魔法少女適齢期 作:えごま油
魔法少女の限界はいつくるのか?
それは引退した魔法少女の過半数が魔力不足を理由に上げる。
あるいはディメンジョンの装甲を破壊できなくなった、トドメを刺せなくなったのを引き合いに出す場合がほとんど。
魔法少女の限界はピンキリだ。
酒の席での話題はそこら辺が盛り上がる。
私は顔も知らない同級会に参加して、借りてきた猫みたいに話の聞き役に徹した。
正直に言うとね、居場所がない。
これ、本当に私が参加していい飲み会だった?
顔馴染みは全員遅れてやってくる。
まるで主役のような登場だ。
後で主催者を問い詰めないと。
私が飲み会の改まった連絡を引き受けたのは、セイレーンちゃんが遠征から帰還した二日後のことだった。
普段あんまり携帯を見ないのと、基本私の速度に携帯が持たない理由で所持していない場合がほとんどのためだ。
99件以上メールが溜まっていた時が背筋が冷えたよね。
あ、これは怒ってるかなって気が引けたもん。
中身はただのファンからの熱いメッセージだったわけだけど。
常日頃からバリア割り業者をしてるとね、作業自体は無感情になりがちだ。
自分が追いつくまでに10件終わらせていたことをやたらベタ褒めしてくるけどね。
そんなの昔ならできて当たり前だったんだから。
やれなきゃ死んでた。
そう言う世界だったんだよね。
「朝日さん、飲んでますかー?」
「あ、うん。飲んでる飲んでる」
「朝日さんの噂は予々。いつもうちの暴れん坊を御してもらって助かってました」
暴れん坊is誰?
セイレーンちゃんくらいの個性なら昔は掃いて捨てるほどいた。
むしろ可愛いくらいだったので頼りになる後輩だった記憶しかない。
美桜ちゃんは、気が利く後輩だった。
なんの役にも立たない私のいいところを探して褒めてくれた。
正直あの二人がいなかったら、とっくに辞めてたよね。
辞められてたかまでは定かじゃないけど。
気持ち的には今でも辞めたいって思ってる。
あの頃の私の個性は、ありきたりだったから。
全員ができて当たり前の最低保証。
それ一本で生きてきたと自負している。
「正直、今の子の戦い方は見ていてハラハラしますよねー」
そこにあるのは心配というよりも、そんな腑抜けた拳でディメンジョンを討伐できるのか?
みたいな野次だ。
先輩魔法少女のモラハラは今に始まったことじゃないけど。
10期生まではほぼ地獄めいた地域復興を課せられたからね。
だからこそ、今の世代に物申したい気持ちに駆られるのだ。
生きて帰ってこれるだけで十分だと言うのに。
まるで上から受けた仕打ちも誰かに受けさせてやりたいと言わんばかりにアルコールを摂取する頻度が上がっていく。
「そうだね。でも見守らなきゃ。自分たちの頃、応援ポイントなんてシステムがあればもっと多くのディメンジョンをやっつけられてた、って言う子も多いし」
「それに関してはそうなんですけどー」
「でも、バリアキャンセラーでしたっけ? あんなのに頼らずとも普通にバリア割れましたよね?」
絡んできた後輩は目を座らせて拳を握っていた。
流石セイレーンちゃんの同期。
拳で魔法をぶつけてた初代から正当な伝承を受けてきた魔法少女である。
酒が入って酔っ払った今も、確かな凄みを見せていた。
「割れてたねー、なんならバリア破壊は魔法少女になる最低保証なとこあったし」
「いやいやいやいや朝日さん世代は少しおかしいですよ。うちらは割れる子が入ったら御の字でしたよ?」
「世代の壁を感じる。これがジェネレーションギャップってやつか」
「えー、私たちそんなに年齢変わらないですよね?
「1期生と6期生には超えられない壁があるんだよ」
「なんですかーそれー」
グラスにお酌をされながら、私はいい気分でつまみを頬張る。
こう言う他愛のない話で盛り上がれるのもまた、魔法少女あるあるだ。
ジェネレーションギャップが激しいのは、元魔法少女と現役魔法少女だけではない。
初代と次世代でも当然ある。
特に私たちの世代は命がかかってたからね。
そこを比べるのは違うと思うよ。
「初代は有る事無い事言われてましたよね?」
「しょうがないよ。ディメンジョンに対抗できる手段は私たちが握っていたし」
世界の存亡をかけた戦いを、10代の少女に託したのだ。
それほど期待は大きかった。
しかし、私たちは失敗した。
ディメンジョンの討伐をし終えた頃には、守るべき存在は血の海に沈んでいた。
もっと早く倒していれば、余計な被害を生まずに済んだ。
半壊したビル、蒸発して更地になった民家のそばに泣き崩れる人々。
生きる希望を失った人々の注目は、
昔の私たちは、ディメンジョンを倒すのが仕事。
被害者をなるべく出さないのは当たり前だった。
今ほど魔法少女の数が飽和していない。
世界で初めて適正を受けた五人の少女。
その世代で生き残ったのは私一人だった。
みんな、私一人を置いて、勝手に私に未来を預けて満足して特攻した。
何もできない、足を引っ張ることしかできない私を。
2期生の顔は私への恨みつらみで溢れていた。
当時家族を失った少女が新しい魔法少女に抜擢された。
負の連鎖だ。
誰かの犠牲の上に成り立つ平穏。
魔法少女の屍の上で、私たちは暮らしている。
近年の魔法少女たちはそんな悲壮感を持たない。
アルバイト感覚で世界の平和の片棒を担がされている。
私はそれを、どこか羨ましく見ている。
もっと早くその技術が実装されていれば、犠牲は出なくて済んだのに。
あの子も、死ななくて済んだのに。
でもそれは、叶わぬ願望だった。
あの子が死んで、私がそれを握りしめた。
それが魔法少女がこの世に誕生した成り立ち。
あの子が託して、私が受け取った。
私が始めた物語だから。
私が勝手に幕を引くことはできない。
今はただ、見守ろう。
この世界の行先を──
「すいません、サンシャインさん! 遅れちゃいました!」
「うるさっ」
私の感傷をぶち壊してくれるのは、いつだってこの騒がしい後輩だ。
ベタベタくっついては、不甲斐ない私を褒め称えてくれる。
私はそんなに大した人間じゃないのに。
生きてていいんだって言ってくれる。
それがどれだけ生きる励みになったか。
彼女には感謝しかない。
「もぉー、セイレーンちゃん遅い!」
「ごめんごめん。なんか急にディメンジョン湧いちゃって。先輩は飲み会に誘ったし、その分は私がやるって引き受けちゃったから」
「ここ最近ディメンジョンの発生件数多いわよねー」
「本当、暇なのかしら?」
「いやいや、おかしいのこの青葉町だけだって。この前遠征行ったけど、静かなもんだったわよー? 冬眠してんのかってくらいほとんど来なかったわ」
「そうなの?」
「引越しも視野に入れようかしら?」
「でも娘がねー、せっかく友達できたし引越ししたくないって」
「そうなの? うちの子もなのよー」
元魔法少女の話題の一つ。
それが適齢期になった娘が魔法少女に目覚めやしないかと言う懸念。
今回の飲み会の集まりはほとんどが既婚者で、子持ち。
引退したらスッパリ魔法少女を諦めて家庭に入る人が多い。
いまだに現役なセイレーンちゃんや美桜ちゃんみたいなのは珍しいのだ。
「多分それ魔法少女になってチーム組んでる子ね」
「私たちに何も教えてくれないのよ?」
「実際、自分たちがそうなった時のこと考えても見なさい。両親に言えた?」
「言えなかったわね。つまり?」
「その可能性は高いってわけよ」
これもまた、魔法少女のあるあるだ。
親の許可を取らずに魔法少女になる子は多い。
主に仲間のピンチや、自分の願望のため。
自分の自信をつけるためにその活動を志すものは多い。
それだけ魔法少女がこの世界においての希望になり得ているのだ。
昔じゃ考えられない話だ。
「お待たせー、みんな。アイス食べるー?」
セイレーンちゃんの登場から少し遅れて美桜ちゃん登場。
手にはどっさりカップアイスをぶら下げている。
コンビニにでも寄ってきたのだろう。
少しお高いラインナップにすっかり庶民の暮らしに適応した魔法少女たちが沸いた。
「えー、こんなに高いアイスたべていいのー?」
「むしろみんなの活躍のおかげで今があるんだから享受しちゃいなさいな」
「それを言われたら仕方ない。謹んでお受け取りしましょうか」
「あはは、家族への言い訳を考える年齢になったってことだね。私ストロベリーもらい」
「あー! 私が食べようと思ってたのに!」
ここには平穏がある。
私たちの犠牲の上に成り立った平穏だ。
命を託された私は、あの子たちの分まで楽しまなくちゃいけない。
プリン味のアイスは私の喉を名前らかに滑り落ちる。
そんな私をよそに、セイレーンちゃんが横から余計な音頭をとり始める。
「美桜! ちょうどよかった。サンシャインさんの武勇伝をみんなに聞かせてあげて」
「おっけーセイレーンさん!」
騒がしい。
訂正。この騒がしすぎる後輩が揃うと、私の過去が有る事無い事捏造される。
それを否定する忙しない日々。
心地よいなと思った。
まだもう少し頑張ってみようかなって。
そう思えるのだ。