『鏡の魔法使いマリカ』は悪の少女である 作:薄汚いメトロン星人
サンは『魔法天使マリカ』である
——私は魔法天使マリカ。
——私は魔法天使マリカ。
——私は魔法天使マリカ。
——私は魔法天使マリカ。
——私は魔法天使マリカ。
——私は魔法天使マリカ。
——私は魔法天使マリカ。
——私は魔法天使マリカ。
——私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。 私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。 私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。私は魔法天使マリカ。
薄暗い部屋でノートにびっしり書かれた「私は魔法天使マリカ」の文字。それはかわいらしい少女が自己暗示のために書きなぐったものだった。
ドクター・セレニコは彼女が本物『鏡の魔法使いマリカ』に近づけるためにノートに書き取りを要求した。終わらなければ寝れないように部屋にアニメソングが流れる仕様になっている。
そしてさらに用意された部屋の模様替えが行われた。
今では『鏡の魔法使いマリカ』と『柊 みかん』の写真が大量に貼ってあった。偽物として生み出された『魔法天使マリカ』ことサンはオリジナルのことを勉強させられていた。
TVに映されるオリジナルのマリカの映像を死んだ顔でアンパンをかじりながら見る日課の後に鏡の前で練習をする。時折涙がこぼれることでアンパンの甘さに塩気が混じったりもした。
「……マリカってなんだっけ?」
たまにゲシュタルト崩壊を起こしそうになると彼女は顔をたたいて自分を奮い立たせた。こんな状況に追い込まれていることに対しての復讐心だけが彼女を支えている。
「ぐ、なんで私が、こんな目に……うう」
本物が言いそうなことを言い始めたのはどれくらい経ったころだろうか、教育の賜物であった。しかしあまり時間はなかった。そして本物はパン屋のバイトをして私利私欲のためにお金を稼いでいることはたまにサンにも知らさせていた。
とある夜である。
夜と言ってもこの部屋には窓がない。黒の太陽の化身であるサンは本物の太陽を浴びたいと感じる屈辱も何度も味わった。
自由時間もっぱらパソコンでネットサーフィンをしていた。SNSでのアカウントを開設して延々とそれを眺めているか、ショート動画を開いて「へへ」とか笑ったりする。
そのSNSのメッセージ機能から着信があった。サンは少なくとも誰とも話をしていたわけではないので訝し気に思いながらメッセージを開く。
–—オリジナルのために道化を演じて始末されるのは嫌じゃないかにゃ?
「……!」
サンにはこのメッセージの相手が自分のことをわかっていると理解した。わずかな情報から相手のことを想定できる聡明さが彼女にはある。いったんはセレニコの監視でこのメッセージがばれることも考えたが、あのずぼらな性格ではそれはないとサンは断定した。
–—あなたは誰?
–—さてさて、誰かにゃ。でも君はこのままならザングルゴール皇帝とセレニコの策略でマリカに倒されるだけにゃ。
「ふむ」
ここは馬鹿ふりをするべきだろうかとサンは考えた。しかしできるだけ本物近いように返事をしてやろうとも思った。
–—ふふ。わかってないわね。私のことを誰だと思っているの? この私がそう簡単に倒されるわけないわ。それよりもあたたは誰?
送信を押した瞬間。サンは「あなた」を「あたた」にしていることを気が付いた。
–—私の名前は幻惑のシャドウ。魔の四天王の一人にゃ。あたたのオリジナルと同じ存在と言えばいいかにゃ。あたたはマリカのために人間に奉仕して善行を行った後に倒される計画らしいけど、きっとあたたのためにはならないにゃ。
(ぶっころすぞ!)
顔を赤くして悔し気に臍をかむサン。だが下手に反論はしなかった。
–—魔の四天王が何の用? 私は私の任務を果たすだけよ。
そんなつもりはないが、サンは相手の反応を待った。
–—そこでにゃ。善行で人間たちを集めた後にそいつらを始末するってぶち上げるにゃ。
「……へえ?」
サン残忍な顔をした。
計画の要旨としてはこうである。
ザングルゴール皇帝とセレニコは『魔法天使マリカ』に善人としてふるまわせた後にマリカに倒せて『鏡の魔法使いマリカ』の悪のイメージを取り戻そうとしている。しかし『幻惑のシャドウ』はそれを利用してむしろ善人としてふるまった後に人間を集めて始末する計画の上書きを提案した。
「……狙いは何かしら?」
–—悪人としてふるまっちゃえば『鏡の魔法使いマリカ』は貴方を始末する動機はなくなるし、人間たちを始末するくらいの悪事をすればザングルゴール皇帝も貴方を怪人として生かしておくって計画にゃ。どう?
「……」
サンは顎に手をあてて考えた。
(あのぽんこつ……むしろ私が悪事を働いた方が私に向かってくるのではないか?)
資料の中では『鏡の魔法使いマリカ』は火事から少女を助けたという話もある。そんな人物が自分が人間たちを始末するとして黙っているだろうか。
サンはここに閉じ込められているときずっと『鏡の魔法使いマリカ』について考えていた。動画も見ながら『柊 みかん』としての生活風景も動画で見た。
推理する。
「この『幻惑のシャドウ』はむしろ私を悪人にしておいて『鏡の魔法使いマリカ』に倒させたいってこと……になる? でもなぜ? ……」
しかしサンはそこで思考を打ち切った。
ザングルゴール皇帝たちの策略に乗って善人としてふるまい。
最終的に悪人として本性を現して。
おそらくはのこのこと現れるぽんこつを始末する。
全てを裏切り、すべてを欺くことができる策略に彼女は邪悪な笑みを浮かべた。
そして彼女は『幻惑のシャドウ』の計画にも乗ることにした。
「くくく、このブラック=サンを利用している小娘どももザングルゴールもまとめて始末してやろう」
それくらい思ってないとこの生活は嫌だった。
☆☆
そして今、魔法天使マリカとしてサンは廃工場で『鏡の魔法使いマリカ』と向かい合っていた。
「あはははは! これが私とお前を取り巻くすべての計画だ」
マリカはすべての話を聞いて顔をゆがめた。
「私が、まるでぽんこつみたいに」
「……いや……そこはだれも疑ってないだろ」
「っ……ち、ちがうもん。じゃ、じゃああなただって。私を陥れるためにTVとかでぶりっこしてたじゃん!」
「……ぐぅ。あれは策略だ!」
「おいしそうな顔でケーキ食べてたっ」
「あれは普通においしか……そんなのどうでもいいだろ!」
サンとマリカは不毛な言い争いをした。どちらが本物ぽんこつか主題にしたディベートは互いに息を切らすまで続く。
「はあはあ。と、にかく。私はサン……黒の太陽の化身……。私をなめたやつらを含めて全員始末してやる。あの私を利用しようとした『幻惑のシャドウ』のようにね」
サンはポケットから一枚のガラスプレートを出す。そこには猫のような少女が映っている。『幻惑のシャドウ』が閉じ込められたガラスプレートだった。
マリカはそれを見て驚愕した。
「まさか、あなた鏡の魔法が使えるの?」
「くくく。私の体がお前のデータをもとに作られている。お前の魔法は使うことができる。……お前の最後は鏡の中に閉じ込めて屈辱を味わわせてから始末すると決めている。ああそうだ、ワールドエンドもつかえるぞ」
「……そんな!」
サンは顔の前にガラスプレートをもってにやりと笑う。
「そうだ、お前の近しいものもすべて消してやろう。この私にこれだけの屈辱を味合わせた報いを受けてもらう。悪の帝国の連中だけではなくお前の家族にも学校の連中も……な! あははは!」
その時、マリカの目から温度が消えた。
彼女は首を傾けて冷たい目でサンを見た。
「……私の家族と友達に手を出すって?」」
低い声。
その姿にサンは雰囲気の変化を感じたが。だが彼女も『鏡の魔法使いマリカ』をなめていた。
「そうだ。お前の近しいものは全員始末してやる」
「……そう」
マリカは目を閉じた。前かがみになり前髪がその目元にかかった。桃色の唇が少しだけ動く。
くすくすと笑う。
「……そんなこと私が許すと思う?」
「許すかどうか、お前が決めることじゃ……!?」
サンがマリカを見る。
そこには冷たい瞳があった。髪がかかり片方の目しか見えない。だが静かに冷たく笑う『鏡の魔法使いマリカ』は言った。
「お前は魔の四天王の本当の怖さを知らない。ワールドエンドが使える……? だから?」
彼女は魔法の杖を掲げる。そしてその周りに魔力が集まり始めた。
かつて魔の四天王の『閃光のバオウ』もそうであったように——サンはマリカの逆鱗に触れた。