『鏡の魔法使いマリカ』は悪の少女である 作:薄汚いメトロン星人
「くそ、どうすればいいんだ」
深夜。
東名高速道路のとあるサービスエリアに大型トラックが停まっていた。駐車線からはみ出した雑な停車に近くの通行人は眉をひそめたが、そのトラックのドライバーはそんなことを考える暇はなかった。
「くそ、私はどうすればいいんだ。教えてくれ。カ・マキリー」
運転席で頭を抱えるのはお菓子の粉のついた白衣を着た少女。足にはクロッカスと微妙に大型車運転には危ない。デニム生地のショートパンツから伸びた足を細い。
彼女はぐるぐる眼鏡を助手席に置いて裸眼であった。彼女は頭を両手で抱えたままうなっている。
悪の科学者セレニコだった。彼女は宮殿から逃げ出してここに来た。トラックの荷台には収容された『黒の太陽』の欠片が収められている。どこに逃げるのかまだプランはない。彼女の側近である「カ・マキリ―」はいなかった。
魔の四天王とそしておそらくはサンが襲ってくる可能性がある状況で頭を抱えるセレニコはどうすればいいのか迷っていた。
「くそ、……どうすれば……iDeCo……とNISA……どちらにすればいいんだよぉ」
ばーんと涙目でハンドルをたたくセレニコ。彼女は資産運用に悩んでいた。
セレニコは怪人と魔の四天王たちから横領したお金の詰まった銀行通帳を開く。桁は「10,256,278円」。横領した規模からすれば微妙に少ないのはいろいろと使ったからだ。だからこそ彼女は楽して増やす方法を考えていた。
「わかんねぇよぉ……。金利とか……どうすればいいんだよ……こうなったらFXに全部かけてみるか……、よくわからんけど」
追われていることは特に心配していない。楽観的な性格でありつつ終始てきとうでありながらわけのわからないことで悩む倒錯具合こそが悪の科学者を続けていたセレニコの性格そのものだった。
「まあ、いいかサービスエリアでラーメンでも食べよ」
突然普通の顔をしたセレニコは眼鏡をつけて度を開けた。落ちないように気を付けてトラックから降りる。ポケットに手を入れて足を上げて歩く。
「このままどこにいくのか~、九州でも行くか~」
即興のメロディで言葉を歌にする。深夜2時を回っているがサービスエリアの光が煌々としていた。流石に停まっている車は少ないが、まばらに駐車場には人がいる。だから最初セレニコは気にしなかった。
セレニコは立ち止まる。
サービスエリアの建物の明かりを背にして人影があった。それは大きく羽を広げている。
「やっと追いついた。ドクター・セレニコ……久しぶり」
不敵な笑みを浮かべる少女がセレニコの視線の先にいた。紫の髪が夜風に吹かれている。紫と黒のドレスを身に着けた少女。
「……魔法天使マリカ……なんでここに」
「その名はもういいの。私はブラック=サン。それになんでここにって? ……くくく……お前は私の『体』と一緒に移動していたんだから私がわからないわけないじゃない」
トラックの荷台に積まれた『黒の太陽』の欠片。セレニコは一瞬視線を自分のトラックに向けてからまたサンに視線を戻した。
「私からあれを奪うってこと?」
「奪う? 違うわ。返してもらうだけよ」
サンは自分の胸に手を当てる。その奥にはセレニコが埋め込んだサンのコア、『黒の太陽』の欠片が入っている。彼女は口角を釣り上げた。
「くだらない茶番はここで終わり。私は本来の私の力を取り戻してこの世界を焼き尽くすの……」
「…………あー」
セレニコはポケットからチュッパチュパチャップスという小さな棒にコーラの飴玉のついたお菓子を取り出して口に含める。まるでたばこのように。
「そうされると私は困るんだよねぇ。程よく悪いことをして程よくこの世界があったほうがいろいろとできるんだから」
「安心して?」
わずかにサンが浮かぶ。白い羽を広げている。
「あなたの人生もここまでだから」
サンの白い羽が徐々に黒に染まっていく。そして彼女は右手を伸ばす。その先に大量の魔力で生成された黒い炎が球体になっていく。
「まずは恨みもたっぷりとあることだし、セレニコ、あなたから焼き尽くしてあげる」
「……」
セレニコは飴をなめたあとにぺっとそれを地面にはきだす。かつんかつんと飴が地面で転がり。そして突如発光する。
「わるいけどさ~。私は適当に生きるからそういうのいらないんだよねぇ!」
飴が極大の光と主に爆発する。サンは「なっ……」と目を手で覆う。しかし一瞬だけその光をみてしまった。強烈な光が彼女の視力を奪う。
「くそ……くだらない真似を……」
光の中でエンジン音がした。サンはいちど地面に降りて、目をこする。だんだんと正常に戻ってく視界。巨大な影が走り去っていくのが見える。それは当然セレニコのトラックだろう。
「なめた真似をしてくれる」
☆
高速道路を猛スピードでトラックが走っていく。セレニコはアクセルを踏みしめて、スピードメーターは200キロを超えている。
ちらりとサイドミラーを見る。後方に追いすがる影。羽を広げた少女が迫っている。それはいちどトラックを追い抜いて振り返る。少女は夜の空でくすくすと笑う。
「どこにいくの? あなたの行く先は地獄だけよ」
「……ああ、そうかい! ぽちっとな」
セレニコはドアについたボタンを押す。トラックの側面が開いて多連装ロケットランチャーの砲台が両側に出てくる。それらは一斉に火を噴いた。
発射されたミサイルがサンを襲う。だが彼女はふんと笑い、羽を動かす。セレニコの作ったミサイルの追尾性能は人間社会の作ったものよりも高性能だった、それは凄まじい速さで羽を広げて避けるサンに迫る。
サンは優雅に踊るように羽を動かす。魔力の粒子がきらきらと光る。だがミサイルが外れても方向転換して戻ってくる。サンはふんと余裕の笑みを浮かべると、手を挙げて、指をぱちんと鳴らす。
一斉にミサイルが爆発する。
轟音とともに夜空を爆音と閃光が支配する。
「あははははは! 次は何?」
飛んでいくときに魔力の粒子をミサイルにまきつけて爆発させた。炎と熱はサンの得意な魔法だった。トラックは爆走する。蛇行運転をする中でセレニコは飴玉を口に放り込む。
「……このセレニコ様をなめるなよ!」
さらにアクセルを踏み込む。改造したトラックは加速した。ミサイルもトラックも横領した金で作った。
「逃げても無駄なのに」
サンは右手を伸ばして黒い炎の塊を作り出す。それを指の上に浮かせた。逃げていくトラックに照準を合わせて打ち出す。小さな球体が高速で動くトラックに音速で追いつく。瞬間小さな球体が数千倍に膨張した。
轟音。
花が咲くように広がってく黒い炎。爆風世界を揺らす。
「あははははは!!」
空に浮かぶ影が笑う。数日前に『鏡の魔法使いマリカ』にこの攻撃をしようとしたところ黒い球体ごと鏡に取り込まれた。だが今は誰も彼女を止められない。
エンジン音が響く。
爆炎の中トラックが駆け抜ける。表面が焦げ付いているがまだ動いていた。サンは何も言わずに表情をゆがめた。セレニコの作った特製の装甲車でもあった。セレニコは運転席でボタンを連打する。
「くそ、バリア機能がイかれた! 同じことをされたら逃げられない」
セレニコは走りながら次の手を考えていた。
しかし、彼女は驚いた。少し先の道にサンが飛び降りて、スカートをつまんで身をかがめる。まるで別れの挨拶をしているようだった。
サンが顔を上げる。狂気に満ちた優雅な笑顔をしていた。
「ワールドエンド『ブラック・サン・リアム』」
☆
破壊された車体が高速道路の中央で燃えていた。
サンの周りは黒い炎のが広がっている。
壊れたトラックの荷台から黒い欠片が浮かび上がり、それはひとつの球体になっていく、その球体の周りをまだ戻り切れない欠片が浮かんでいる。
サンは笑った。
「あははははははははははははははははははははは!!!……この世界は私が焼きつくしてやる。誰も、悪も、正義も逃がさない! すべてを灰にしてやるっ!! あははははは。私の願いは一つだけだ!!」
止めて
「すべての滅びを『黒の太陽』である私が照らしてやる!!」
彼女は炎の前で笑う。