったから、そこが唯一の救いかな?
「それより朝日さん、素敵な旦那さん、どこで見つけたんですかー? 私ってば、ご結婚された時も寝耳に水だったんですよ?」
美桜ちゃんは今日も元気だ。
独身を極めてると他人の恋バナに遠慮がない。
「一応、幼馴染だったのよ。仲間を失って落ち込んでた私を励ましてくれたんだ。そこから急激に距離が近づいて、って何を言わせるのかなー?」
「もー、少しくらい良いじゃないですか。バンバン惚気ちゃってくださいよ。ここ最近景気のいい話全然ないんで」
大体ディメンジョンのせいだ。
あいつら休日も関係なく襲ってくるから。
と、そこへ懐かしい顔が現れる。
「あれ、
「よっ」
扉が開き、出頭したのは顔馴染みの魔法少女だ。
少女と言ってももう30も半ばだろう。
現役魔法少女は全盛期と遜色ない顔立ちなのでわからない。
それを言ったら私も四十五にしてはだいぶ若い見た目をしている。
魔法少女に立候補するそのほとんどが美容目当てと言われるくらいに、華々しい見た目をしているんだよね。
中身は体育会系もいいところだけど。
青い長い髪が特徴で、氷の属性を操る魔法の担い手だ。
それはそれとして肉弾戦も得意としている武闘派でもある。
うちの世代ってこんなのばっか生き残ってる感じ。
最後は拳が勝敗を決める的な。
「セイレーンさんお久しぶりです。京都出張どうでした?」
「相変わらずあっちは平和で良いわねー。ディメンジョンも一ヶ月で要塞級が10体くらいしかでなくて楽させてもらっちゃった。それでも陽性が来るくらい、今の魔法少女の適性低下が問題視されてるわね」
やはり事情はどこも変わらないか。
「10体かー。こっちは今日だけで15体よ? 私もさっき出勤がてらに装甲割って、今報告しにきたとこだし」
「お疲れ様です。サンシャインさんが
「ほんとですよねー。でも娘さんからはよく思われてないみたいなんです」
「は、何それ?」
セイレーンちゃんは訝しむ。
こわいこわい、そんな顔娘の前では絶対にしないでよ?
とはいえ、誤解を解くためにも説明はする。
この子、思い込みが激しいからね。
「実はうちの娘にさー。ママはいつまで魔法少女やるつもりなの? みたいに言われて」
「は? この街の防衛をサンシャインさんに任せているから自分が活躍できるのにどの口で?」
「ステイ、ステイ。セイレーンちゃん落ち着いて」
「気持ちはわかりますけど、子供の言うことですから」
この子は何かにつけて私を引き位に出すぐらいの厄介オタクだ。
昔ピンチの時に救ってあげてからその傾向が強くなった。
ただし行動が行きすぎていて、ファンを通り越して崇拝してくる感じのポジションになりつつある。
あまりそう言うのはやめて欲しいんだけどな。
「誤解があるようなので補足しますが、どうも朝日さん、娘さんに自分がどこの地位にいるか話してないみたいなんです」
「そ、自慢するのもダサいし内緒でね」
「あー、そう言う事情ですか。相変わらずですね。いっそ暴露しちゃえばいいのに」
「それはそれで面倒ごとの種になるかもだしさ。ほら私って今の世代の魔法少女の顔全く知らないから」
「もっと興味持ちましょう? そうだ、今度お酒の席も受けますよ。そこで私がどドンと紹介するので」
「それってタダ酒?」
「美味しいご飯もつけますよ。どうです?」
「ちょっと楽しみ。最近ご飯も満足に味わう暇もなくて」
「いいですねー、その飲み会、私も参加しても?」
「澪ちゃんもきてきて。6期生の同窓会よー」
「1期生の私が参加して楽しめるといいなー」
ビ────、ビ────!
と、そんな楽しい会話に水をさすアラート。
ここはディメンジョン激戦区。
ちょっとした雑談も満足にさせてくれないのである。
「と、出撃要請だ。美桜ちゃん、場所は?」
「地区は青葉町の繁華街。偵察級が4、母艦級が1。今担当地区の魔法少女が出動してます」
「私は行かなくて良さげ?」
「一応討伐確認だけお願いします。出向いたのはC級に上がったばかりの子達なので」
「りょ」
確かに母艦級にC級を向かわせるのは心配だ。
ディメンジョンはその等級で体格は千差万別。
特に母艦級は兵士級を無限に産む厄介極まりない存在だ。
バリア破壊で消滅するとはいえ、そのバリアを実力不足で破れない今の魔法少女には荷が重い。
「あ、私着いてって良いですか?」
そこへ、先ほど機関したばかりのセイレーンちゃんが乗り気で話に入ってくる。
まるでコンビニへの買い出しに付き合う気軽さだ。
今の彼女にしてみれば、戦艦級などその程度でしかない。
Aランクの魔法少女はどこでも持て囃されて本当に羨ましい限りだ。
「セイレーンちゃん、今日のノルマは?」
「全部終わらせました!」
「んじゃ、久しぶりに散歩でもしよっか?」
「私も少しは腕を上げましたよ?」
「お。じゃあ勝負する?」
どちらが早く震源地に到着するか。
そんな勝負を開始する。
もちろん、負けるつもりはない。
「バリアキャンセラー、照射しました」
美桜ちゃんの声かけで、私たちは移動を開始する。
この街にはこのバリアキャンセラーという秘密兵器があるからこそ、防衛率が高いというもっぱらの噂だ。
まぁ実際はそんなものないんだけど。
そこはほら、機関の秘密主義によって私の存在が秘匿されてるからね。
いつでも出動できるようにしとけってのはそういうことなのだ。
「んじゃ、よーいスタート」
手を振り上げて、振り下ろす。
そんな合図で、私たちは震源地に向かった。
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「相変わらず恐ろしいスピードですね。それでこそサンシャインさん!」
セイレーンの瞳はキラキラと輝いている。
それを同期の美桜は白い目で見ていた。
張り合うと言った側から置いて行かれている。
期待の星と言われている一方で、これほどの実力差を見せつけられてしまっているのだ。
「もう緑区に到着したみたいですよ? セイレーンさんはこんなところで油売ってていいんですか?」
「正直、まだ追いつける気がしないわね」
「同感です」
「でも、まぁ私もあの時のままじゃないのよね」
空間を氷漬けにして、その上を滑るように進んだ。
地上を進むサンシャインに対して、空を滑っていくセイレーン。
どちらもあっという間に見えなくなった。
それでも。
「朝日さんには間に合わないよ、セイレーンさん」
美桜がメールをチェックする。
そこには朝日から『バリアキャンセラー到着。そのまま帰るねー』という能天気な内容が記されていた。
しかし同時に震源干渉反応。
再度出動要請をする羽目になるのだ。
今日だけで実に20回以上、朝日には出動してもらった。
この街の防衛の要『バリアキャンセラー』とは朝日のことである。
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そこはまるで地獄絵図のようだった、
避難警告は出ており、封鎖区画となった場所には巨大な怪獣と、胴体から6本の足を生やした異形が10体。
街を壊しながら封鎖区画から抜け出そうともがいている。
魔法少女の張る封鎖結界は、怪獣だけでなく魔法少女も出れなくする仕掛けがあった。
出ていけるのは一般人のみ。
対してそこに介入できるのは同じ魔法少女だけで、担当地区の魔法少女は今回のターゲットがかつてない強敵であることを確認し、肝を冷やしていた。
「こちらC級ラブリーハート、状況確認。本部への応答を願います」
『こちら防衛本部。敵は母艦級と偵察級であることを確認。市民の避難を最優先に立ち回ってください』
「了解しました。バリアキャンセラー射出要請もお願いします」
『バリアキャンセラーの射出要請受諾。射出しました。到着まで少し時間はかかります。それまでの時間稼ぎはお任せできますか?」
通信機からは抑揚のある声で語りかけてくる。
現代の魔法少女は完全に『バリアキャンセラー』に依存した戦闘スタイルをとっていた。
「聞いた、みんな?」
ピンク色のツインテールの少女は、同席した三人に呼びかける。
近所の中学生の制服に身を包み、しかしその瞳は正義の心に燃えている。
現地は酷い有様だった。
正直たった三人でこの数を相手取るのはこわい。
怖くて逃げ出したいが、逃げ出さずに戦うと決めたのは自分の意思。
彼女たちは望んで魔法少女の道を歩んでいる。
「愚問よ、
黄色い髪を後ろで一つにまとめた少女が同調する。
承認欲求の高さから、三人グループの中で何かと事件に首を突っ込みがちだ。
それが功を奏して魔法少女として選ばれた。
まだ駆け出しではあるが、それなりに場数はこなしてきているという自負があ彼女にはあった。
「まずは応援ポイントを貯めないとだよ、
水色の髪を首元で切りそろえた少女が方針を述べる。
「そういうこと! 三人でこの窮地を切り開くよ
この世界における魔法少女の変身バンクは、強烈なヘイトを生む。
それは見るものに希望を与えつつも、襲撃者に絶望を与える存在の権限であるからだ。
「三つの勇気で、世界に平和を」
「穢れた魂を私たちが打ち砕く」
「青葉区担当魔法少女、ここに見参!」
「見よ、世界は愛に満ちている!」
「
<応援ポイント:0019>
:いいぞー
:いつもの
:ハートちゃんのボケっぷりを見にきた
:今はこんな子でも出動しなきゃならない時代か、世知辛いな
:こんな子言うな
:一生懸命頑張ってるんだよなー
:ならお前がやれ定期
:男はガジェット使えないんだよ
:そもそもできてたら苦労しないって
:俺たちは応援することでガジェットの力を増幅する係
:男でも活躍できるガジェット誰か作って
:無理
この世界における戦闘は基本的に配信を中心に置く。
外部出力であるガジェットの力を従前に扱うための基礎体力を、これまた外部出力であるエネルギーである<応援ポイント>に頼っているのが現状だ。
特にこの青葉区におけるディメンジョン襲撃回数は多く。
猫の手でも借りたい状況。
魔法少女の数は飽和しつつあるが、戦力はピンキリ。
そんな魔法少女でもディメンジョンを撃退すべく開発されたのが高性能ガジェットと応援ポイント、そしてバリアキャンセラーなどであった。
「それじゃみんな、見せ場を作るよ」
「兵士級はなんとでもなるけど、戦艦級はきついわね」
「流石に私丈じゃ無理だから応援よぼうよハートちゃん」
「それはもう呼んでるよ。私たちは一番乗りってだけだし」
「なら、それまでにランキングで数字は取っておきたいわね」
そこには戦いに命をかけているという感覚はない。
あくまでも宣伝目的。
まるで演目の役割を淡々とこなす役者の如く、自分の役割を全うするだけのやる気のなさを感じていた。
彼女たちだけで討伐できるかどうかを、みんなはそこまで期待していないのだ。
あくまでも本命が来るまでの時間稼ぎ。
それでも魔法少女ランキングに名前を残せれば、本人達は嬉しいのだ。
「みんなー、応援ありがとう! 敵はすごく強大! でも私たちのラブリーパワーでメロメロにしちゃうからね!」
「ほら、ハート。よそ見しないの」
「ごめーん」
「もらったわ! イエローハリケーン!」
「ナイスだよ、ドリームちゃん!」
「合わせるわよ、ハート!」
「うん、ラブリーマックスハリケーン!」
応援ポイント2000の威力で偵察級は一網打尽。
前座としての仕事は見事に果たした。
しかし戦艦級はびくともしない。
ディメンジョンの脅威は、まさにここにある。
全ての攻撃を弾いてしまうバリア。
そして、精神を侵す瘴気の散布。
魔法少女だけがこれに耐えることができて、打ち破ることができる。
だが、それは適正の高い魔法少女であればの話だ。
現役魔法少女は変身をすることで正気を堪えることができるが、バリア破壊については』バリアキャンセラー』に依存している。
あくまでそれが届くまでの時間稼ぎ。
届いてからは、討伐の奪い合い。
ランキングに上がれば、さまざまな優待券を受け取れる。
出資者の多くが魔法少女を広告塔に使いたいのだ。
そんなささやかな夢に憧れて、魔法少女に登録するものは後を絶たない。
そして、今まで一度も討伐報告をあげてこれなかったハートは、チャンスのように思うが。
それはまた違った意味でのピンチでもあった。
バリアキャンセラーの申請から5分。
まだまだ戦艦級は元気いっぱいだ。
到達報告はまだこない。
ハート達は初めて自分たちの状況があまり良くないことを察した。
いつもだったら見せ場を奪われておしまい。
けど今日は、いつまで経っても応援が駆けつけてこない。
<応援ポイント:2500>
:あー、惜しい!
:ちょっと救援来るの遅過ぎじゃね?
:バリア持ちはまだ早かったかー
:バリアキャンセラーまだー?
:これ、同時多発的にディメンジョン発生してるからかも
:どう言うこと?
:青葉区以外にも発生してる
:まじで?
:ピンチじゃん
:じゃあ応援こないの?
:ハートちゃん狙われてる!
:逃げて、ハートちゃん!
ハートに振り下ろされる戦艦級の鍵爪。
一瞬の事に回避行動が遅れたハートは、呆然としたままそれが振り下ろされるのを見送って……
「どっせい!」
横合いから聞こえてきた声と共に、要塞級がずっこけた。
核の直撃を受けてもビクともしない要塞級がふらついたのだ。
バキャァアアアア!
そして、唐突に。
大げさな音を立てて割れるバリア。
ちょっと間抜けな掛け声はバリアの破砕音と共に消失する。
少し遅れて、それがバリアキャンセラーなのだと理解するのに時間を要する。
バリアキャンセラーってあんな感じなのか、と理解した時に幅が好転していた。
「バリアキャンセラー到着確認」
「ハート、チャンスよ」
「うん、みんな力を貸して!」
<応援ポイント:4000>
:うおーー俺たちの応援を受け取れ!
:初めての討伐期待してます!
応援ポイント4000でも、バリアを砕かれた要塞級は倒しきれなかった。
ハート達には到底敵わない相手であることを自覚する。
そこへ、願ってもない救援者が到着した。
「こちらA級セイレーン。本部からの応援できたわ。状況を教えてちょうだい」
「セイレーンさん!?」
「A級の魔法少女が救援に?」
「確かに私たちじゃ手も足も出なかったけど」
「でも過剰戦力じゃない?」
<応援ポイント:6000>
:セイレーン様到着!
:お声をかけてもらえただけでもありがたいやろ
:雲の上の存在だもんなぁ
:これは売名チャンス
:セイレーン様、そういうの嫌うから
:あ、そうかぁ
:今の魔法少女のあり方を全否定してるまであるからな
:やっぱ拳でバリア粉砕できる人は違うわ
:今の魔法少女にそれを求めるのは酷やでぇ
「現状は把握したわ。まさかバリアを粉砕しても討伐できないとはね。あなた達、階級は?」
「Cに上がったばかりです」
「そう、なら仕方がないわね。後学のために見ておきなさい。これが、世界を守る姿よ」
そこから先は一方的な蹂躙だった。
セイレーンが拳を振るえば、バリアがあっても関係なしに吹っ飛ばされる要塞級の姿がある。
もはや応援ポイントなど意にも介していない様子で、ディメンジョンは消滅した。
応援ポイントを必要としない魔法少女。
それが世界の中でも一握りであるA級の本質だった。
「それよりも、私より先に向かった応援がいたのだけど見なかったかしら?」
「えっと、知りません」
「はい、バリアキャンセラーは確認しましたけど」
「もしかして今回のディメンジョン発生で他の方の応援に向かわれたのかと」
「そう、でもバリアキャンセラーの到着は確認したのよね?」
「はい、先ほど」
それを聞いたセイレーンは即座に携帯を取り出し、検索する。
そこで、バリア持ちのディメンジョンが同時にバリアを無効化された記事で埋め尽くされていた。
自分が到着した頃には終わっていた事件。
それだけにとどまらず、他のすべても同時に終わらせていたことに震えが止まらない。
「私も強くなった気でいたのになぁ、全然足りないか」
それがセイレーンの本音。
追いかける背中はいつまでも遠く、そして強大すぎた。
雲の上の存在がそんな風に悩む姿はハート達には理解できかねる。
「あの、その救援に向かってくれたのは一体どんなお方なんですか?」
「そうだね、今の世代は知らないか。魔法少女サンシャイン。初代魔法少女にして最強のS級魔法少女だよ。あの人は非常にシャイでね、あまり表に姿を現さないんだ。だからきっと、君たちにろくに挨拶もしないで他の現場に向かったんだろうね」
「S級!? 空席のはずじゃ」
ハートも同様に驚く。
魔法少女の階級はA〜Dと細かな数値で組み分けされている。
Sに板れる魔法少女は、それこそ多くの功績をあげた存在。
しかしその席は長い間空席であることは知れ渡っていた。
「あの人は辞退したんだ。自分はその席に座る資格を持たないってね。それから空席になってるよ。誰もが認める魔法少女ではあるんだけどね」
<応援ポイント:9999>
:聞いたことがあるぞ
:知っているのか?
:でも初代って確か、結構なお年じゃなかったっけ?
:30年前だもんな
:引退してすっかりおばちゃんになったって聞いてるけど
:まだ現役ってこと?
:しかも姿を隠してか
:俺たちを守ってくれてたっってことね
:はえー
「まさか……」
ハートにはいまだに現役で魔法少女をしている母の姿を思い浮かべる。
けど、流石にS級は盛りすぎだ。
きっと下っ端の魔法少女だろう。
家に帰ったら聞いてみようと思う。
一緒にチームを組んでいた友達は、今回のディメンジョン討伐におけるポイント移動でランキングを大きく更新したことを浮かれていたが、ハートは内心それどころじゃなかった。
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「ただいまー」
「おかえりなさい、ココア。ご飯できてるわよー」
「お父さんは?」
「まだお仕事。ディメンジョン災害の復興が入っちゃってね。さっき夕食を済ませて出掛けてっちゃった」
「その間ママは何か活躍したの?」
「したよー」
娘の視線が痛い。
私はこんなにも働き者だというのに。
ただ、まぁ録画していた2時間ドラマの佳境に入りつつある場面と、消費したお煎餅の数を鑑みれば、お昼から夕方までずっとこの有様なのは誰が見ても明らかだ。
なんの弁明もしようがない。
結局、真桜ちゃんやセイレーンちゃんとの約束はあのままだし。
後でメールの一つもくれたらいいけどね。
「あのさ、ママの活躍全然ニュースに取り上げられてないんだけど」
「ママは恥ずかしがり屋だからね。むしろこの歳であの格好するのすごい恥ずかしいんだよ」
「そんな性格で魔法少女やる意味なくない?」
「えー、私みたいなのでも全然活躍できる夢のあるお仕事だよ?」
「あたしはママを自慢したいのに、どこにも活躍してる場面がなくて恥ずかしい目に遭ってるって言うのに(ボソッ)」
「え?」
娘のボソボソとした発言が聞き取れずに聞き返す。
「なんでもない、ご飯は2階に持ってきて」
いつになくキツめの発言に、私は「もうそんな年頃なのね」とお赤飯を炊く準備をした。
反抗期の娘を持つ年頃になったのだ。
そりゃ45にもなって魔法少女はきついって。
見た目が若くても、中身は立派なおばちゃんだ。